再録「あのときアレは神だった」〜関武志
テレビアニメ、漫画、スポーツ、アイドル歌手などなど。
実在の人物から架空のものまで、
昭和にはさまざまな「キャラクター」が存在した。
われわれを楽しませたあの「神」のようなキャラクターたち。
彼ら、彼女たちの背後にはどんな時代が輝いていたのだろうか。
懐かしくて切ない、時代の「神」の軌跡を振り返る。
(2016年より、夕刊フジにて掲載)
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野球界のスーパースターが逮捕され、彼と同じ球団にいた元プロ野球選手(N投手)がテレビ画面に登場した。
土木作業用のヘルメット、ボサボサの頭髪と伸び放題のヒゲ。そこかしこに転がる酒瓶と、まるでセットのような廃虚的風景。うつろなまなざしと滑舌の怪しいしゃべり。その登場の「絵」はあまりにもインパクトがあり、関係各方面から、「そこ、話おもしろくしてどうする!」と激しい突っ込みが相次いだ。
その元同僚氏のたたずまいに「いい悪い」はない。ただそこには、ある種のデフォルメされた「キャラクター」がある。
黄色い土木作業用ヘルメットにニッカボッカ。汚れたランニングシャツに腹巻き。千鳥足の足取りの片手には一升瓶がぶーらぶら。
「ダメだよ、おじさん。そんなところから入ってきちゃ。早くあっちに行って」
客席の後ろの扉から舞台へと「乱入」しようとする関武志は、舞台で待ち構える(警備員役の)ポール牧に、こう怒られていた。「コント・ラッキー7」、お約束のギャグである。時は1960年代後半。いまやYouTubeでも見ることはできない幻の光景だ。
「肉体労働者」「酔っぱらい」を「キザ」で「インテリ(風)」(のキャラ)がからかうという、「趣き」がありすぎるネタが強烈過ぎて、いまではとんと見かけなくなったスタイルだが、意外にもその系譜はコント・レオナルドや、『オレたちひょうきん族』の鬼瓦権造(ビートたけし)あたりまでは、連綿と引き継がれていた。
最近では、関係各方面への配慮から姿を消した「キャラ」であったが、まるで社会か、あるいはテレビ画面上のバグであるかのように、2016年の「お茶の間」に突如蘇った。これは、いったいどのような「神」のいたずらなのか。とっくの昔に鬼籍に入ったラッキー7のふたりには、もはや聞く術もない。 (中丸謙一朗)