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江戸・明治に学ぶ、働く楽しみ(動物とともに働き、暮らし、癒やされる)
江戸・明治時代の人たちにとって、「働くこと」は稼ぐだけでなく、日々の楽しみの中核だったと私は確信しています。彼ら彼女らの働き方は、私たちの多くとは異なり、①自然のなかで、②家族や仲間といっしょに働き、③目に見える成果を得るものでした。
ワークライフバランスではなく、ワークもライフも楽しむのが江戸・明治時代の人たち流。
この記事では、牛や馬、犬などと一緒に働き、心を通わせていた人々を紹介します。
1.仕事のパートナーは動物!
○牛馬と働く
ヘッダーの写真は田起しの様子です。
「鼻取り」(馬の誘導)をする少女の表情のやさしそうなこと。馬が引く鍬(すき)で土をやわらかくするのは、力持ちのお父さんの仕事。笑顔で娘と馬を見守っていますね。
牛馬は田を耕すだけでなく、薪や草などの荷物を運び、厩肥をつくってくれました。
働く動物は「使役動物」といわれますが、牛馬は心を通わせる「愛玩動物」(ペット)でもあったのです。
○牛を使った運送業者(牛方)の宿
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上は長野県小谷村に残る牛方宿の屋内です。
糸魚川から松本まで牛に海産物を載せて運ぶのですが、牛方が牛と一緒に宿に泊まれるようになっています。
しかも寝床は牛を見られる棚の上。牛のことが気になるのですね。牛は山道の運搬に適しているそうです。
もっと知りたい方はこちらのブログで↓↓↓
野宿のときは牛馬が人を囲んで寝ました。野生動物が近づかなかったからです。
○犬と狩りをする
犬と人間は一番深い関係です。
東北歴史博物館では縄文犬の展示がありました。当時も犬は人と一緒に暮らし、狩りを助け、死んだら丁寧に埋葬されたそうです。
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上は秋田犬博物室の展示品です。
秋田犬は猟師(マタギ/又鬼)の相棒で、獲物の場所を特定して獲物を足止めするだけでなく、マタギが危険になったら獲物の注意をそらすといいます。逆に、犬が危険なときはマタギが犬を守るので、まさに相棒です。
マタギは普段は農業などをし、晩秋から早春にかけては狩り小屋に泊まって熊やカモシカなどの大型獣を捕獲していました。
秋田犬は夏もマタギとともに生活していました。ちゃっかり熊の毛皮の上で休んでいますね。
ブログ記事のリンク:秋田犬博物室
2.役割をもっていた身の回りの動物たち
江戸・明治時代の人たちは、動物に役割をもたせていました。
害獣や見知らぬ人を追い払う番犬、穀類や繭を食べるネズミを追い払う飼い猫、庭に落ちた穀類を食べて卵を産んでくれる鶏、洗いものをしたあとの飯粒を食べてくれる鯉。
それぞれが仕事をし、人間と「愛玩」以上の深いつながりをもっていたのです。
動物とともにいる、しかもともに働くのは楽しい時間に間違いありません。
植物にも役割がありました。観賞用だけではありません。
植物は、今では廃棄物になっている米のとぎ汁や生ゴミの堆肥(コンポスト)を肥料として成長します。
ミカンの皮は薬(陳皮)に、花は摘んで仏花に、生け垣は薪に適した木にして、いざというときに利用しました。
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3.動物の世話をし、癒やされる
○馬への思いやり
一緒に働いていると動物へ愛着が湧いてくるものです。
山から木材を引き下ろす土曳きでは馬の足に負担がかかりました。長野県佐久穂町の男性は、馬の負担を少しでも軽減しようと、伐採現場まで行くときには木材と馬を繋ぐ道具を背負って登ったそうです。
また、土曳きのあとは馬の好きな麦をあげました。麦をあげると汗の出が違い、疲れからの回復が早かったのです。
牛馬は働く使役動物ですが、愛玩動物でもあったのです。
○ヤギの世話をし、自分が癒やされる
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私が2拠点居住している長野県ではヤギがビックリするほど働いています。田畑の横につながれて雑草を食べています。
ねずみ大根を絞ったつけ汁が人気の「かいぜ」さんでは、店の前の大根畑にヤギがつながれています。お店の人は「餌をあげなくても草でまかなえている」と言っていました。
