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アンサー・コラム「デザインという知恵と、デザイナー(私)の想い」三澤建人

こんにちは。DDDPの中倉です。
今回は三澤建人さんによるアンサー・コラムをお送りします。

今回のコラムは、以前にお送りした三澤建人さんのインタビュー「デザインのユートピアとUIという地平」を終えた後に『インタビューでは語りきれなかったことを、是非コラムとして発表してほしい!』という私の強い要望によって実現したものです。

こちらのコラムを読んでいただくことで、皆さまにはより深く、三澤さんが持つデザインの世界観に触れることができるのではないかと思います。もちろん、このコラムを単独で読んで頂いても十分楽しめる内容にはなっておりますので、こちらを読んでいただいた後で、インタビューを読んで頂いても、全く問題ありません。

インタビュー記事はこちらです。是非合わせてご覧ください。

目次
1.自己紹介
2.再び「デザインとは何か」
3.私のデザイン
4.インタビューの感想

5.参考文献

1.自己紹介

 こんにちは。デザイナーの三澤です。主にスマートフォンのユーザーインターフェース開発に携わりながら、新しいサービスや価値を形にすることを仕事にしています。
 ここでは、インタビューでは伝えきれなかった、私なりの「デザインとはなにか」ということについて、まとめました。
 これを読んでくれた方に、デザイナーとして私が思っていることや、デザインそのものの面白さが少しでも伝わればいいなと思います。

2.再び「デザインとはなにか」

 デザインとはなにか。世間的にも「色や形だけのことではない」という理解が浸透してきましたが、最近では、デザインという言葉に含まれる意味があまりにも多すぎて、会話の中でデザインと言うと相手と認識が合わず、一旦言葉の定義から話し合う必要すら出てくる事態になってしまいました。
 だから私は会話の中ではできるだけデザインという言葉を使いません。デザインの話をしたいのであれば、色、形、思想、設計、視覚化など、定義が曖昧でない言葉を使うのがおすすめです。

 デザインというと、センスがないと理解しづらいとか、斜に構えていてとっつきにくいようなイメージがある人も少なくないと想いますが、デザインはもっと身近なものです。
 デザインは数学や言語に似ています。日常に溢れていて、誰もが気にせずとも毎日触れている、普遍的な知恵です。もっと普通に、誰もが日常生活や仕事にデザインという知恵を取り入れることができた時、人の暮らしは間違いなくもっと良くなります。

 先に言ってしまいましたが、デザインは「知恵」です。色や形や柄を指してデザインと呼ぶのは正しくありません。視覚化されたモノのことをデザインと呼ぶのは、例えるなら数字のことを数学と呼ぶようなもの、単語のことを言語と呼ぶようなものです。数学における数字のように、言語における単語のように、デザインにおけるモノとは、知恵が凝縮して扱いやすい形として現れただけのものなのです。

3.私のデザイン

 さて、ここからは、そんなデザインに対する私なりの考えを少し紹介できればと思います。

 まずは、社会と関わる上でのデザイナーという仕事の役割について。デザイナーが果たすべき役割は、大きく2つあります。ひとつは視覚化すること。もうひとつは設計することです。
 この2つは本来同じ考え方の延長上にあるのですが、社会から求められる仕事としてはこんな感じです。

 視覚化するとは、いわゆる見た目を作ることです。
 視覚化する能力は他者にはないデザイナーの特徴なのでわかりやすく、ときに表層的に捉えられやすい能力でもあります。
 例えば、目を引く年賀状、映画の魅力を伝えるポスター、わかりやすい観光ガイド。これらは美しく心地よい見た目で表現されますが、その絵の裏には伝えたい思いや複雑な情報設計があります。
 形のないイメージを見える形に変換したり、言葉では伝わりづらい感情や情報を伝えたりするために、様々な表現を駆使して、ものごとを人間の五感へ接続すること。これが視覚化です。

