新日本風土記「高原列車 小海線」が神回すぎて感動した件について
もともと新日本風土記はちょくちょく見ていて、たまたま家族が録画していたのが、最近行った八ヶ岳の近くを走っている小海線という路線がテーマの新日本風土記だったので、お昼ごはんの間だけ見るつもりが、ご飯を食べ終わっても見入ってしまった。
その構成と内容が素晴らしくて感動がとまらないので、noteに書いておきたい。
私が思う「よい作品とはなにか」について
まず、私は批評家でも専門家でもなんでもないのだが、TVとか小説とかそういうコンテンツの作品を作るにあたって重要なことはどれだけ見た人に対して「見る前と見た後で変化があったか」ということだと思っている。
そして人に変化を与えるということにおいて重要なのは、見ている人にどれだけ自分ゴト化して考えてもらえるかだと思っている。
作品に正解はないけど、私がいい作品(コンテンツ、映画、小説、エンターテイメント作品など)だと思うのは、見た人に何かしらの考える余白を残すものだ。
私はシドニー留学時代にシェアハウスメイトに3人のアーティストたちがいたので、「What is creativty?」というテーマで彼らにインタビューをして最後の1分でまとめた作品を学部の展覧会に出したところ、映像批評の先生に「結論をだしてしまっているから一気に残念になった」と言われてしまってあぁなるほどなと納得してしまった。
作品は作者の主張を言葉でしてしまうと一気にダメになるのだ。人間は自分の考えたものを大切にして、他人の意見なんて聞きたくないものだ。特に作品を見に来ているときは、作品として見に来ているのであってスピーチを聞きに来ているわけではないから。
だからいい作品は作品それ自体でなにかのインパクトを見ている人に与えている。直接的に伝えるのではなく、作品全体として伝えているのだ。
その上で、今回の新日本風土記「高原列車 小海線」回がとても素晴らしかったので、その素晴らしさを書いておきたい。
線路とそこに住む人やものに焦点をあてる
まず番組の構成は
①小海線を走る観光電車「HIGH RAIL 1375」に乗る人々から始まる
②JR最高地点の神社とレストランオーナーの物語
③高原野菜のレタス農家の人達
④日本最大の電波望遠鏡の物語
⑤野外バレエ団
⑥秘境駅の駅舎を我が家のように活用する人や江戸時代からの風習
⑦赤字が14億円で廃線になってしまうかもしれないキャプション
⑧電車を取る小海線を愛する人々
のようになっている。書き出してみると1時間のコンテンツで随分ぎっしりだ。物語がたくさんある分、見ている方も満足感が高く、おなかいっぱいだが編集も随分大変だっただろう。
番組は全体の構成としては、発着駅から終着駅を旅するような流れになっていて、見ている方も電車の旅をしているように楽しめる。
最初は、小海線を走る観光電車に乗っている子どもたちから始まって、電車好きな子どもたちがワクワクしながら、JR最高地点の駅に行くのを待っている。
JR最高地点には、電車の神社が建てられており、その電車の神社を建てた組合の会長は、最高地点にあるレストランを運営するオーナーだった。
オーナーはもともと地元の農家の人で、電車が通ったことで人が来るようになり、親に許しを得てレストランをたてたのだとか。レストランではオーナーがつくったそばが食べれて好評だ。オーナーが取材で順調ですか?と聞かれて、まあ続けられているということは順調だということですかね、という言葉がなんだかとてもいいなと思った。
そのレストランに行った人の記事をみつけたので貼っておく。記事を読んでさらに行ってみたくなってしまった。
そのあとで、天文台がうつるが、ただ天文台がありますよというような観光番組ではなく、規模が縮小してしまったり、その過程を経ていまは最新の機材を入れていたり、実際に働く人の声を聞くことで、たとえ自分が行ったとしても聞けない話が第三者のテレビを通すことによって背景がわかったりする。働いている人も自分の代で規模が縮小してしまうことを話すのは辛かっただろうから観光客にペラペラ話す内容ではないだろう。
次に「高原野菜」という一種のみんなが知っているブランドを切り口に、そこで働く25,6歳の青年や家族、そこで働く東南アジアの4人組を番組として取り扱っている。
私と同じ歳くらいの青年が「家業を継ぐことに迷いはなかったんですか?」と聞かれて「大学にも行こうと考えましたけど、よいレタスをつくるために早く技術を身につけたくて」と言って熱量をもって働いている姿がとてもかっこよかったし、奥さんが来年子供が生まれるから家族全員で頑張らなきゃと語る姿もとても素敵だった。少しだけうつった東南アジアの人たちへのインタビューに加えて、(この地域か長野県はかは忘れたが)はほとんどの農家で外国人労働者を受け入れているというキャプションが入って、地域の過疎化とか、後継者不足という問題は社会問題としてあるのは知っていたけど、よりリアルに映像を通して実感することができた。
次に1990年からスタートしている県内外からたくさんの人を呼ぶ野外バレエイベントを特集している。野外バレエを初めて聞いたし、バレエ自体も見たことはなかったけど、ライトアップされるバレエの背景に実際の森があったり、花火が打ち上がったり、野外バレエでしかできない演出が映像を通してもとても素晴らしく、実際に行ってみたいと思った。
↑野外バレエのサイト
地元の人を呼ぶまで10年はかかったらしい。いまではこれを見てまた1年頑張れると人から言われるとても素敵なイベントになっている。
小海線沿線で生活している人々、その物語を見ることで、いままで名前も知らなかった小海線への愛が深まってきた途端に、「赤字14億円 小海線の存続が話し合われている」というキャプションがはいる。
もし、このドキュメンタリーを見ずに、このニュースだけを見たら特に気に留めることもなく、14億円も赤字があるなら廃線にしたほうがいいんじゃないかとも思ってしまったかもしれない。だけど、このドキュメンタリーを見て、私は1時間前まで名前すら知らなかった路線に一度訪れてみたいと思ってしまっているし、どうか廃線にしないでくれとも思ってしまっている。
まとめ
このnoteの主題はあくまでも、新日本風土記の「高原鉄道 小海線」のドキュメンタリーとしての構成が素晴らしかったということなので、小海線の魅力からドキュメンタリーの話に戻る。
外国人労働者や高齢者の跡継ぎ問題も問題としては知っているけど、身近ではなくて、興味をもちたいという気持ちはあるけれどその機会がなかった。でも実際にそこに住む人の生の声や生活を見たりすることで、とても身近になる。
ただ、生の声を聞いたり、生活をただ映像にするだけでは、飽きてしまう。だから番組のディレクターや編集者(テレビのことは詳しくないけど)などの作り手がそこにあるものの魅力をちゃんと意識してとることで、受け取りてに伝わる作品になるのだと思う。
最近テレビおもしろくないと思って全然見ていなかったけど、この番組のこの回は見れてよかった。とてもいい番組だった。
私はテレビ局のディレクターではないけど、作品作り全般において、こういう番組がつくった人のような、しずかに人にうったえかけることができる作品を作りたいと思った。