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お客様からの相談→「社員の事故を減らすには」

人生を大きく変えてしまう交通事故。2023年の交通事故は30万件以上、死亡事故は2,618件にも及ぶそうです。加害も被害も、できれば避けたいですよね。

はじめまして。タクシー歴は23歳から計16年、地方の個人タクシードライバーです。日々自転車や歩行者の多い市街地を延々と流し営業して得た教訓をシェアできたらと思います。

以前あるお客様にご相談を受けました。管理職の方のようでしたが、社員さんによる営業車での事故を減らすにはどうしたら良いか?というものでした。

車内でお話しするには時間に限りがあり全てをお伝えするのは困難でしたので、note参加を機に文章化してみました。

運も絡む話ですし手前味噌ではございますが、法人14年間、そののち独立した現在も営業中に免許証に傷が入ったことはありません。

誰でもできると言われる職業ではありますが、それなりの自負はございます。どなたかのお役に立てば幸いです。

交通事故を起こさないためには当然「すべての法令を遵守する」事になろうかと思いますが、全て挙げていってはキリがない。

そこで強いて言うならココ、というポイントをホンネでまとめてみました。

私なりに特に重要と感じてきたことを、危険が発生する前、発生直後、例外のケースを実体験も交えながら3つと、私も繰り返し意識する大事な概念をひとつご紹介したいと思います。


1.一旦停止が通例を覆す

1つめは一旦停止。実例ですが、私自身勤務中に自転車と接触してしまったことがあります。しかし結論から言うと、法を守っていたために常識が覆りました。

土砂降りの雨の深夜、信号のない交差点、お互い1車線の一方通行。向かって右から左へ交差しています。交差点右手前に街灯。

ここで私は一旦停止を確実に止まり、のちにドライブレコーダーを見ても左右を確認して発進していました。しかし右から来た自転車と接触。恐らくガラスについた水滴で街灯が乱反射、自転車に気付けなかったものと思われます。

相手方は無灯火(そもそも灯火装置がついていない)、傘さしという状態でした。これらは現場に事故処理に来た警察官からも強く指摘、指導をされていました。

通常であれば自転車の接触となると人身事故扱いは濃厚、免許証に傷が入る可能性が大いにありました。

しかし完全停止からの発進であったこともあり衝撃が小さかったため、会社と相手方の話し合いの結果、自転車修理のみの最小限の示談で済みました。

こちらに一旦停止違反などの過失が多ければ、こういった話し合いは不利になってきます。弱者保護、弱者救済の観点から自動車側が過失割合を大きく取られるのはよく聞く話ですね。

余談ですが、歩行横断禁止場所での蒸発現象(対向車と自車とのヘッドライトによって中間にある人などが見えなくなる現象)による人身事故でも運転者の責任が問われなかったケースがあったと記事で読んだことがあります。

自分の過失は相手側の過失と相殺されます。法令を守った上での不可抗力による事故は救済される可能性があるわけですね。

2.停止距離を半分にする方法

2つめは何らかの危険が発生した直後、停止距離のお話です。停止距離が空走距離と制動距離の合計であることは、ご存知の方も多いと思います。

停止距離を半減、または大幅に減らす簡単な方法があります。私自身その事に気付いて習慣として定着するまでには少し時間がかかりましたが、今では自然になり無意識でできる方法です。

例えば時速40キロ制限の道を走行しているとして、その速度を維持しようとすると足はアクセルに一定の力を加えた状態を維持すると思います。

これに対して事故の少ないベテラン運転手の多くは恐らく、飛び出しの可能性のある場所や死角の多い交差点を通過するたびに、「足をブレーキの上に置く」クセになっていると思います。必要がなければ踏みません。置くだけです。

この方法は習慣化してしまえば特に何もすることはないため非常にオススメです。空走距離を激減させることでブレーキが2倍近く効く、と考えると効果は抜群。事故の程度を軽減するどころか、事故未満で済む可能性も大いに出てきます。

この記事を書く上で改めて調べ直して驚いているのですが、時速40キロの場合停止距離22メートルに対して空走距離は11メートル。およそ半分にもなるのですね。時速50キロの場合でも、停止32メートルに対し空走14メートル、43%を占めます。

11メートル余裕があれば、いや、実際の事故では5メートル(セダン1台分)もあれば接触を防げるケースって結構あるのではないでしょうか。

3.見ているのに見えていない?

3つ目は身近な死角の話です。法人タクシー時代、乗務員教育の一環である衝撃的な映像を見たことがあります。

自車は人通りの少ないT字路に、突き当たって右折する場面。映像では、右奥から来た自転車(厳密には自転車も右側走行、左折しながら左側走行へ移行する形なので好ましくない)が手前に曲がってくる場面でした。

動画では確かに一旦停止はしっかり止まっています。左右確認もしています。しかし吸い込まれるように自転車と接近、接触してから制動が効き始めます。何故なのでしょう。

恐らくこれは「フロントピラーの死角」です。フロントガラスと運転席ガラスの間にある、フレームの部分ですね。

ピラーと目の距離が近いために、右側のほうがより大きな対象を隠してしまい、見ているのに見えていない状態になります。

私自身これで横断歩道上で歩行者を轢いてしまいそうになったことがあるので、頭を大きく左右に振りながらピラーの奥を含む右前方の確認をするようになりました。

見た目は格好悪いですが、これは欠かすことがありません。気付くのが遅れると先の動画のように当たってからの制動になります。

そうなってしまうとその衝撃は強烈で、残念ながらこの動画の被害者は大腿骨骨折の重症となりました。

危険に気付いていないだけで、左右を確認している安心感が本人にはあるので接触の瞬間にはまだアクセルの上に足があるわけです。恐ろしい話です。

道ゆく車を観察していてもピラーの奥まで意識していない方がそれなりにいるように見受けられるので、ぜひ実践していただけたらなと思います。

リスクホメオスタシス理論

これは1982年にカナダの交通心理学者、ジェラルド・ワイルドという方が提唱した理論です。

わかりやすく言えば「自動車の機能などが進歩したとしても、人はその分の利益を求めるため交通事故のリスクは恒常性をもつ」というような理論です。

私たちは便利になった分それを過信して甘えるのです。それは私自身肝に銘じて、思い起こすようにしています。


おわりに+α

時代とともに車の安全機能が進化していますし、そのうち自動運転化されるのかもしれません。しかし昨年2,618件もの死亡事故が起きていると考えると、楽観はできないように思います。

タクシーとして「これで食べていく」という覚悟を持ってしても、何が大事か気付くのには時間がかかりました。何かのきっかけになったり、お役に立てば良いなと思います。


余談ですが私が所属していた会社は県内大手(400台ほど)でしたが、運転手は前方への安全意識が高いためか?一般の方とは違い最も多いのは後退による事故です。

これはリスクホメオスタシスとは違った現象が起きていると感じました。年代、世代によるものです。

これはデータなどなくあくまでも私個人の見解ですが、私自身車に乗り始めた頃はバックモニターなどありませんでした。

それゆえに目視こそ正義と習いましたが、カメラのある今ではミラーと目視って死角だらけなんですよね。

カメラ見ずにぶつける運転手さんは沢山います。私は後退事故は1回もしたことがないですが、「カメラ+補助でミラーと目視」という意識は常にしています。バック事故も減らしていただきたいと思います。

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