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再録「あのときアレは神だった」〜笠智衆
テレビアニメ、漫画、スポーツ、アイドル歌手などなど。
実在の人物から架空のものまで、
昭和にはさまざまな「キャラクター」が存在した。
われわれを楽しませたあの「神」のようなキャラクターたち。
彼ら、彼女たちの背後にはどんな時代が輝いていたのだろうか。
懐かしくて切ない、時代の「神」の軌跡を振り返る。
(2016年より、夕刊フジにて掲載)
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笠智衆は1904(明治37)年の生まれである。わたしが小学生だった71(昭和46)年に、笠は67歳だった。
71年スタート、森田健作主演のテレビドラマ『俺は男だ!』では、主人公「コージ」を見守る「おじいちゃん」を演じた。
都市部への人口流入と核家族化が進行する時代。「ああ、あんなおじいちゃんが家にいたらいいな」と多くのこどもたちが思った。そんなおじいちゃんだった。
笠はもともと「老け役」が多く、劇中で「おじいちゃん」を演じていた映画『東京物語』(小津安二郎監督、53年)出演当時、笠はなんと49歳であった。
この長年に渡る「老け役」の好演は、天性のものか、あるいは鍛錬によるものかはわからないけれど、とにかく、老人の悲哀や気品を表現するさまは、天下一品だった。なかでも、わたしが感心していたのは、笠智衆の日本酒をうまそうに飲む「さま」だった。
彼はとにかくうまそうに日本酒を飲む。それがこどものころ、親に連れられ実家を訪れた夜、晩酌を始めるおじいさんを見ながら、「なんておいしそうにお酒を飲むのだろう」と思った気持ちと重なる。
自分がいつも見ている父親のそれには、ため息やほほ笑みや、こどもにはわからない、多少の緊張をはらんだ「おとなの事情」が混じる。
だが、おじいちゃんの晩酌には、もっとゆったりとした、隠居の身が醸し出す「余裕」や「あきらめ」が入り交じる、なんとも言えない「ほんわかした気分」が感じられた。
『東京物語』をもう一度見なおした。
「連れ合い」を亡くした後の家族が集った宴席シーン。
長女役の杉村春子にたしなめられながら、おじいちゃんはグビリと酒を飲んだ。その「さま」が格別にうまそうで、焼酎党のわたしが、その晩はどうしても日本酒を飲みたくなった。 (中丸謙一朗)