京都大学 かつきさん「海外大学入試で全落ちしたあと見つけた進路」
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■ なぜ海外大学入試に全落ちした?
・落ちこむ間もなく毎日のように不合格通知を受け取る
能登: かつきさんは、海外大学入試と日本の大学受験の両方を経験されています。まず、海外大学入試の体験について教えてください。
かつきさん: 海外大学に十数件出願しましたが、すべて落ちました。
アメリカの大学の通常出願だったので、3~4月に次々に通知を受け取ったのですが、来るもの、来るものぜんぶ落ちていて。落ちこむ間も吹っ切れる間もなく、毎日のようにどこかの大学から不合格の通知が来たんです。
でも、毎日のように聞いていると慣れました。
最後の米国大学の合否発表日が、京都大学の入学式の日と同じだったんですよ。入学式に向かうバスの中で最後の不合格通知を見て、「よし!」と言って入学式に出席しました。
能登: 吹っ切れた(笑)。
かつきさん: 「こんなに落ちるもんなんだな、なら仕方ないや」と。自分なりにベストを尽くした結果が無理なら仕方ないな、と思うくらいにはがんばったので。
でも、今思えば反省点や、もっとやっておけばよかったと後悔もしましたね。
・海外大学への挑戦を決めたのは高2の冬
能登: なぜ海外大学に挑戦しようと思ったのか? 何が原因で不合格になったと思うのか? ぜひお話を聞かせてください。きっと、海外留学に興味のある生徒さんや保護者の方に役立ちますので。
かつきさん: 実は、高校2年生の冬までは海外大学を目指そうとはまったく思っていませんでした。
僕がいた高校はほとんどの人が東大や医学部を目指す学校で、東大なら理科一類かなと思っていましたが、「自分もこのまま流されていいのか?」と思い、高2の冬に自分自身を理解する時間をとったんです。
東大を目指す理由が明確ならそれでいい。でも、理由が見つからなければ、自分にはまた別の選択肢があるかもしれない。それで、「まだ選択肢を試してもいないのに東大を目指すのは後悔する」と感じました。
自分自身を分析すると、「オープンにはっきりと意見を言い合うのが好きだ」「周りの人と何か話し合ったりアウトプットを出したりするのが好きだ」と考えて、海外大学のほうが自分の性に合うんじゃないかと思いました。
海外大学を一度目指してみて、それでダメならスパッとあきらめて日本の大学に行こう。そう決めました。
能登: 高2の冬にそう決断して、ご両親はビックリしたんじゃないですか?
かつきさん: 「突然何を言い出すんだ、お前は東大に行くんじゃないのか」と言われました。
でもそのときの僕は真剣で。色々言われましたが、僕も一度言い出したらある程度やるまであきらめられない性格なので。
それで、海外大学を目指すには何をすればいいか調べ始めました。奨学金について調べたり、海外留学の説明会に参加したりして。そのときは親も手伝ってくれたけど、親も初めてのことなので全然知らなくて。
色々調べた結果、アメリカの大学を目指すなら TOEFL や SAT などのテストを受けないといけないし、課外活動にも参加しないといけないと分かって。それで最初に参加した課外活動が DECA JAPAN の起業家教育プログラム&ビジネスプランコンテストでした。
・不合格の原因は、大学や学部を選ぶ基準があいまいだったから
能登: アメリカの大学だけでも 4,000 以上ありますが、どういう基準で大学や学部を選んだのでしょう?
かつきさん: 最初はレベルの高い大学を見ていて、アイビーリーグやそれと同列のリベラルアーツカレッジに出願しました。
学部については、自分はあのとき、教育にちょっと興味があったのですが、心理学や哲学にも興味があって。それで「心理学や哲学を融合して学びたい」と書いたけれど、いま見たら自分が何を学びたいのかハッキリしない。大学から見ても、「結局この生徒は何をやりたいのだろう?」と思われても仕方なかったと思います。
能登: 進路を選ぶ基準がハッキリしていなかった?
かつきさん: はい。アメリカの大学は学力、課外活動、エッセイなどで総合的に人間を判断する傾向が強いと思っていたので、「もしその大学に僕が入れるのであれば、その大学はすごく自分に合っている場所なんだろう」と期待していたんです。
それで、自分で進路を決めるというより「自分がその大学に合っているか大学に決めてもらおう」と考えて、色々な海外大学に出願しました。
能登: ストレートに言うと、進路を自分で選べなかった。
かつきさん: はい。日本でも進路を選べなかったのに、海外大学を目指したときも自分で選べなかった。進路選択を自分で決めず、相手にゆだねるような出願をしたのがダメだったと思うんですよね。「自分はこうなりたりから、ここでこれを学びたい」というハッキリした目標があった方が大学から見て魅力的なので。
能登: 結果だけを見ればハッピーではないかもしれませんが、今のかつきさんを見ていると、それでも全力で挑戦した体験がものすごく生きていると感じます。
かつきさん: それは間違いないです。海外大学を目指したことは自分にとって間違いではなかったと思います。
■ なぜ京都大学 教育学部に決めた?
・教育で人が変わるところを見て進路が決まる
能登: 結局、京都大学 教育学部に特色入試(総合型選抜、旧 AO 入試)で合格しましたが、ここを選んだ決め手は何だったのでしょう?
