内田クレペリン検査:日本企業や教員採用試験などが採用する“作業曲線”の真価と課題
レトリカ教採学院、学院長の川上です。
本日は、就活や教採でも採用される、性格検査・適性検査の実態について、追究していきます。
就活や教採で、適性検査を受ける皆さんにとっては、
検査の内容や、背景を知った状態で適性検査を受けるのと、知らないまま受けるのでは、心持ちが違うと思います。
内容が分からないものを受けるということほど、不安なことはないと思いますからね。
ぜひ、今回のブログで、知ってくださいね!
内田クレペリン検査の内容
内田クレペリン検査は、被験者の作業能力や精神的特性を評価するための心理検査です。
具体的には、被験者に隣り合う1桁の数字を順に足し合わせ、その結果の下1桁を記入する単純加算作業を、数分の休憩を挟みながら一定時間続けさせます。
この連続作業を通して、被験者の作業量やパフォーマンスの変動が可視化され、結果として得られる「作業曲線」から集中力や持続力、精神的傾向が評価される仕組みです。
特に、作業効率が時間とともに上昇する、安定する、下降するなどの作業曲線の変化から、集中力やストレス耐性などの特性が推測されます。
内田クレペリン検査の歴史的発展と活用の経緯
内田クレペリン検査の起源は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ドイツの精神科医エミール・クレペリン(Emil Kraepelin, 1856–1926)によって開発された「加算作業検査」にあります。
クレペリンは、作業の効率変動から疲労や集中力、精神的な特性を評価できると考え、これを基にした「加算作業検査」を提唱しました。
日本では、このクレペリンの理論に基づき、1920年代後半に内田勇三郎が「内田クレペリン精神作業検査」として日本向けに改良・標準化しました。
内田は、作業曲線に現れる特定のパターンから、個人の精神的な特徴を評価する方法を開発し、企業や教育機関での適性検査として普及することになります。
特に、1934年に内田が著した『精神作業検査法の応用』によって、広く紹介されることとなり、日本の企業において労働者の適性や性格評価の基準として広く採用されるようになりました。
日本での採用試験における活用理由
内田クレペリン検査が日本の採用試験で広く使用されている理由は、短時間で実施可能である点と、作業量の変動から精神的な特徴が視覚化される点にあります。
短い時間で集中力や持続力、ストレス耐性を客観的に把握できるため、大量の応募者を選抜する際に、手間をかけず効率的に実施できる心理検査として、日本企業で重宝されました。
また、日本企業は協調性や持久力を重視する文化が根強く、内田クレペリン検査の結果として得られる「ストレス耐性」や「集中力の持続力」といった指標が、採用基準に合致しやすいことも、採用試験で利用される要因とされています。
内田クレペリン検査への批判や問題点
一方で、内田クレペリン検査には以下のような批判や問題点が指摘されています。
1. 信頼性・妥当性に関する疑問
内田クレペリン検査が一貫して被験者の特性を反映しているかには疑問もあります。
異なる環境や体調の影響を受けやすく、同じ被験者でも異なる状況で検査結果が変動することがあり、評価の信頼性が安定しないとされています。
特定の状況下でしか正確に評価できない可能性があるため、これを性格や適性の判断基準として用いることに限界があると考えられています。
2. 評価の客観性の欠如
内田クレペリン検査では、作業曲線を検査官が主観的に解釈するため、評価が主観に依存しやすいとされています。
評価に関する標準化されたガイドラインがなく、検査官の経験や解釈に影響される部分が大きいため、結果が必ずしも一貫した判断を保証するものではありません。
結果が異なる解釈に至る場合がある点で、評価の客観性を欠くリスクが指摘されています。
3. 現代の心理評価手法との乖離
現代の心理学では、ビッグファイブ性格診断や自己報告式の性格テストなど、多角的な性格評価手法が発展しています。
これらと比べると、内田クレペリン検査は「作業能率の変動による性格判断」という一面的なアプローチであり、複雑な性格特性を把握するには限界があるとの批判がされています。
4. 精神的負担の問題
単純作業を長時間続けることが被験者に心理的負担を与える可能性があり、特に精神的に不安定な状態の被験者にとってはストレスを増加させるリスクがあります。
内田クレペリン検査の結果が、被験者にネガティブな影響を与える可能性もあるため、被験者の心理的健康に対する配慮が必要です。
まとめ
内田クレペリン検査は、日本の採用試験において迅速かつ、効率的に性格傾向を評価する手法として広く普及しましたが、信頼性や妥当性、評価の主観性に関して問題点が指摘されています。
本当は、現代の心理学的評価手法に比べると一面的であるため、内田クレペリン検査に過度に依存することなく、他の心理検査や面接結果と併用して多角的に被験者を評価することが推奨されます。
ではまた!
レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