夢を叶えた五人のサムライ成功小説【フライパンズ編】10
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
少しずつ少しずつ現実の世界に意識が傾く。
やがて眠りから目覚めた茂太は目の前のオカマの霊にハッと気づいた。
『おはよう、茂太』
『お、おはよう。今日は何故、たっくんの姿が見えるんだ』
『それなら気にする必要なんてないわ』
久々にその姿を見せたたっくんは、やけに清々しく妙に寂しげだった。
あまりにもこの前とは違った覇気のなさに・・・霊だから覇気はなくてよいのか・・・。
いや、そんなことはどうだっていい。
確実にこの前、会ったときよりは明らかに元気がなかった。
姿は見えなくても冷気と声からその様子は伝わった。
茂太は心配だったので、それとなく聞いてみた。
『あの~、二つばかり聞いていい?』
『どうしたのよ、深刻な顔をして』
『いや、この前より、随分と元気がないよね』
『そう、霊は本来、覇気があっては駄目なの。だからそこはスルーしてかまわないわ』
『ふ~ん、じゃ、もうひとつ。何故、この世から成仏できないの?それともしないの?いずれにせよ、本来の世界へ行くべきだよ』
たっくんは少し嬉しかった。
こんなにも自分自身を思ってくれる人間がこの世に居たなんて思わなかった。
それも自らが憑依した人間に。
思わず両目から雫が滴りだした。
『たっくん、今度はどうしたんだよ。霊も涙を流すのかよ』
茂太の優しさが心に響くのか、滴る雫はますます激しさを増し、鼻の穴からも流れ出した。
『きたね~なぁ。ここにティッシュがあるから拭きなって』
オカマの霊は次第に申し訳なくなってきた。
元々から悪意はない。
しかし、自分が憑依した責任でコンビを解散し、かたや売れっ子にいたり、かたや芸をする場から遠ざかり・・・。
オカマの霊は心にひっそりと誓いを立てた。
『私、茂太のために頑張る』
電車の沿線沿いにある住まいに暮らすため、列車の行き交う騒音がやかましい。
車輪とレールの磨耗やエンジン音が、現世に生きている実感を与えてくれる。
たっくんはむかついたが、茂太になだめられ、少しは落ち着きを取り戻した。
かくかくじかじか経緯と現状を伝えて、ようやく理解したたっくんは何を根拠に言っているのか、きっぱりと強い口調で茂太に言った。
『大丈夫。私にはまかせて。あら、でも嬉しいわ。誓いを立てたばかりだけど、さっそく頑張り時ね』
茂太はオカマのそれとは違うゾクッとする感覚を背筋に覚えた。
やはり、霊だからだろうか・・・。
正午になり、この日はまゆと打ち合わせで決めていた、出場者への意気込みを取材する日だった。
出場者六組は、前回に開催されたお笑いライブ【レッツ!美銀】のステージ会場にこの日集まる。
茂太は様々な思いに駆られた。
みんなは俺と会ってどう思うのか?
コンビ解散後、急に売れ出した元相方の弘樹はどう思うのだろうかと!