夢を叶えた五人のサムライ成功小説【フライパンズ編】14(ラスト)

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。


そんなときだった。
たっくんが茂太の隣に近寄った。
『かっこいいわよ。その調子よ』


柴田と弘樹は一瞬、たっくんが何かをしでかすのではないかと不安に刈られたが、これもまた要らぬ心配だった。


一瞬だけ、たっくんを見て頷く。
茂太は心の中から、ありがとうを何度も送った。

インタビューは終始、スムーズに進み、無事に取材終了を迎えた。
出場者とバンプーのスタッフ陣との座談会がこのあと予定されている。


参加予定だった茂太は辞退し、たっくんのことでどうしても優先的にしてあげたいことがあった。
それぞれが特設スタジオを後にする。
締めの挨拶はまゆが請け負った。

弘樹と茂太がコンビを再結成することはないが、二人の関係は公私共に深まりを見せていく。


弘樹はやがて大物のお笑い芸人へと成長し、冠番組を週に三本も持つ人気者にのしあがる。
茂太は今の会社から独立して起業し、映画製作まで携わる未来が待っている。


まゆとの結婚もささやかれはしたものの、二人がプライベートで一緒になることはなかった。

座談会が盛り上がりを見せている頃、茂太の住まい近くの公園ではたっくんと何やら話し込む二人を影から柴田がそっと眺めていた。


柴田は道行く人に葉巻の火を点けてもらうわけにもいかず、愛車にオプションで取り付けた全自動チャッカマンで葉巻に火を点けた。
愛車のベンツから身を乗り出す柴田。


二人の後ろ姿を、我が子を愛する母親のような眼差しで見守った。
数分経過しただろうか・・・。


口元を少し、微笑ませ、大きく息を吐いた。
葉巻の香りが煙と共に宙を舞う。
柴田はそっと身を屈め、エンジンを吹かし、闇夜の街を滑走していった。

『たっくん、いつまでこの世界にいられるの?そろともいるの?』
『実は私にも分からないの』


ほんの一呼吸の間をおいて茂太は言葉を切り出した。
『でもさぁ、何か未練というか、やり残した思いが強いから成仏できないのだろう』
一瞬の寂し気なたっくんの表情を見逃さなかった。
『さぁ、それも私には分からないの』

茂太はオカマの霊のたっくんに聞こうとして口元まで出た言葉を飲み込んだ。

そして一人、夜空を見上げて考えた。
この世界に居ないときは、どこで何をしているのだろう。

茂太は今、ようやく柴田がもたらしてくれた宝箱を開けたような気分だった。
柴田の存在が、いつも黙って見つめる柴田の思いが伝わっては消えない。


全身が震える。
いつしか涙がとめどなく頬を濡らした。
『茂太くん・・・』


たっくんが励ます。今の茂太くんならもう柴田さんが居なくても大丈夫よ。
彼はまた必ずあなたの前に現れるし、いつだって今だってエールを送っているわ。


そのことが私にはよく分かる。霊だからということもあるけれど、柴田さんへの感謝を一番、肌で感じているのは他の誰でもない、茂太くんあなたなのよと!

たっくんは一言だけ残してまた消えていった。
たっくんがいつまた現れるかは分からない。
もう二度と現れないかもしれない。


それはたっくんにも分からないかもしれない。
たっくんが何故、オカマであり、オカマの霊なのか、誰にもけして分からないように。

茂太はしばらく、その場から動かなかった。


そんな茂太をいつまでもこの街を照らす星たちが強く輝きを放っていた。
放ち続けていた。


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