
療育計画編04 自閉症早期療育:EIBI・ESDMは日本で実現可能か? 支援制度を活用する最適戦略
(前回のあらすじ)1歳半の息子タクヤの言葉の遅れをきっかけに、ITパパは早期療育の可能性を探り始めました。米国で主流のEIBIの週20〜40時間、ESDMの週15〜25時間という基準を知り、「日本の療育は強度が足りなすぎる」と絶望したITパパ。今回は、日本の制度を踏まえた具体的な戦略を考えます。時間軸では、EIBI、ESDMを検討した4日目から翌日5日目の話です。
日本の療育でEIBIやESDMに必要な個別長時間は可能か?
前回のお勉強で、米国の早期療育では、EIBIは最低週20時間、ESDMでも週15時間、SSTですら週10時間と日本の一般的な療育よりも非常に長時間にわたって取り組まれていることが分かりました。EIBIやESDMでは、この時間を個別療育で確保する必要があります※。
※ESDMは親による療育を含み、標準モデルでは専門家による療育が週10~12時間、親による療育が週5~10時間、親へのトレーニングが週1~2時間
これを日本の児童発達支援制度に当てはめて実現できるかを検討していきます。
まず、個別療育で長時間を実現できるかについて、保健センターでもらったパンフレット、都道府県による発達支援センターのリスト、民間ポータルやGoogleマップなども活用して近隣の発達支援事業所を片っ端から調べました(電話はせずネットのみです)。
結論から言うと、日本で1時間を超える個別療育はほぼ存在しません。
児童発達支援事業所のプログラムを調べてみると、個別セッションは1回45〜60分ばかり。EIBIのような「1日8時間の個別療育」は、日本では夢物語です。
「せめてABAベースの3時間の個別療育があれば、週6日で18時間まで確保できるのに…」と願いましたが、無いものは無い。諦めるしかありません。
つまり、本当のEIBI、ESDMは、日本の支援制度下では、無理です……。
※日本でも支援制度外でEIBIやESDM(というかABAですね)を専門に扱う民間機関もあるようです
どうすれば日本でEIBI、ESDMに近づけられる?
こういう時は、俯瞰して考えるのがITパパ流です。
前回調べた米国の自閉症ASDの早期療育のエビデンスを見ると、EIBIであろうと、ESDMであろうと、SSTであろうと、「長時間やらなきゃ始まらない」という点で一致しています。短時間で良いというエビデンスは皆無。
ならば、ITパパは、日本で可能な選択肢の中で、「時間的な強度を最優先で確保する」という方針に決めました。
すべてを個別療育にすることは諦めるしかないですが、中身も無視はしません。個別と集団のハリブリッド、言語聴覚士(ST)の有無やABAの導入、人員の多さ、質的な条件も見ています。でも、まずは「量」を軸に動く。これが日本版EIBI、ESDMへの最優先アプローチだと考えます。
それから、ITパパは、ESDMの最低週15時間を知った上でも、EIBIの最低週20時間をタクヤの療育で確保する目標に定めました。ITパパは割とEIBIに憧れがあったりします。
日本の発達支援制度活用の最適戦略
制度面の話から整理しておきます。日本の児童発達支援、通所受給者証でもらえる障害児通所支援は、月あたりの支給日数制です。そして、最大で一ヶ月の日数から8日を引いた日、22日や23日を越えないとGrokが言ってました。つまりは週5~6日が上限ですね。
それから、日本の児童発達支援には、「1日に1事業所かつ、1回しか通えない」というルールがあります。つまり療育の量(時間)を重視する観点では、1事業所の1回でどれだけの時間を確保できるかが勝負。
事業所ごとの1回のプログラム時間は大きく異なります。
1時間程度: FC系を中心に多く見かけますが……短い。
2〜3時間: 少しマシですが、まだ物足りない。
5時間: 調査の結果、これが日本の上限でした。
個別、集団の違いはありますが、時間の観点では.…考える必要すらありません。長い方がいいです。5時間一択です。
「通いやすい」を謳っている、1時間プログラムの所は、早期療育のEIBIやESDMの観点では相性が悪いですね。ただ、保育園、幼稚園帰りに通うなど、様々な需要がある事は理解していいます。そもそも通えない(ゼロ)よりは、1時間でも通う方がマシなので、ITパパも否定はしません。
あとは通いやすさ(立地や預かりかどうかなど)を含めた総合的判断ですね。これは既に別に扱っています。
一方、児童発達支援はなぜ5時間が最大なのか?
