《創作短編小説》季節外れの七夕
「今日のお月さま、とても綺麗だよ!」
「こっちは雨だから見えそうにないや…」
そっかー…
遠距離恋愛だから、仕方ない。
そう言い聞かせて、かなりの月日が経った。
会えるのは年に数回。
まるで、織姫と彦星みたいな
そんな私達。
***
「来週、そっちに行けそうだから行くね!」
いきなり脈絡のないメッセージ。
あまりの出来事すぎて、頭が真っ白になる。
ちゃんと「現実ごと」として捉えられたのは次の日。
急いで有給休暇の手続きをする。
きっと、今年会えるのも、これが最後。
そう言い聞かせながら、「年に一度」の日を楽しみに待つ。どこに行こうかな。何を食べようかな。
そんなことを考えながら。
***
結局、
あれほど考えたスケジュールは
すべて予定通りにはせず、
その日の二人の気分で決めた。
文字だけより
音声だけより
比べ物にならないほど、幸せだった。
同じ空間を共有して時を過ごすということ。
***
文字通りと言っても過言ではない「夢のような時間」は、あっという間に過ぎた。
光陰矢の如し。
夢ではないと実感できるものは
せっかくの機会だからと貰ったボールペンと
鎖骨についた赤いバラの花びらである。
***
これからまた「いつもの日常」が始まる。
私達が「織姫と彦星」ではなくなる時まで。