SWIFT STUDIES "Message in a Bottle"
テイラー・スイフトの現在地を読み解く道筋
何が最高なのかを浮かび上がらせる
研究メモです!
目的(関心)はテイラー・スイフトの現在地を知ること。「最高」なのは何か。
アメリカ音楽の文脈を明らかにして、
その上にテイラー・スイフトを位置づけます。
明らかになった現在地から魅力を考察します。
1.0 はじめに
テイラー・スイフトが残したひとこと
“See you next era.”
2024年12月8日、ツアー“ERAS”が終演。
成功を記念したフォトブックが発売。その中に記されたメッセージ。
解釈は自由ですが、
これまでと今を考える上で念頭に置きたいひとこと
2.0 ポップスの軌跡
2.1 アイデンティティ・ミュージックの時代
シート・ミュージックからレコード盤へ。
複製可能、大量生産可能→アメリカ音楽発展へ。
日常的に音楽が流れる社会。
文化が芽生える重要な要素?
ビルボードによるヒットチャート
→レコードを扱う小売店から売り上げ数を調査し、ランキング化。ヒットの概念を生み出したのと、ポピュラリティの序列化(スターという概念)を生み出した。
1920年代よりジャンル別のランキングを開始。
白人の音楽:カントリー&ウエスタン
黒人の音楽:レイス・レコード(R&B)
2.2 ロックの時代 統合という共同的幻想
エルヴィス・プレスリーの登場
ミシシッピ出身、アングロ・アメリカ人。カントリー&ウエスタンをルーツとする。
サウンドにグルーブを乗せたロックの発明が1950年代より起こった。
ステージ上で体を躍動させるような激しい踊りにより人々を魅了したロックン・ローラー。
背景:19世紀のジム・クロウ法制定による人種差別が肯定された社会
ミンストレル・ショウ→白人が黒人に擬態して踊るショウ。
エルヴィス・プレスリーの功績
「白人階級が初めて、心身を全面的にアフリカン・アメリカンの音楽的表出に解放し、出会いと統合の幻想的空間を自らの内に確立したことである。」
―アメリカの芸術 p.202
2.3 ディスコ・ミュージック ポップ・ミュージックが輝いた時代
アイデンティティ・ミュージックの大衆化
→アメリカ社会は、グルーブによって生まれる身体の反射(踊り)によって共同的幻想体を生み出すことに成功した。
Ex. ヴァン・マッコイ/ジャクソン・シスターズ/ザ・ビージーズ
2.4 サウンド革新
電子音楽器は、ポップ・ミュージックに音楽的な表現(サウンド)の可能性を大幅に増幅させた。ダンス・ミュージックの領域で顕著にその傾向。
Ex. ダンス・マニア
2.5 失われた統合(ロック)の記憶
マイケル・ジャクソン、マドンナの登場→スターダムの時代へ。
CDやDVDの普及が背景として存在。
3.0 アウト・オブ・ポップス
3.1 2025年 グラミー賞ノミネート作品から
『TEXAS HOLD‘EM』(ビヨンセ)
・最優秀レコード
・最優秀楽曲
・最優秀カントリー・ソング
『COWBOY CARTER』(ビヨンセ)
・最優秀アルバム
『BODYGUARD』(ビヨンセ)
・最優秀ポップ・ソング
音楽はクロスオーバーの時代?
3.2 ミス・アメリカーナ(Ms. Americana)
ビヨンセに注目する理由
ビルボードによるビヨンセの評価
(21世紀最高のポップ・アーティスト1位選出に際した講評より抜粋)
“but only Beyoncé has spent the entirety of the last 25 years exemplifying greatness in every form imaginable.”
「ビヨンセだけがこの25年間想像できるあらゆる形で偉大さを示していた。」
ビヨンセのキャリア
・テキサス出身
→白人の音楽(カントリー・ソング)愛好者が多い地域の出身
・R&Bグループの元メンバー
→マイノリティー・ミュージックが出自
↓
ビヨンセは統合の象徴になった
(ミス・アメリカーナ)
【結論】
エルヴィス・プレスリーは、アメリカ人の精神の根底にあったマイノリティーの統合をロックン・ロールによって浮かび上がらせ、あらゆるポップ・ミュージックの原型を形成した。しかし、音楽産業の変化やサウンド革新を経るうちにその記憶は失われ、いつしかポップ・ミュージックは「統合の場」の意味を失った。
ビヨンセ自身はマイノリティーのルーツを持ちながらも21世紀スターダムの時代を上り詰め、本来自分自身のアイデンティティのバックグラウンドを持たない(持たないことに政治的背景:アイデンティティ・ポリティクスと重なる意味がある)カントリー・ミュージックへと統合の場を移すこと(アウト・オブ・ポップス)に成功しようとしている。
4.0 テイラー・スイフトの“ERAS”
“ERAS”という言葉への私の理解
アルバムそれぞれに色彩が異なる楽曲性
『Red』(2012):カントリー・ポップ
ジャンルの政治性を中和
『1989』(2014):ノスタルジア・ポップ
80年代風
『Midnights』(2022):シンセ・ポップ
心のメディシン
4.1 2024年 『The tortured poets department』
『Fortnight』グラミー2025
最優秀ポップ・ソング ノミネート作品
“And for a fortnight there.
We were forever.
Run into you sometimes
Ask about the weather.
Now you're in my backyard.
Turned into good neighbors.
Your wife waters flowers.
I want to kill her.”
率直な感想「なんか楽しそう」
押韻と短的な文の組み合わせ
詩的な構成とシリアスな情景描写
→芸術性の高さ
4.2 芸術性とは中立か
“Message in a bottle“
「言葉を投げかけることで何処かに共感してくれる人がいるかもしれない」
→人間的意識の統合
スイフト流のアウト・オブ・ポップス
芸術性はアメリカのアイデンティティ・ラインに干渉しない。
→アメリカ音楽は、アイデンティ・バックグラウンドなしには説明することができない。しかし、テイラー・スイフトの芸術性は「人間的意識の統合」に向かう。
人間的な意識はヒト本来の根源的な感情。アイデンティティ・ラインを容易に通過し、中立的な意味合いで社会に存在する?
【結論】
テイラー・スイフトは、“ERAS”の論理のもと、これまで芸術性を追求した音楽を模索してきた。アメリカ音楽が、アイデンティティ・ラインの文脈であるのに対し、テイラー・スイフトは共感という「人間的意識の統合」に成功し、全く異なった文脈で存在している。これはまさに、アメリカ音楽、アメリカ社会に対して中立であり、テイラー・スイフトは21世紀におけるアメリカ音楽にて特異な存在を示そうとしている。特異な存在とは、まさにテイラー・スイフトが持つ唯一の魅力であり評価すべき点であり、スイフト・コンテキストによれば中立とは芸術なので、テイラー・スイフトは芸術的であるところが「最高」なのである。
参考文献
大和田俊之著『アメリカ音楽の新しい地図』(筑摩書房、2021年)
斎藤眞・古矢旬著『アメリカ政治外交史』[第二版](東京大学出版会、2017年)
アメリカ学会編『アメリカ文化事典』(丸善出版、2018年)
末延芳晴著 『アメリカの芸術 現代性を表現する』「アメリカン・ポップスへの視座」(弘文堂、平成4年)
永富真梨著 『関西大学 社会学部紀要』 「カントリー音楽の多様性とアジア系アメリカ人:シンガー・ソング・ライター、ゲイブリーから考える」(2024年)
BillboardのHPより参照 (取得日2024年12月6日)
[https://www.billboard.com/music/pop/beyonce-greatest-pop-stars-21st-century-1235842572/]