 設計するとは、結論へ至るための道筋を立てることです。
すべての物事に理由があるように、デザイナーが生み出す色や形には理由があります。視覚化によって生まれるものは、理由から導かれる結論なのです。理由と結論を破綻なく結びつけることを、ここでは設計と呼んでいます。
「理由と結論」という言い方をするとわかるように、これはデザイナーに限らず誰もが考えやすく参加しやすい行為なので、表面的にはデザイナーの役割として見なされづらい側面があります。しかし、視覚化によって設計判断を幾度となく繰り返しているからこそ、デザイナーには強い設計力が身につくのです。

「視覚化」と「設計」というデザイナーの役割を紹介しましたが、これらは最終的には「実感をつくること」というひとつの目的に収束します。
 人が五感で実感を得るために「視覚化」があり、視覚化を正しく効果的に行うために「設計」があります。この「実感をつくること」が、他ならぬデザイナーの役割であり、社会に提供している仕事なのです。

 では、そこで作られている実感とは、一体何なのでしょうか?
 ここからはデザイナーとしての、私の想いの話です。
 結論から言うと、私は「人が人らしく生きる実感」をつくりたいと思っています。人らしく、とはとても曖昧な言葉ではあるけれど、私はこの言葉が好きです。
 一人の人間が持つたくさんの感情や、色々な社会との関わり方を含みながら、ありのままの自分自身を生きている人の姿が浮かびます。多感な思春期の妄言みたいな事を言いますが、人が生きて、暮らしていること、それ自体に私は感動を覚え、彼らを支えたいと感じるのです。
 たとえば彼がスマホに触れた瞬間「なんか心地よい」と思えれば、待ち合わせに遅れてきた友人に優しくできるかもしれません。たとえば彼女がパソコンに触れた瞬間「なんか便利だな」と思えれば、ストレスが減って家族と楽しく過ごす時間が増えるかもしれません。
 一人のデザイナーがモノを通して他人に与えられる影響なんて、ごくごく小さなものですが、「なんか心地よい」とか「なんか便利」といった、モノを通して生まれたその微かな感情は、生活に伝搬し、人間関係に伝搬し、巡り巡ってきっと彼らの暮らしを豊かにしうるのです。

 いま、これを書いていて気がついたのですが、私は、人の生活を一変させるようなどでかいインパクトを与えるサービスを作りたいのではなくて、人の生活の中にある不合理や不条理を取り除き、人が人として生きるための時間を、人の中に作り出したいのだと思います。その時間を使って彼らが何をするかは、彼らの自由です。誰かと過ごしてもいいし、思い切り自分の殻に閉じこもって自分だけの世界を作ってもいい。悩んだり、失敗したり、馬鹿をやったり、何かを目指したり、休んだり、何も考えずに一日を終えてもいい。私はそうやって、人が自分の人生をやっていくための時間をつくりたいのです。設計し、視覚化し、実感をつくり、その実感がモノになり、人が人らしく生きるための時間をつくる。そのために私はデザイナーとしての役割を果たします。

 以前の私は、デザインとは「未来を描くこと」と定義していました。実際にデザイナーに求められる仕事の一つに、5年後、10年後、20年後の社会を予測し、その時に必要とされるものを考えたり、その未来に到達するために今やるべきことを考えたりする、というものがあります。
 大風呂敷を広げてずっと先の未来を描くわけですが、そのうち、最終的な着地点は、今ここにいる私達の生活から地続きの未来だということに気がつきました。
 デザインとは未来を描くことではあるけれど、未来は人の暮らしの先にあるのです。だからやはり、デザイナーが語る「デザイン」には、人や暮らしに対する思いが込められているのです。

