ずるさ

この世、本当に羨ましくて狂いそうになるくらい「ずるさ」の塊みたいな人間がいる。私はその人がくれるずるさの温かさが好きだ。
ずるさは温かいけれど、優しくない。私にとって1から100まで有難くて、相手も善意でそれをしてくれているのなら、私はそれをずるさなんて呼ばないだろう。
もっと奥の方で、自分をよく見てほしい、自分を好きでいてほしい、そう思ってるのに加えて、私のことをそんなに好きじゃないから、ずるいのだ。おなじだけを返してくれないくせに、与えてほしがるから。


私はインターネットだと可哀想と言って貰える下に弟がいる長男だから、家での役割は常に「全てを家に施すこと」だった。恨んでもないけど、感謝もし切れないような中途半端な親は、ずるくはなかった。私に好かれたいという気持ちがないから、つめたかった。その冷たさが苦手だった。
だからといって、全ての好意を一心に向けられると怖くなる。私は、自分が何かを施しても戻ってこない愛情に絶望して、でも同時に慣れているから。私が何もしてないのに好きになってくれる人は奇妙だ。可愛げがある訳でもないし、可愛くもない、怯えて汚い捨て犬(デカイ)みたいな、微妙な気持ちにさせる存在だと自分を認識している。
だから、丁度いいのだ。別に私を好きではないけど私に良くしてくれるひとは、私に優しくすることでなにか満たされてるから。そしたら私も安心して尽くしてあげられる。そんな気がする。私の周りの友人はその「ずるさ」を使って上手くひょいひょい生きてる人が多い。男も女も、交友関係が幅広いわけでもないけど、そういう魅力で人を惹きつけて離さない。少数精鋭の彼、彼女Loverで周りを固めている。私とは大違い。

愛されて生まれた人には分からないかもしれないけど、世の中には生まれた瞬間から愛されていない人というのもいる。私の母は過度の子供嫌いだ。私のことも相当嫌いだったようで、私と写った写真などほとんど無い。反対に父は子煩悩だった。でも、小さい頃、父は鬱でふさぎこんでいて、私に構ってる余裕なんてなかった。少し大きくなった頃、単身赴任し始めた。私には家に味方が居なくなったも同然だった。
弟が生まれた。弟は何故か愛された。私は今思い返すと、母は女嫌いなのだと思う。生意気で、自分をわかってくれない女と、昔少し顔の良かった母を全て受けいれてくれる馬鹿みたいな男。ただでさえ、言葉を覚えて、可愛げの無くなった私。
知恵袋で、長女を好きになれませんと相談している母親が多いことを最近知って、そんなに私だけ特別嫌な思いをしたとも思ってない。

私の否定はそれで終わらなかった。私は子供であることも、大人っぽく振る舞うことも、頭が良くなることも、悪いことも、女の子らしいものを持つことも、男の子みたいってからかわれて泣くことも、夢を見ることも、許されなかった。家にいることをいっそ許さないでくれたら良かったのに。私は多分可愛いものとか好きだったけど、全部全部ダメって言われてきた。何度も何度もショックなことはあったけど、私は髪を長く伸ばすのが好きだった。それをはじめのうちは黙って見てたけど、女らしいのが気に入らないのかなんなのか知らないけど、気づいたら汚らしい、切りなさい、と言われるようになった。大事に伸ばしてた髪を切らされた。それ以来、伸ばすのが怖かった髪をまた伸ばさせたのも母だった。短いのも長いのも気に入らない。目に見えて私そのものが気に入らないと言ってるような気がした。可愛くないからプリキュアもピンクとか赤とか黄色の服が欲しいって言ったのに、買ってもらえなかった。お金が無いからとかもっとマシな言い方があったのに「ブスが何着ても見苦しいだけでしょ」と一蹴されたのをよく覚えてる。その横で、変身ベルトを買ってもらう弟に文句すら言わせて貰えなかった。私は悪いことをしたのでしょうか?
いつしか、私は女に生まれたこと自体悪いことなんじゃないかと思うようになった。それと同時に男なんて大嫌いだと思うようになった。私の方が先に生まれたのに、男だから大事にされて、甘やかされて、ずるい。そう思うしかなかった。そうじゃなきゃ、私に原因があるみたいで。
女に生まれたから、理不尽に毎月苦しい思いして、死にたくて仕方なくて、おじさんにジロジロ見られて、ケツ触られて。
それよりも、私は女に生まれたから愛されなかった。きっと私が長男だったら今頃運命は違った。
そう思うと、悔しい。
女だから、男だから、とか、くだらないけど、そこにあってしまう概念だから。私は男になれないし。今の日本に性差を感じずにいられる瞬間はまだあんまりない。家もそうだ。女という性別を心の底から恨んでいる。
なのに、私はそれでも女の子が好きなのだ。
女の子はずるい。
私に優しくするのが上手いから。
女の子は馬鹿だ。
それが嘘だってバレないようにするのが下手だから。

男の子も女の子も、私以外みんなずるい。
ずるい。
ずるいとずるさは違う。
ずるいは、冷たい。味わいたくない。
ずるさは温かい。
とても甘い。
人工甘味料みたいな味。

ずるさを体現しているみたいな人をすきになったとき、楽しいと同時に辛かった。どれだけやっても肩透かしを食らうような感覚。何を思っているのかまるで見えてこないのに、気のないお返しがやってくる。私を一瞬喜ばせて、すぐに絶望させるあれが、私にはあまりにも惨いと思う。それでも気がないからこそ存分に味わえるし、美味しく感じられる。
私は1度味わって、やめられなくなった。今も。
私にずっと優しくしてくれる人なんて、他にいなかった。好きな物も嫌いな物も覚えていてくれる、時間が築いた信頼関係とお互いの情報が、私には希薄だった。
私のことを、わかったフリされたかった。


はじめから愛されることができたら、いま、私は人工甘味料なんかを美味しいって思わずに済んだのに。

アレってね、発がん性物質含んでるらしいよ。





あの人に愛して貰えなかった今日を。


『女の子は誰でも』-東京事変






2024.09.05


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