これには、厚生労働省による「児童発達支援(障害児通所支援)に関する報酬区分」が関係しています。厚生労働省の基準では、1日5時間までの預かりが報酬単価の上限。これ以上延ばしても事業所が得しない仕組みなので、5時間を超えるプログラムは存在しないようです。
制度設計の問題が垣間見えた気がしますが、ここで批判しても仕方ない。現実を受け入れ、どう活用するかを考えます。
いや、活用も何も、最適戦略の結論はもう出ていますよね。
「支給日をすべて預かり5時間の事業所に突っ込むのが最高効率」なのですが……少し考慮しなくてはいけないことがあるんですよね。
実践戦略:5時間の預かりにバックアップを組み合わせる
それではITパパはどうするのか。
ここから先の話は、療養計画編02とかなり被るので簡単に。
見学を申し込んでいるA事業所が、現時点での最有力候補。1日5時間の預かりでST常勤。週5日通えば25時間、週4日でも20時間。EIBIの最低ライン(20時間)を超え、ESDMの基準(15〜25時間)の上限まで届くほど。ESDMってそもそも純粋なABAじゃないし、これで日本版ESDM完成でいいんじゃね?
ただし、大きなリスクがあります。A事業所はまだ定員枠が確保できていないし、問い合わせた時点で週4日しか空いていなかったような……?
A事業所に希望日数通えなかった場合には、FC系D事業所をバックアップに設定。ここは車で30分と遠いのですが、個別1時間+集団1時間のハイブリッドでST常勤。また、見学可能日がA事業所より早いので(全ての中で1番早い)、決めれば通所受給者証の申請に進めるという目論見もありました。
それから、更にワーストケースのバックアップ。A事業所に1日も通えない最悪なケースに備えて、徒歩で通えるFC系E事業所も見学へ。ここは個別療育で1時間(45分?)ですが、STは居ません。でも徒歩で通えるので、受給日を余らせるくらいなら、ここで使ってしまおうという発想です。
療育を始めようにも発達支援事業所の定員オーバーを気にしなくてはならない現状、どんな種類の事業所だろうが、必要と用途に応じて使い分けていくのが良さそうです。
日本での支援制度の現実と向き合う
日本の現状に絶望してスタートした早期療養の検討ですが、日本の支援制度は、正直言って「悪くはない」と思いました。自治体や症状の重症度によりますが、最大で週5~6日まで支給されるなら日数は十分提供されています。1日に複数の事業者を使えない制限は不便ではありますが、日本の制度は「長時間の療育を受けるチャンス自体はある」とも言えます。
米国でEIBIを実施する費用は一般的に年間約4万~12万ドル(約600万~1800万円)で、典型的な民間保険では40%が自己負担です(ChatGPT&Grok&Claude調べ)。
日本では児童福祉法(第21条の5)の「障害児通所支援費給付制度」によって自己負担額は1割で、最大でも月額3万7,200円(年間44万6,400円)に押さえられ、更に3歳から就学まではこれも無料と、費用面では極めて恵まれているという捉え方すらできます。
一方で、EIBIやESDMのような長時間の個別療育がほぼ存在しないことは、大きな課題です。これは厚生労働省の「児童発達支援(障害児通所支援)に関する報酬区分」による影響が大きく、現行制度では「1日5時間の預かり療育」が事実上の上限になっています。結果として、「長時間の個別療育をしたいけれど、できない」状況になっているのです。
制度が整っていても、それを十分に活用できていないケースが多いことも問題です。例えば、検査待ちで療育開始が遅れたり、週に1~2回の短時間セッションで終わってしまったりする例も少なくありません(療育を考えるにあたって、1、2日目にブログ等の体験記を読み漁りました)。厚生労働省の「児童発達支援ガイドライン(2019年版)」でも早期療育の重要性が明記されていますが、現場ではまだ十分に浸透していないと感じます。
これについては過去の回でも述べています。
米国でEIBIが強く支持される背景には、「ASDの早期療育に投資すれば、その後の支援コストを抑えられる」という「投資型支援」の考え方が根付いていることに由来しています(Buescher et al., 2014)。単なる福祉ではなく、将来的な自立支援の一環として、早期介入を積極的に進めるべきだという発想です。
これは本来、日本でも同じことが言えるはずです。
将来的な支援コストを押さえられて、子供の未来も切り開けるなら、これほど素晴らしい投資はないのでは?
日本の支援制度は「悪くはない」。「1日5時間の預かり療育」なら、今の制度でも可能なのです。
だからこそ、親が主体的に動き、支援制度を最大限活用しながら、積極的に早期療育を進めていくことが重要だと感じました。
ITパパは別に制度を論じる立場ではありませんので、これくらいにしておきます。タクヤの父親として、受けられる支援を最大限活用していきます。A事業所のような条件面で理想的な事業所を見つけられたことは、タクヤの早期療育を考える上での希望の光ですね。
続く。