ヤギのレンタルもあって、川原など足場が悪い場所でも除草作業をできるので大人気。順番待ちです。また、ヤギがいると畑に猿などの野生動物が近づかないとのこと。自然豊かな環境では、これは貴重な役割ですよ。
工場の雑草を食べるヤギは職場のアイドルになって、従業員を癒やしています。お世話係(当番制)の従業員は大喜び。
他県の田園地域でも同じかもしれませんが、ヤギはいまも役割をもった大型動物です。
FNNプライムオンラインの記事(長野放送)に詳しく書かれています。
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○魚にも癒やされる私たち
動物が人間のストレスを解消することは科学的に証明されているそうです。アニマルセラピーという療養法もありますものね。魚も、植物も私たちを癒やしてくれます。
400種類の熱帯魚がいる巨大店を取材した番組がありました。
じっと見ているのがいいと語る80代の常連男性、メダカを飼い始めたら会話が増えたという家族、コロナの影響で人とつながれなかったという看護師の女性は、小さな魚を支えに働いてきたと言います(『巨大熱帯魚店 小さな命のある暮らし』ドキュメント72時間、NHK、2021年8月20日放送)。
動物と暮らすことで私たちの幸福度があがります。
4.別れを悲しみ、命の大切さを知る
○売られていく牛馬への思い
1985年の朝日新聞には、「牛を大切にしてね」と手紙を付けて子牛を送り出した島根の繁殖農家の少女と、受け取った岩手の肥育農家の交流が報じられています(岩手県・牛の博物館展示品)。少女は牛に「クロ子」と名を付け、かわいがってきました。
1960年発売の歌謡曲「達者でな」では、馬を売りに行く人の気持ちが歌われています。
わらにまみれてよー 育てた栗毛 今日は買われてよー 町へゆく
オーラ オーラ 達者でな オーラ オーラ 風邪引くな
ああ 風邪引くな 離す手綱(たづな)が 震え 震えるぜ
大ヒット曲で私も覚えています。
60年前は牛馬を飼っている家が多かったので、歌と生活体験が結びついたのですね。今では流行らないと思いますが・・・
このような気持ちは動物を飼わないと起こりませんよね。
動物を大切に扱う、無論、人の命も大切にする、素晴らしい教育でもあると思います。
今も牧場を管理する人は一頭一頭の家畜を識別していますが、名前を付けると別れが辛くなるので、番号で呼ぶという人もいます。
○犬や牛馬の弔い
一緒に働く牛、馬や犬の健康を願い、死後の供養をする馬頭観音の石碑は全国各地に建てられています。
千葉県流山市の名主の日記には「馬繕いの日」という記述が頻出します。
休日にして馬の悪血を採るなどの世話をしたあと、祝いの会をもちました。馬をいたわる日ですね。
親しい分だけ別れ(死亡や売却)はつらくなりました。
同日記には〝飼赤犬病死、則、追善〟(1805年2月2日)との記載があります。犬のお葬式は昔からあったのです。
5.私たちも「動物とともに働き、暮らし、癒やされる」ことができるか?
ヤギが働いている長野県の例はさておき、「ともに働く」とまではいかなくても、「何らかの役割」をもってもらい愛着を深めることを私たちもできるのでしょうか?
答えはもちろん「できる」ですよね。
野生動物対策、泥棒対策として番犬を飼うのは、田舎住まいでは当たり前のこと。犬の役割があります。
対象を生物全体に広げると、世話がめんどうで嫌だ、飼う/育てる場所がない、という人でも役割をもち自分を癒やしてくれる生き物が見つかります。
たとえば「医者いらず」といわれるアロエ。ベランダの鉢植えでも元気に育ち、シェービングクリーム、保湿剤、火傷の薬、胃腸薬やジュースにもなります。私が子どものころ、何かといえば「アロエを折ってこい」といわれました。かってに育つし、育つとかわいいものです。
家庭菜園として人気の野菜のみならず、実用的な植物はあります。
また、野菜をおいしくしてくれる「ぬか床」の微生物への愛を深め、話しかけている人もいますね。
植物や微生物を育てるのなら、明日からでもはじめられそうです。
まとめ
自然のなかで、家族や仲間といっしょに働いていた当時の人たちは、動物ともいっしょに働いていました。
私たちは耕運機をやめて牛馬を飼うことは困難ですが(馬耕をしている人もいます)、生き物に役割をもってもらい、愛着を高め、自身も癒やされることは可能です。はじめてみませんか。
長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。
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