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日本のボードゲームシーンの現況と展望

ドイツのボードゲーム雑誌『SPIEL DOCH!』の2021年冬号に、日本のボードゲームシーンの特集記事が掲載されました。

この文章は、その記事が編成されるにあたって、上杉がドイツの記者から受けたインタビューの質問と回答を日本語に訳したものです。

本文では、日本のボードゲームシーンの現況と展望についての自分の考えを記載しています。

海外の記者に伝えるために、日本の状況を単純化している部分があります。また一部、日本のボードゲームシーンではなく、上杉個人に関する質問と回答が含まれています。ご了承ください。

1.

日本の生活環境(多くの仕事・少ない休暇・住居の状況・家族の構成)は、人々のレジャー活動にどのような影響を与えているのでしょうか。日本ではどのようなレジャーが一般的でしょうか。
また、技術水準の高い近代国家である日本において、ボードゲームやカードゲームは、特にビデオゲームやスマートフォンゲームと比較して、どの程度の重要性を持っているのでしょうか。それらは単にニッチな存在なのでしょうか。それとも、それ以上のものなのでしょうか。

たしかに日本では長時間働く傾向があり、週末にレジャーを楽しむ人が多いと思います。日本では、テレビを見たり、買い物に出かけたり、おいしいものを食べたりするのが主なレジャーでしょうか。また、キャンプやトレッキング、釣り、サイクリング、ゴルフ、フットサル、バスケットボールなどを楽しむ人々もいます。もちろん、ゲームも主なレジャーのひとつです。

ビデオゲームに比べれば、日本では日常的にボードゲームをする人はほとんどいません。多くの人がスマートフォンに1つ以上のゲームをインストールしていると思いますが、家の棚にボードゲームを置いている人は少ないでしょう。しかし近年は、むしろデジタル技術に囲まれているからこそ、人と人とのコミュニケーションを重視したボードゲームがさまざまなメディアで取り上げられるようになってきています。

2.

日本ではどのような人々がボードゲームやカードゲームをプレイしているのでしょうか。
家族(親が子供と)? 大学生? 大人(だとしたらどんな年齢層)? 女性プレイヤーの割合はどのくらいでしょうか?
(あるいは、ボードゲームは「子供のもの」とみなされているのでしょうか?)

学生や、学生の頃にボードゲームに出会った大人が大部分なのではないかと思います。20代から40代の方が多いのではないでしょうか。近年までは、日本では国産のボードゲームが少なく、海外のボードゲームの日本語版も多くありませんでした。そのため、少なくないプレイヤーが自分で海外のボードゲームを輸入・翻訳してプレイしていました。

以前は、女性プレイヤーの割合はかなり少ないと言われていましたが、近年はカジュアルなボードゲームカフェが増えてきており、そのようなカフェの客のおよそ50%が女性だという話もあります。

ゲーマーでない人の多くは、『人生ゲーム』や『ウノ』以外のゲームを知りません。子供の頃に遊んでも、大人になると「子供のもの」だと考えるようになる人がほとんどだと思います。日本でボードゲームが一般的な大人のホビーになるには、もう少し時間がかかるのではないでしょうか。

3.

あなたがボードゲームを始めるきっかけとなった「ドア・オープナー」は何だったのでしょうか。いつ頃からボードゲームを日常的にプレイするようになったのでしょうか。

大学生のときに初めてボードゲームを買いました。『カタン』や『カルカソンヌ』のようなクラシックなユーロゲームや、『ルーンバウンド』や『トワイライト・インペリウム』のようなアメリカンゲームでした。アメリカから輸入したので、送料を抑えるために一度にたくさんのゲームを注文しなければなりませんでした。それらを翻訳し、大学に持ち込んで友人たちとプレイしていました。

すぐにボードゲームを好きになり、毎月10作品ほど購入するようになりました。特にヘビーなゲームを気に入りました。なぜなら、それらは日本で一般的に「ボードゲームといえば」とされている『人生ゲーム』や『ウノ』とは全く異なるものだったからです。

それよりも以前から、ビデオゲームや『マジック:ザ・ギャザリング』を始めとするCCGをプレイしていました。その経験がこのホビーを始める要因になったことは間違いありません。当時の日本のボードゲームプレイヤーの多くは、CCGやRPGの経験があったのではないかと思います。

今の日本では、1分もかからずにルールを説明できるようなごくライトなゲームが、多くの人々の「ドア・オープナー」になっています。そうやってボードゲームに出会った人々が、今後もそういったライトなゲームだけをプレイするのか、それとも他のジャンルのゲームもプレイするようになるのかはまだわかりません。

4.

何がゲームをよいゲームにするのでしょうか。

私の考えでは、よいゲームは次の2つのものを同時に備えています。

1) 楽しさ(Fun)。よいゲームは、プレイヤーをひきつけるテーマを持ち、美しく、快感を生み続ける構造を持ちます。

2) おもしろさ(Interesting)。よいゲームは、プレイヤーに考えさせます。自分の選択に意味があるのだと感じさせます。仮説を立てさせ、計画させ、実践させ、新しい考え方を発見させます。

5.

あなたの考えでは、ボードゲームやカードゲームへの関心は今後も続くと思いますか?

間違いなくそう思います。

日本では、ボードゲームは人々に「発見」されたばかりで、まだまだこれから広がる可能性を持っています。ビデオゲームのプレイヤーや、CCGのプレイヤーや、囲碁や将棋のプレイヤーなど、このホビーを気に入りそうな人々の中ですら、まだボードゲームのことをよく知らない人が大部分です。

世界的に見ても、現代的なボードