感想文:揺れる、踊る、透明な夜(サカナクション「ネイティブダンサー」)
この記事は、サカナクションの「ネイティブダンサー」についての感想文です。
2009年、サカナクションというアーティストが、「ネイティブダンサー」という曲を発売しました。
その年、わたしは、高校を卒業し、大学に進学。
大学生のあいだ、何度も何度も聴いた曲です。
生まれてから大学生まで、わたしは、ずっと北海道におりました。
メンバーのほとんどが北海道出身であるサカナクションというバンドに、わたしは同郷の親しみと共感を寄せていました。
特に、このネイティブダンサーという曲に、わたしは「北海道の冬」を強く感じます。
わたしは、作曲というか、音楽の構成というものに詳しいわけではありませんが、なぜか、この曲のメロディには、わたしにおける北海道的なものを感じたのです。
わたしにとって北海道的なもの、とは何か。
それは冬の夜です。
冬の夜空、しんと澄んだ冷たい空気。吐く息が白い、厳寒の空に降る雪。
気温は氷点下。空気中の水分は凍ってしまい、湿度を失った透明な夜。
美しいのだけれど、美しいだけではない。
すべてが吸い取られてしまったあとのような、残骸の夜。
残骸の夜に降る雪が、わたしの足跡を消していく。
この曲は、あの夜の雰囲気を、そのまま保存したような4分24秒。
さて、ネイティブダンサーとは、何だろうか。
歌詞のなかで、直接的な定義はありません。
辞書を開いて、「ネイティブダンサー」を文字通り受け取れば、自然の踊り子。
ネイティブ、天然で自然のもの、生まれつきの。
ダンサー、ダンスを踊るもの。
つまり、自然の踊り子。
では、自然の踊り子とは、何だろうか。
歌詞を見てみましょう。
淡い日に僕らは揺れた ただ揺れた
そういう気になって
思い出のように降り落ちた
ただ降り落ちた
そう雪になって
ーサカナクション「ネイティブダンサー」より
しんとした透明な夜に、ただ降り落ちる雪を見たことがありますか。
豪雪とは違う、吹雪とは違う、しんと降り落ちる雪。
ゆっくりと落ちてくる雪は、空気抵抗を受けて、ふわふわと揺れている。
揺れる姿は、まるで踊っているかのよう。
自然の踊り子とは、降り落ち、揺れる雪。
雪のように降り落ちてくる思い出に、こころが揺れてしまう。
思い出に、「僕ら」は揺れる。
降り落ちる雪が、自然の踊り子なら、思い出に揺ゆられている「僕ら」もまた、踊り子に違いない。
「僕ら」は、思い出という音楽に、身体を揺らして踊る、自然の踊り子。
さて、まとめましょう、ネイティブダンサーとは何なのか。
それは、ゆっくりと降り揺れる雪であり、こころが揺れる「僕ら」なのであります。
わたしは、この曲を聴くたびに、北海道のあの透明な夜を思い出します。
湿度を失い、雪だけが降る、残骸の夜。
ふわりと揺れて降る雪は、まるで、こころ揺れ踊るわたしのよう。
雪の上には、踊るわたしの足あと。
雪はわたしで、わたしは雪。
わたしがわたしの足跡を消していく。
この曲を聴くと、揺れる、踊る、透明な夜を、わたしは感じます。
おわり
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