夢を叶えた五人のサムライ成功小説【フライパンズ編】6
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
数日後。
茂太は柴田と約束していた待ち合わせである書店通りと呼ばれる並木道でひとり佇んでいた。
半時間も早く到着した茂太は一旦、並木道を離れ、建ち並ぶ書店の中から洋館を装った店内で時間を潰して待っていた。
普段は読まない書籍と向き合う。
心が落ち着き、コンビを解散したことが今では良かったと安心感に包まれる。
一方、弘樹はマネージャーの言われた通りにコンビを解散し、ピン芸人として早くも活躍していた。
それは弘樹本来の実力も確かには関係したが、何よりも所属事務所の意向に逆らわなかったこと、ひいてはその上司や社長、各番組のプロデューサーたちに反感を買わず、寧ろ彼らが望んでいた形を取ったことにあった。
弘樹は相方を売った訳ではないが、結果として出世を選び、芸能界ならではの縦社会の構図に見事、染まり、受け入れられ、可愛がられ、その末の現在の著しい活躍ぶりとなった。
茂太は几帳面で真面目、礼儀にうるさく、どちらかといえば社会にはそぐわない正直者で、こういった熾烈極まりない世界では爪弾きにされる性格だった。
今にしてみれば、茂太の後々を考えたなら結果として今回のコンビ解消は良かれだったとさえ捉えて構わないだろう。
そんな弘樹の活躍ぶりを知ってか知らずか、茂太は書店を出て並木道に戻ってきた。
そこにはすでに柴田の姿があった。
『柴田さん、すみません。早く来たもので書店に立ち寄ってました』
『いつ来ても、ここは心が和む』
『は、はい。そうなのですか?そうなのですね』
『茂太くん、君は無理に合わせて答えてないか・・・』
『いえ、そんなことはございません』
柴田は黒一色のスーツの上着の内ポケットから、葉巻と大きなチャッカマンを取り出して大きく溜め息をついた。
『君の欠点が見えたよ。お笑いの世界じゃその個性では限界がある』
『どういうことですか?』
柴田は葉巻をくわえ、チャッカマンを茂太に渡した。
『いい性格だ。だが欠点だ』
茂太は浮かない顔で葉巻に火を点けた。
『あの~、気になります。どういうことでしょうか?』
柴田は無視するかのように黙ったまま、手招きで茂太に着いて来いと言わんばかりに合図した。
数時間後、ふたりはリッツカールトンのレストランに居た。
二人を出迎えるかのように、ひとりの若い女性が大きな瞳をキラキラ輝かせて立っていた。
小柄だがキャリアウーマンさながらのオーラを彷彿させ、ミニの赤のスーツがよくマッチしていた。
彼女は二人の姿を見るや足早にやってきて、一呼吸おいて会釈のあと、挨拶を始めた。
『私は桜まゆといいます。柴田さんの秘書をしてまして、当社のライターでもあります』
茂太はあまりの可愛さに見とれ、頬を赤らめた。
言葉が出ない茂太に対して、まゆは更に言葉を続けた。
『私、フライパンズ・・・面白いと思いますけどね・・・』
その言葉が親近感をもたらしたのか、茂太の心が軽くなった。
一気に緊張感が消し飛んだ。
『ありがとうございます。知っていてくださったのですね。まだ完全には引退してませんから』
『そう、それは嬉しいです。安心しました』
まゆは柴田の顔に視線を移した。
柴田はそっと呟いた。