dear diary 20240910
最近触れた作品から、その内容とはあまり関係ないのだけれど、
16のときに知り合った子のことを思い出した。
折に触れて思い出すあの子のこと。
わたしの記憶がいつか壊れても、日記ちゃんは覚えていてよね。
絵里は同じクラスで、斜め後ろの席に座っていた。
首席で入学して、男子生徒が声をかけるのを躊躇うほどの美人。
いつもたくさんの女友だちが席を囲んでいたな。
(思い返すといつの時代も雑魚なわたしに近づこうとしてくれるひとは、首席クラスで人格者で人気者だったのはなぜだろう。
わたしは首席争いに絡んだことはないし根暗。)
特定のグループで行動することを好まないわたし、人気者に絡みつくことに興味のないわたし、
プログラミングだったか、会計で決算書の時間だったかな、
授業中にひそひそ声で絵里に話しかけられたのが最初だったかな。
そのときは授業の内容の質問。
賢い人がなんで、わたしに質問してくるんだろうと思いながら話をしたと思う。
あのときの絵里の気持ちはわからないけど、
賢い人は、賢さゆえに、人に聞くのかな。
そしてただ斜め前にわたしがいただけ、かな。
そんななんでもないことから、
ときどき話すようになって、小説の貸し借りをするようになり、
放課後に公園のベンチで日が暮れるまで絵里の隣に居るようになった。
でもそれもときどき。
絵里は人気者だからね。
それでもなぜか、わたしを誘ってれて
一緒にベンチに座って、そんなに多くの言葉は交わさなった。
多くの言葉はむしろ邪魔だった、のかな。
大した返答もできなかったけれど、少ない言葉に含まれた絵里の成分を
わたしはわたしの全部で聴いた。
大した事ないひとつひとつのわたしの言葉を
絵里は残さず受け取ってくれた。
そして、どうしてたくさんいる周りの誰も気づいてくれない、自分の奥の奥にあるものを、そんなに的確なことばで言い当ててくれるの?と
絵里は困惑するような、泣きそうな笑顔でわたしに聞いた。
そんな事を言われてわたしが困惑するじゃないか。
自分がとても大切に思う人、
理解者、
理解したいと思う人、
人に順位などつけられないが敢えて分かりやすく表現するなら
一番大切な人はいても、
相手にとって自分は絶対的にそうではない、
そうはなり得ない。
どこか感覚が似通っていた絵里とわたしの、一番おなじところ。
だから、あのような言葉をわたしに投げかけても絵里は、
わたしが絵里の理解者だと感じていても、絵里自身がわたしの理解者で一番大切な人になれるとは思っていない。
わたしが絵里を大切だと思っていると知っていてもなお。
わたしも、こんなに近い感覚を持つ彼女の心を、理解してそばにいられたらと思いながらも、
絵里の気持ちが少しは理解するからこそ、図々しくそうはできない。
そう思った。
お互い、大切だと、理解者だとわかっているから、
あなたの一番にはなれない。
そういうことは口にしない。
わかってるよ、わかってる。
だからあなたの隣に座る時間は心地よかった。
今思い出してもそういう気持ちになれる。
そんな時間を重ねながら、
人気者の絵里はかわらず、休み時間も授業中のグループ活動も、いろんな友だちに囲まれていた。
いつしか男子生徒もその中に。
絵里は美人で賢くて気高いから安易に近づけないオーラがあるけれど、
それの奥にいる本来の絵里はとてもいい子だからね。
それに気付いたら、柵を越えたいと思う人がもっといるのは当然のこと。
忙しそうな絵里と、ベンチで過ごす時間も少しずつ減っていった。
でも全然悲しくなかったし、置いて行かれたとか裏切られた気持ちでもない。
何か話したくなった時はいつでもまた声をかけてねと思うだけ。
あの日くれた言葉だけでわたしは、信じていけるから、
絵里が安心して多くの人と良い時間を過ごしてくれればいいの。
ときどき遠くから目が合って、それだけでわたしは大丈夫になれるの。
20代のある日、パルコのコスメショップで店頭に立つ絵里を見つけた。
連絡も取らなくなって随分時間が経っていた。
絵里もわたしに気づいたみたいだった。
お互い目が合った。
絵里は勤務中。
お客様の応対がある。
たった数秒のことだったけれど、絵里の目はちゃんと伝えてくれた。
よかった。
16のときに絵里にあえて。
絵里もそう思ってくれているかわからないけれど、
絵里にとっては数ある出会いのひとつでしかないかもしれないけど、
わたしは大切なものを貰った。
美しく賢い人彼女は、わたしが祈らずともいろんなしあわせや成功を手に入れられるだろうけれど、
それでもあえて、絵里がしあわせでいてと願うよ。
一緒にベンチに座って過ごした公園、
高校がある町の隣の、絵里の地元だった。
16のときわたしはまだ原付通学の許可が出ていなくて、
日が暮れてから、田舎の山道を自転車でこえるの、ちょっと大変だったなぁ、遠かった、
虫がいっぱいぶつかってくるし。
峠を下る速度が増している自転車、
虫がおでことかにぶつかってくると結構痛いの。
遅くなるから集会に間に合わず、母に叱られたし。
それはいいんだけどさ!
これは、しょうもないわたしの、しょうもない妄想のおはなし。