【学校での保護者との法律トラブルをわかりやすく解説】by 川上貴裕
レトリカ教採学院、学院長の川上です。
本日は、個人情報保護に関する法律論です。
ありがちな、軽微な例ですが、軽微なだけに見過ごされている法律問題もあります。
もう一度、法律の土台を復習しておくとよいテーマです。
シナリオその5
児童・保護者の個人情報流出
学校が年度初めに配布したクラス名簿に、一部の保護者の電話番号や住所が誤って掲載されていました。数日後、一人の保護者が「知らない人から電話がかかってきた」と学校に連絡し、個人情報流出の可能性が発覚しました。学校はすぐに回収を試みましたが、すでに配布済みの名簿がSNS上で共有されてしまい、一部の情報が拡散されていました。学校は謝罪し、名簿を回収しようとしましたが、保護者の中には「このようなミスは許されない」「学校に個人情報を管理する能力がないのではないか」と強く抗議する人もいました。一部の保護者は、学校の責任を問うために教育委員会へ苦情を申し立てました。
児童の個人情報流出に関する法律的分析
問題の概要
本件では、学校が年度初めに配布したクラス名簿に、誤って一部の保護者の電話番号や住所が掲載されてしまったことが問題となっています。その後、一人の保護者が「知らない人から電話がかかってきた」と連絡し、個人情報が外部に流出した可能性が浮上しました。さらに、一部の名簿がSNS上で共有され、情報が拡散される事態となり、保護者から学校の個人情報管理能力を疑問視する声が上がり、教育委員会への苦情申し立てに至りました。
本件の主要な法的論点は以下の通りです。
学校が負う個人情報管理の法的義務
今回の情報流出が法令に違反する可能性
学校および関係者の法的責任
学校が取るべき対応策
以下、これらの点について詳細に分析します。
学校が負う個人情報管理の法的義務
(1) 個人情報保護法の適用
学校は「個人情報取扱事業者」に該当するか?
個人情報の取扱いについては、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)に基づき、適切な管理義務が課せられます。
個人情報保護法は、主に「個人情報取扱事業者」(法律上、一定規模以上の事業者)に適用されますが、公立学校などの国や地方公共団体の官公庁は「個人情報取扱事業者」には該当しません。
しかし、個人情報保護法は公立学校に適用されないわけではなく、地方公共団体ごとに制定された個人情報保護条例や官公庁の内部規則等によって、学校にも厳格な個人情報管理義務が課せられています。
したがって、本件でも、各自治体の個人情報保護条例等が適用されることになります。
(2) 学校の個人情報管理義務
個人情報保護法及び地方自治体の個人情報保護条例等に基づき、学校は一般に以下のような義務を負います。
適正な取得・管理義務
不要な個人情報を含めず、名簿の作成・配布を適正に行う義務。
目的外利用の禁止
収集した個人情報は、学校運営の目的以外に使用してはならない。
安全管理措置の実施
個人情報が漏洩しないよう、名簿の管理方法や配布の手順を厳格に策定する義務がある。
今回のケースでは、学校が誤って個人情報を含む名簿を配布したため、安全管理措置義務に違反する可能性があります。
今回の情報流出が法令に違反する可能性
(1) 個人情報保護条例等違反
各自治体の個人情報保護条例等では、公立学校が個人情報を適切に管理する義務を負うことが明記されています。
多くの条例等では、「本人の同意なく個人情報を第三者に提供してはならない」と規定されています。
本件では、学校が誤って保護者の個人情報を含む名簿を配布し、結果的に情報が外部に流出したため、個人情報保護条例等の違反となる可能性が高いです。
(2) 損害賠償責任(国家賠償法)
公立学校の教職員が職務中に違法行為を行い、それによって損害が発生した場合、国家賠償法第1条 に基づき、自治体(設置者)が損害賠償責任を負うことになります。
ただし、本件では、損害の程度が大きくないため、高額の損害賠償が認めらることはないでしょう。
違法行為の成立要件
教職員に過失があったこと
その過失によって、被害者に損害が発生したこと
損害と過失に因果関係があること
今回のケースでは、学校の過失によって個人情報が外部に流出し、一部の保護者が不審電話を受けたことは損害と認められる可能性があるため、学校を設置する自治体に国家賠償責任が問われる可能性があります。
学校の法的責任と対応策
(1) 法的責任
(1)学校の責任
学校は、個人情報保護条例等に基づく管理義務違反の責任を問われる可能性があります。
(2)自治体の責任(国家賠償法)
自治体が、学校の管理義務違反による損害賠償責任を負う可能性があります。ただし、損害賠償責任は、被害の程度によるので、今回の場合は、大きな額の賠償責任とはならないでしょう。
(3)学校職員の個人責任
本件では、名簿を誤配布した教職員の個人責任が問われる可能性は低いですが、悪意や重大な過失があれば、懲戒処分を受ける可能性があります。
(2) 学校の対応策
迅速な事実確認と謝罪
学校は、個人情報が流出した経緯を調査し、関係する保護者に対して迅速に謝罪しなければなりません。
拡散防止の措置
SNS上に拡散された情報については、SNSの運営会社に削除要請を行うことが必要です。
今後の再発防止策
名簿作成時のダブルチェック体制を導入
配布前に個人情報を含む箇所を厳格にチェック
デジタル名簿の活用(紙ベースの名簿を削減)
保護者への説明会の実施
学校の管理体制の見直しについて、保護者向け説明会を開催し、不安を解消する努力をする。
まとめ
本件では、学校が誤って保護者の個人情報を含む名簿を配布し、情報がSNS上で拡散されました。
これは、地方自治体の個人情報保護条例等に違反する可能性が高く、また、国家賠償法に基づく損害賠償責任が問われる可能性があります。ただし、今回の場合、不審な電話がかかったという程度なので、大きな賠償額とはならないでしょう。
学校としては、迅速な謝罪と拡散防止措置を行い、再発防止策を徹底する必要があります。
さらに、保護者の信頼回復のため、説明会を開き、個人情報管理の徹底を誓約することが重要です。
本件は、学校における個人情報管理の重要性を再認識し、適切な対応策を講じるべき事案であるといえます。
ではまた!
レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