境界線は跨げるのか
羽根沢温泉に向かう山中、山猫らしき個体が道中に横たわっていた
2羽の鷹がその個体を突っついていた
クジラはどうやって死んでいくのかを調べたくなり調べた
クジラは日本では年間300体ほどが浅瀬に座礁するそうである
そしてその座礁したクジラの死体のいずれかは腐敗により内部にメタンガスが蓄積、膨張し爆発する
羽根沢温泉では300円の無人共同浴場で入浴した
浴場の横には集会所があり、お地蔵さまが2体並んでいて奥には年季の入ったブランコがあった
雨が降っていたこともあり全体的に陰鬱な、じめじめしたオーラが共同浴場を包んでいた
浴場には洗い場はなく、6畳ほどのスペースに1名の年配の方が体操座りをしておられた
かけ湯をして浴槽に両足を突っ込んだのだが、かなり熱い
おそらく43度はあると思われる
じんじんしたが一気に首までお湯に浸かった
体操座りの男性は「うん、ふん。」と私を見ておっしゃったのか、独り言なのかわからない発声をされた
それに触発され
「熱いですね。」
と体操座りの男性に声を掛けた
「そうだね。このお湯は肌にいいんだよ。」
「そうなんですよね。知人から教えてもらって、ここのお湯はとてもいいと聞きました。」
「・・」
「ささいヴぁそ?」
「あっ、はい?」
「鮭川村のものじゃないのか?」
「はい。」
「・・」
私はお湯から体を出し、へりに体操座りをした
「汗かくと気持ちいいんだよ。」
「んだっすねっす。」
「・・」
再度浴槽に体を突っ込み、10秒後体を外に出す
「お先に。」
「ドア、少し開けてていいから。」
「わかりました。」
10cm程引き戸のガラス戸を開けておく
浴場の温度と湿度を下げたかったのか、私が何か体操座りの男性のなにかを奪うと思われ監視したかったのか
山奥の村の方は温和で優しい雰囲気を持っておられる方が多いが、その奥には警戒心もはらんでいる
それは県外からの非常識な旅人のなんらかの害がこれまでにあったりして、そのトラウマをうまい具合に処理できず警戒心を保有したまま再度村の外のものが来た際に闇の【田舎もんだからってなめんじゃねえ】という警戒心が発動するのではないか
日常に張り巡らされた、年代、性別、価値観などの境界線はお互いにリスペクトと信頼関係が無ければ跨げない
私は、私の立場でするするそこをすり抜けていきたい