『ARKにじさんじ鯖チーム対抗戦』はエンタメの到達点となるか
お祭りイベントとして編成された3度目の『にじさんじARK』
8月23日から始まった、にじさんじ所属のバーチャルライバー21人による合同企画『ARKにじさんじ鯖チーム対抗戦』。2月から3月頃にかけて話題となってきた恐竜ゲーム『ARK』の新マップを舞台に、チーム戦と銘打って行われている今回の企画だが、その様相は今までと大きく異なっている。
最初に開設されたアイランドや、戦争後に追加されたラグナロクといったマップでは、参加者それぞれの意思や判断を尊重し、トライブや同盟関係の成立を成り行きに任せていた。しかし、今回はあらかじめ参加者を各チームに振り分け、最深部のボス討伐を共通の目標としている。今までのオープンワールドを満喫する形式ではなく、RTA(リアルタイムアタック)のような競技性を意識した遊び方をしているところに、エンターテイメントとしての洗練を企図しているように思う。
こうしたやり方を採る背景には、ラグナロクマップにおけるARKの沈静化や企画としての実質的な終焉といったものがある。
本間ひまわりが発起人となって開かれたアイランドマップでは爆発的な盛り上がりを見せ、参加ユーザー同士の自主的な申し出からPvPの導入、大規模な戦争イベントの開催へと至った。一方、満を持して開設されたラグナロクではマップの広さが災いし、ユーザーの生活圏が綺麗に棲み分けされ闘争と結びつかない状況になった。また、外出の自粛が緩和され、ライバーそれぞれ活動が再活発化したことで、ARKの配信は急減することとなった。
不完全燃焼状態のARKを放ってはおけないが、今さら長時間の拘束を要求するのも難しい。となれば、やはりイベントや大会の形で取り上げていくのが妥当な形だ。期限付きやチーム対抗といったルールを明確に規定し、協力と競争を意図したゲームを開催する運びとなったのは、ある意味で当然の帰結であったと言えるだろう。
自由度に反して盛り上がらなかったラグナロクマップ
今回の企画の詳細を語る前に、ラグナロクマップがなぜ盛り上がらなかったのかについて語っていきたい。
SEASON2と銘打って発表されたラグナロクマップのにじさんじ鯖は、2度にわたる戦争の舞台となったアイランドマップを発展・拡大させたような仕様となっていた。
新規要素の多いマップではなく、アイランド時代の環境を大きく継承したマップでの開始となったのは、新規の参加者を前提に難易度を維持したかったからだと考えられる。ARKで用意されているマップはMOD利用のものを含めれば実に多様多彩であり、環境的にも生態系的にもアイランドと異なるものがいくつもある。その中で、ラグナロクはアイランドと共通する恐竜が多く存在し、また自然環境や気候の似通った地域が存在するなど、比較的暮らしやすい仕様となっている。また、追加されている恐竜やモンスターの生息地域が固定されていることで、序盤から脅威に曝されるといったことも少ない。
こうした環境が揃っていることで、SEASON2からARKをプレイし始めたライバーが理不尽に遭うことも少ないだろう、というのが本間ひまわりの見立てであった。実際、新たに参加したライバーがアイランド時代の参加者と比べて困窮することはなかったし、経験者達が同一要素に暇を持て余していたわけでもなかったため、そのような観点でのマップ選択は適当であったと言える。
ラグナロク時代のにじさんじARKが一気に沈静化していった要因は、以下が考えられる。
マップが広大過ぎた
アイランド時代のにじさんじARKで戦争に発展したそもそものきっかけは開拓・開発地域の過密である。
ARKの序盤は攻撃的な恐竜になすすべもなくやられてしまう場合が多く、その場に物資を落として取り返しにも行けないといった状況が発生しやすい。そのため、建造物によって恐竜の発生が抑えられた地域の近くで物資を集め、貯蔵とリスポーン地点の確保を行うために小屋を建てるという行動が多く採られていた。
当初は数人の参加者だったため問題にもならなかった。しかし、ARKの楽しさに惹かれ様々なライバーが参加した結果、初期リスポーン地点となっていた入り江が各々の建造物で埋まってしまうという事態に陥ってしまったのである。トライブ(MMOで言うクランのようなもの)が異なる建造物は一定の間隔がないと設置できなくなる。当然ながら、リスポーン地点付近はそこら中で範囲が干渉し、自由に建築できなくなってしまった。
とりわけ深刻だったのが、水源までの水道管を敷設できなくなった『社長』こと加賀美ハヤトのトライブであった。ARKにおいて水はプレイヤーの生存や農業要素に不可欠な資源であり、安定して得るには水源からの調達が必須である。ところが、崖上に築いた彼らの拠点と崖下にある拠点とが干渉し、水道管を引けなくなってしまったのである。
「申し訳ないが立ち退いてもらおう」と何故か武装を始めた崖上の加賀美ハヤトと、「新人だからと嘗められては困る」と対抗し始めた崖下のイブラヒム。彼らの動きと、いち早くARKの要素を開拓していたライバー達の思惑がかみ合ったことで、後の戦争に至る流れが発生することとなった。ゲームの仕様による不満が、結果的にエンターテイメントとしての盛り上がりを誘発したわけである。
一方、ラグナロクにおいてはマップが巨大化したことで居住地の選択が格段にしやすくなった。また、アイランド経験者の多くがARKの事情に慣れたことで、すみやかに必要な恐竜を集めて自分の行きたい場所へ移っていったため、序盤の過密環境自体が生まれなかった。
勿論、都合のいい場所では先んじて取ろうとする動きがあったため、争いが皆無だったわけではない。が、少なくとも生活の前提資源を脅かされる状況ではなくなっていたし、ライバー自身が初めから争いを避けて行動していた。
アイランドの終盤であったような戦争被害のリスクと無縁であることは、新たに参加したライバーにとって確かにプラスであった。一方で、ライバー同士が争う口実を失ったため、戦争を含めたエンターテイメント的な動きは全般取りづらくなっていたと言える。協力や結束を募るにしても、物理的に距離が置かれた居住域間を行き来するのは時間がかかり、物資の集積や武装化においても何かと手間がかかってしまう。そのような状況で、再びPvPをエンターテイメントとすることが敬遠されたのではないだろうか。
戦争をやりきってしまった
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