主体的な学びと創造力の融合:ケーラーの洞察説が授業に与える力

レトリカ教採学院(教採塾)、学院長の川上です。

連日、繰り返しになりますが、筆記試験や、教育現場において、「ケーラー・洞察説・チンパンジーの実験」とだけ、意味も分からず丸暗記していては、以下の文章の内容を学び損ねることになります。

ケーラーの洞察説は、現在の日本にも大きな関連がありますよ。


 ケーラーの洞察説

ケーラーの洞察説(insight learning theory)は、ドイツの心理学者ヴォルフガング・ケーラー(Wolfgang Köhler)が提唱した学習理論で、動物や人間が問題を解決する際に「洞察」によって学習が起こるという考え方です。
 
この理論は、従来の試行錯誤による学習(条件反射やオペラント条件づけ)に対抗して生まれました。
 
ケーラーは、1913年から1920年にかけて、カナリア諸島のテネリフェ島でチンパンジーを対象とした実験を行い、問題解決における動物の洞察的な行動を観察しました。
 
彼の代表的な実験では、チンパンジーが餌を得るために、複数の棒を組み合わせたり、箱を積み上げたりする場面が観察されました。
 
ケーラーは、チンパンジーが何度も無作為に試行するのではなく、状況を「理解」したうえで、突然解決策を思いつく、いわゆる「洞察」によって問題を解決する様子を記録しました。
 

洞察学習の特徴

ケーラーの洞察説は、次のような特徴を持っています。
 
認知的理解:
 
学習は単なる反応の繰り返しではなく、問題の構造や関係を認識し、全体像を理解する過程が重要とされます。
 
個々の要素の結びつきを認識した瞬間に「洞察」が生じ、問題が解決されます。
 
突然の解決:
 
洞察学習では、解決策が徐々に明らかになるのではなく、ある時点で突然解決策が見つかることが特徴的です。
 
チンパンジーの実験でも、ある瞬間に急に棒を組み合わせて餌を取り出すといった行動が見られました。
 
試行錯誤とは異なる学習:
 
洞察学習は、従来の「試行錯誤」のプロセスとは異なります。
 
試行錯誤は偶然の成功に依存しているのに対し、洞察学習は問題の構造や状況を理解し、意図的に解決策を見つけるものです。
 

教育への応用

ケーラーの洞察説は、教育現場においても重要な示唆を与えています。
 
例えば、単なる反復練習や暗記ではなく、学習者が問題の全体像や構造を理解する機会を提供することが、深い学習を促すとされています。
 
また、難しい問題に直面した際に、洞察を得るための時間や機会を与えることが、効果的な学習につながると考えられています。
 
洞察学習は、学習の認知的側面を強調し、創造的な問題解決能力や、直観的な理解の重要性を示す理論として、現代の教育や学習理論に多大な影響を与えています。
 
ケーラーの洞察説が、現在の日本の学校現場で持つ意義や意味については、特に「主体的な学び」や「創造力の育成」において重要な示唆を与えます。
 
洞察説の基本的な考え方は、学習者が単なる知識の蓄積や反復練習を超えて、問題の全体像を理解し、そこから新しい解決策を自ら見出すことができる能力を重視しています。
 
この理論は、特に以下の点で日本の教育現場において意味を持ちます。

 

1. 主体的な学びとの関連

主体的な学びは、学習者が自ら課題に取り組み、深く考えながら問題を解決する力を育むことを重視しています。
 
洞察説の観点から見ると、主体的な学びとは単に与えられた課題を反復して解くのではなく、問題の本質を見極め、その全体像を理解し、そこから創造的に解決策を導き出すプロセスを指します。
 
たとえば、学校で生徒に課題を提示する際に、正解を単に与えるのではなく、問題の構造や背景に対して考える時間や空間を与えることで、洞察を得る学習体験が促されます。このように、「なぜそうなるのか」といった深い理解を重視する授業展開が主体的な学びに直結します。
 
生徒が自分で問題を解決するプロセスを重視することで、彼らの自発的な思考力や判断力が伸び、学びがより深まります。
 

2. 創造力の育成

洞察説が強調する「問題の全体像を理解し、新しい方法で解決策を見つける」というプロセスは、まさに創造力の発揮に直結します。
 
現代の教育において、創造力の育成はますます重要視されています。
 
これは、固定された方法や知識だけでなく、新しいアイデアやアプローチを生み出す力が求められているためです。
 
ケーラーの洞察説に基づく教育では、解決策が見つからない時でも、試行錯誤を通じて根本的な問題の理解を深めることで、突然の「ひらめき」が起こりうることが重要視されます。
 
この「ひらめき」は、生徒が既存の枠組みにとらわれずに、創造的なアプローチを試みる際に起こるものです。
 
たとえば、数学の授業で生徒が複数の解法に挑戦したり、アートの授業で新しい技法を探求したりすることで、創造力が鍛えられます。
 

3. 授業や指導への応用

ケーラーの洞察説は、現在の日本の授業や指導においても具体的に応用できます。
 
特に次のような教育活動が考えられます:
 
課題解決型学習(PBL: Project-Based Learning)
 
生徒がリアルな問題に取り組むPBLは、洞察説と親和性が高いです。
 
教師は、生徒に最初から答えを与えず、問題の背景を調べたり、複数の視点から問題を捉えたりするよう促します。
 
生徒は、洞察を通じて新しい解決策やアイデアを発見する過程で、主体的に学ぶ力を養います。
 
探究学習
 
探究学習は、自分で問いを立て、それに対する答えを探し出すプロセスです。
 
洞察説に基づくと、生徒が自分で問題を見つけ出し、試行錯誤を重ねながら解決策を探す過程で、「洞察」が得られる瞬間が訪れます。
 
このような授業設計は、生徒の思考力や創造力を高め、深い学びに繋がります。
 
協働学習
 
グループでの問題解決を促進する協働学習も、洞察説の考え方に基づいて展開することができます。
 
複数の生徒が異なる視点から意見を交換し合うことで、個々の生徒が全体像を理解し、洞察を得る機会が生まれます。
 
また、グループの中で新しい解決策が生まれることにより、互いに創造的なアプローチを刺激し合います。
 

4. 教師の役割

洞察説に基づく学習を促進するためには、教師は単なる知識の伝達者ではなく、ファシリテーターの役割を果たす必要があります。
 
教師は、生徒が自ら問題を見つけ出し、その解決策を考えるように支援する存在です。
 
具体的には、次のような指導法が効果的です:
 
生徒が問題の構造を理解するために必要な情報を提供するが、解決策は生徒自身が発見できるように促す。
 
生徒が行き詰まった時には、答えを教えるのではなく、ヒントや別の視点を提示して、生徒が自ら洞察を得る手助けをする。
 
生徒の「気づき」や「ひらめき」の瞬間を大切にし、それを学びの成功体験として積み重ねられるように指導する。
 

結論

ケーラーの洞察説は、現在の日本の教育においても、特に主体的な学びや創造力の育成に深く関わる理論です。
 
生徒が問題の本質を理解し、自ら洞察を得ることを重視した授業や指導を展開することで、単なる知識の習得を超えた深い学びが実現します。
 
また、教師は生徒が洞察を得る過程をサポートし、探究心や創造力を引き出す役割を担うことが求められています。
 

ではまた!

レトリカ教採学院(教採塾)
学院長
川上貴裕

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