から揚げは男の港だ〜書籍『男気大飯店』より
「はんぱじゃねえ、マブい味」。下板橋の愚連隊出身特級シェフが
渾身の技術とともに見せる「ココロの中華」を食卓に。
小学生的笑いと中年のペーソスとともに解説する女に食わせる男の中華。
青年が、オヤジが、そして、男がココロから洗われる会心の料理術。
電子書籍たまらんブックス『男気中華飯店〜外苑前の熱烈中華・シャンウェイの秘密』特別キャンペーン
料理監修・佐々木孝昌(青山シャンウェイ・シェフ)
イラスト・渡辺コージ
わたしはから揚げはしっとりしていてなんぼという考えを持っている。白州次郎言うところの「プリンシプル(英国流紳士のマナー)」では、わたしの場合、から揚げは、口のなかを切りそうなガリガリしたタイプではなく、醤油の風味でしっとりとしていなければならない。
先日、話しをしていて、ある女子が「世のなかのおいしいから揚げって、サックリでしょ? しっとりなんてあるんですか?」と暴言を吐いた。わたしは返事に窮した。最近、から揚げが流行っている。もともとから揚げは流行るとか流行らないとかそういうものではないと思うのだが、巷ではから揚げの専門店などもできて、マスコミなどもいろいろとうるさい。そのうるささのひとつがこの「サックリ」揚げるというヤツなのである。
「なかはジューシー、外はサックリ」。あたかもから揚げを食べる人全員がその状態を待ち望んでいるかのような言い方にわたしは目眩すら感じる。
から揚げとは男の港だ。ドライでどうする、カリカリでどうする。しっとりとして、やわらかくて、少しひんやりしているけど、それはそれでまたジューシーで。そういう器の大きい港のようなから揚げが待っているからこそ、(森進一が『冬のリビエラ』で歌っていたように)「男ってやつは港を出て行く船」のように安心して日々の航海に出かけられるのである。
お弁当に入っていたママのから揚げを思い出せ! アレはサックリなんてもんじゃなく、ベチャベチャになっておにぎりといっしょにこんがらがってたではないか。でも、とびきりにうまかった。
マザーの味。そう言われりゃそうだ。シャンウェイのセコンドの大内くんも「いやあ、から揚げ頼む女子って、あんまり見たことないっすよね」と言う。そう、だからこそ、このから揚げを食わせ、港たるものの真髄をわかってもらう必要があるのだ。
シェフ・タカマサは言う。「から揚げのポイントは下味だ。生姜、醤油につけ込み、卵黄を混ぜた後、ひたすら揉む。揉んで揉んで揉みまくる。やさしく、ていねいにていねいに。本当は半日ぐらいかけてかわいがってやりたいところだが、まあ、2時間で勘弁してやろうというぐらいの気持ちだ」。
油の温度はあまり高くなりすぎないように気をつけ、少し時間をかけながら揚げていく。あまり水分を飛ばしすぎない。そして、女子向けにひと工夫。
「甘酢を制する者は女を制する」(シェフ・タカマサ談)。
最後に玉ねぎ、赤ピーマン、金針菜(ユリの花のつぼみ)などで彩りした甘酢餡かけをかければ、女も癒す「港」の完成だ。(続きは書籍で!)