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星天の神と光宿りの巫女

第1章:始まりの神託

夜空を見上げると、星が揺れているように感じた。
それは風のせいでも、目の錯覚でもない。どこか歪んだように輝く星々の光は、月乃の胸に奇妙な不安を呼び起こしていた。

境内で竹箒を握りながら、月乃は星空に視線を向ける。

「なんだろう……」

星はいつもと同じように煌めいているはずなのに、今夜の空には得体の知れない異質さが漂っている。子どもの頃から毎晩眺めてきたはずの星空が、どこか違う。

「気のせいだよね……」

自分にそう言い聞かせながら、箒を下ろして戻ろうとしたその時だった。

「月乃よ……」

不意に、頭の中に直接響く声が聞こえた。それは冷たくもあり、どこか懐かしさを帯びた低い声だった。振り返るが、そこには誰もいない。薄暗い境内には、ただ風が木々を揺らす音だけが響いている。

「誰……?」

思わず呟くが、返事はない。ただ、祖母から「神聖なもの」と言われて育った御神木が、いつもとは違う姿を見せていた。古びた木の表面が淡く白く輝き、静かに光を放っているように見えるのだ。

目を凝らして木を見つめていると、再びあの声が響いた。

「お前が選ばれし巫女だ。」

言葉とともに、御神木の周囲に小さな光が揺らめき始めた。その瞬間、月乃の足元がわずかに揺れ、地鳴りが伝わってくる。

「な、何が起こってるの?」

月乃は地面に手をつきながら立ち上がるが、足元の震えは次第に強まり、御神木の光が眩しさを増していく。周囲の空気がピリピリとした緊張感に包まれる中、夜空に突然、一本の光が降り注いだ。それは星の輝きそのもののようでありながら、人間には理解できないほど純粋で力強いものだった。

境内全体を包むその光に、月乃は目を覆った。そして次の瞬間、声が耳の奥に直接響いた。

「光宿りの巫女よ、目覚めよ。」

その言葉が告げられると同時に、月乃の意識は闇に飲み込まれていった――。

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