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「SEIKO時計広告」の考察




1. なぜアイデアとして優れているか?

コピーによって時計のメタファが浮かび上がる

一見、時計と、それに止まるハチのように見える絵だが、コピーが入ることによって全く違う見立てが成立する。
このビジュアルの凄みは、「花」を思わせるような要素をどこにも配置しておらず、ましてコピーに単語としても出てこないにもかかわらず、花に見立てていることがコピーとビジュアルを連動して見たとたんに理解できるところにある。

また、「好きな時計は、目に匂う。」というコピーは、それだけ見ても意味が通じない。

「目に匂う」という表現も、単純に考えれば、本来目は嗅覚の機能をもたないので、意味が通らない。

「匂う」は嗅覚に対しての表現で、よいにおいがする時に使うもの。目で匂いを感じることは実態としてはないことになる。
しかし、ビジュアルと合わせることによって、「好きな時計を見ると、花の匂いに寄ってしまうハチのように惹かれてしまう」という意味が伝わってくる。

秀逸なコピーあってこそ成り立つシンプルなビジュアル表現である。


2. ビジュアル表現のよさは何か

シンプルゆえにメイン訴求の商品である時計を邪魔しないように配置されたハチ

時計の針とハチの触覚の角度を合わせている。

ハチの触覚を取ることや、お尻側を時計に向ける見せ方もあるが、このビジュアルの核となる「時計を花に見立てる」ことを想定すると、「花に止まるハチ」

のような止まり方でないとビジュアルに一貫性がでないので、ハチは上向きに、触覚の角度を調整することによって、ミツバチのリアリティを保ちつつ、時計を邪魔しない設計となっている。

また、腕時計の帯から時計、ハチ、コピー、ブランドロゴを右下に置いており、自然と視線が上から左下→右下と動くような三角形の構図ができ、心地の良い配置となっている。

タイポグラフィは、さりげなく配置した分、可読性は担保しつつ時計の重厚感を担保する斜体のゴシックを使っている。

3. 構図の妙は?

視線の流れをうまく利用してインパクトを持たせている

時計右の余白エリアにコピーを置きたくなるが、メインコピーを左下にさりげなく配置することで、「時計」→「ハチ」→「コピー」という順番に視線が誘導され、時計とハチの組み合わせの謎がコピーで解ける構図となっている。余白にコピーを置いてしまうと、「コピー」→「時計」→「ハチ」の順番になってしまう。そうなると、先に答えを聞いたうえでビジュアルを見るような視線誘導となるため、ビジュアルのインパクトが弱くなってしまう。

4.批判的視点


ハチは虫としてインパクトが強いため、嫌悪感を抱く人も一定数いるかもしれない。ちから強いイメージになるので、高級感を演出するなら蝶を配置するという考えもあり得たと思う。
ただ、蝶々は美のシンボル的に使われることも多く、ベタな表現やインパクトに欠ける可能性もあるため、ハチの表現の方が強い印象付けができるとも思う。

5. 個人的な感想

なかなか真似できない、コピーの秀逸さが光るクリエイティブ。



面白い表現は、パッと見のビジュアルのアイデアだけではなく、言葉によって意味付けされるというパターンもあるということが理解できる面白い例だった。
コピーが秀逸であるがゆえにできる表現であり、デザイナーだけでは決して完結できない、かつ真似できないクリエイティブだと思う。

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