かつきさん: GTE / DECA JAPAN 生徒会活動で、自分たちで起業体験プログラムを立ち上げたことがきっかけです。
この生徒会活動、生徒会メンバーの高校生自身がメンター役となり、参加した生徒にアドバイスしていましたが、そのときに衝撃を受けたことがあって。参加した高校生の中で、「やる気はあるけど普通の高校生だな」と思っていた生徒が、そのプログラムで劇的に進化したんです。
その生徒は、2週間のプログラムの最初は「どうしたらいいですか?」と受け身の姿勢だったのに、最後はすごく主体的になって、積極的に色々取り組むようになった。「この人の成長に自分が関わることができた」と、すごくうれしかった。初めての体験でしたね。
人間ってホントに変わるんだな、教育って人を変える力があるんだな! と衝撃を受けたのが、教育学部を選んだ理由です。
能登: 今までは理科一類と答えていたのに教育学部にするなんて、驚かれたでしょうね。
かつきさん: はい。「なんで教育学部に入ったの?」と結構聞かれます。でも、みんなが思うより教育の世界は広く多様で、可能性があり、変化し続けています。
教育が変われば育つ人が変わり、人が変われば日本社会も変化しますよね。実際に教育学部に入ってから、それをより実感するようになりました。教育学部を選んでよかったです。
・起業家教育で一番良いのは、人が主体性を獲得できるところ
能登: あと聞きたいことは…… うーん、かつきさんとは高2の冬からずっと一緒に活動してきて、インターンもしてもらっているから色々な話をし過ぎていて、今さら何を話せばいいか分からない。難しいね(笑)。
かつきさん: 本当、そうですよね(笑)。
能登: そうそう、かつきさんは GTE / DECA JAPAN 生徒会の第一期生徒会長を務めましたが、なぜ生徒会長に立候補されたのでしょう?
かつきさん: そうですね、アントレプレナー教育(起業家教育)に価値を感じたからだと思います。
アントレプレナー教育の一番良いところは、人が主体性を獲得できること。いま何が問題なのか、何が必要なのかを自分の頭で考えて、状況を整理した上で、実際に行動に移す。アウトプットしていく姿勢を学ぶことができる。
生徒会メンバーの高校生は海外のトップ大学を目指す生徒が多く、色々な課外活動でリーダーシップを発揮している人ばかり。「すごいリーダーばかりのグループで、俺が生徒会長でいいのか!?」と正直、気おくれしていたのだけど。でも、「この活動に価値を感じて行動を起こしたのは自分だ。実際に行動した強みはみんなに負けない」と思って生徒会を運営していました。
能登: アントレプレナー教育を体験して主体的になれたことで、進路が見つかったのですね。
■ さいごに、受験にのぞむ高校生にメッセージを!
・大量の課題をこなすと自分の限界が拡大する
かつきさん: 全力でフル稼働してみてください。僕が高校3年生のときはずっと、自分のキャパシティがどんどん更新されていくような感覚があったんです。
例えば、1週間分の受験勉強が必要な場合、今まで1週間かかっていたのに4日間で同じ成果を出せるようになりました。
能登: すごいですね! なぜそんなに効率的になったのでしょう?
かつきさん: そうせざるを得なくなったからです。仕方なく、自然とそうなりました。
自分たちでプロジェクトを立ち上げると、本当に時間がなくなるんですよ。実際にプロジェクトを運営したりする時間だけでなくて、企画など考える時間も必要ですし、自分自身が落ち着いて切り替える時間、メンタル的なことも含めて時間がとられる。勉強する気になれないときもありますし。
1週間分の勉強が必要だとしても、3日間は課外活動に時間をとられて、勉強に割ける時間は4日間しかなくなります。4日間で、1週間分の成果を出さないといけない。
「より短い時間で結果を出すにはどうするか?」と頭をフル回転させて、全力で稼働するしかない。そうせざるを得ない。
能登: 日本の大学受験と並行して海外大学入試もするとなると、課外活動やエッセイ作成、TOEFL や SAT などの試験も必要になりますものね。
かつきさん: はい。今までこんなに大量に何かをこなしたことはありませんでした。それが自分のキャパシティの限界を拡大していったのだと思います。
・人の意見をまとめる経験をすれば、成長できる
能登: 文部科学省への政策提言で、他の学校の生徒との関わりで学んだことはありますか?
かつきさん: 最初は大変でした。みんなバラバラのことを言っているように見えたので、どうまとめればいいのかと。
でも、「チームでビジネスプランを作ったときと同じだな」と気づいて、バラバラの意見をうまくまとめる方法を学びました。
能登: 政策提言書とビジネスプランが同じ?
かつきさん: はい。最初はチームのみんなが別々の問題意識を持っているけれど、ビジネスプランにまとめるときは「皆が共有している問題で、かつ、解決策を提案できるもの」を選ぶ。それが見つかるまで、お互い議論を尽くす。
文部科学省への政策提言でも同じだと思ったんです。みんな言っていることがちがうように見えて、実はみんな同じことを言っているんじゃないか、「同じ根っこがあるんじゃないか」と。それなら、議論してお互いの問題意識を共有できる。同じ問題意識が見つかると、段々みんなの意見を絞り込むことができるんです。
能登: チームをまとめようとがむしゃらに努力したから、解決策が見つかったんですね。
かつきさん: そうですね。それと、他校の生徒と話していると、「考え方が全然ちがうな」「自分のいる学校にはダメなところもあるし良いところもあるな」と、他校の生徒を通して多様な考え方に気づきました。それで自分のコミュニケーション能力もちょっとはマシになったと思うんですけれど。
能登: 1時間ほど話していて「かつきさんの内面、心が成長したんだな」と、とても感じます。
かつきさん: 内面の成長は自分自身も実感します。高校にただ通って、大学受験をするだけだったら絶対に身に付かなかった。「良い学校を学校の外に見つけたな」と感じます。