 デザインとは、人が人らしく生きるための知恵です。デザインとは、未来を描くことです。デザインとは、求める答えの根源へ遡り、到達手段を示す行為です。

 人が人らしく生きられる未来をつくったり、無用な煩わしさを取り除いて人が自分の人生をやっていくための時間をつくったりするために、デザインという知恵があります。大小を問わず誰もが未来を描き、その未来へたどり着くために行動しています。10年来の夢を叶えることも、10分で家事を終わらせることも同じです。デザインという知恵を使えば、その達成点へもっと上手くたどり着く事ができるかもしれません。思い描いていたよりも少し良い結果を得られるかもしれません。

 デザイナーの役割は、その知恵を行使することです。そのための「視覚化」と「設計」なのです。デザイナーとは、そういう仕事なんだと思います。

 デザイナーが絵を描くだけの時代は終わり、デザイナーの仕事は、人に届ける価値をつくることそのものを大きく捉え実現することへと変わりました。これからもデザイナーの領域は広がり続けるでしょう。

4.インタビューの感想

 うまく表現できないことや説明しきれないこともあるので自分の考えをこうして晒すのは恐ろしくもあるけれど、今回は細かいことは置いといて、インタビューやコラムの中で自分の輪郭が浮かび上がってくるようで面白い体験だったので、自分を残す記録の一つとして公開を承諾しました。

 デザインの仕事をしていると、製品やサービスの利用者をはじめとする色々な人にインタビューをする機会があります。対話によって対象者の思考を浮き上がらせながら全体像を把握していくのはとても難しいことなのですが、今回はインタビューを受ける側として、意見を喋る難しさを知ってしまいました。あとから読み返すと話が飛びまくっているし、我ながら微妙なことを言っているところもあるし、本当に自分の考えを正確に表現するのは難しいと思います。

 インタビューをしてくれた中倉氏とは高校時代からの友人ですが、よく知った仲の友人が相手でもテーマについて一貫した話をするのは難しく、多少なりとも言葉を選びながら会話するのは緊張しました。(ちなみにインタビュー記事ではとても丁寧な言葉遣いをしている風ですが、会話の最中は百倍ぐらい適当な言葉で喋っています)

5.参考図書

最後に、デザインを知るための本をいくつか紹介して、私の話を終わります。

1:あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ‐柴田文江のプロダクトデザイン

デザインとはなにか、かたちとはなにかを、ここまでわかりやすく表現している本は他にありません。


2:融けるデザイン ―ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論

よくデザインされたモノは、その存在が消える、という話です。デザイン=カッコイイ、ではないのです。


3:トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦〈2〉セクシープロジェクトで差をつけろ!

目的に対するアプローチの仕方こそがデザインの知恵です。


4:トム・ピーターズのマニフェスト(1) デザイン魂 (トム・ピーターズのマニフェスト 1)

デザインは熱く、魂を燃やすに値するのです。


5:デザインのデザイン

タイトルがいいですよね。デザインという行為は、メタな視点を持つことで無限に世界を広げることができます。


6:思考の整理学 (ちくま文庫)

デザインは自分の頭から始まるのです。

他にも、偉大な先人たちの資料は山ほどあります。「デザインとは」でググると、たくさんの金言に触れることができるのでおすすめです。デザインを知りたい人、デザインを知ったつもりになっている人、より多くの人が、もう一度デザインを学んでみようか、誰かの話しを聞いてみようか、という気になってくれれば幸いです。

著者略歴
三澤建人
1987年生まれ。福岡県出身。
富士通デザイン株式会社 サービス&プラットフォーム・デザイングループ UIデザイナー。

京都工芸繊維大学大学院 デザイン科学専攻修了。 河淳株式会社、DESIGN STUDIO Sにてプロダクトデザイナーとして従事。その後、ziba tokyoにて、UIデザイン、デザインコンサルティングに取り組み、現職へ。
プロダクトデザイン・グラフィックデザインのスキルをベースに、UIデザイン・先行UXコンセプト開発等に幅広く取り組む。

ホームページ:http://kentomisawa.com
TwitterID:@kentomisawa

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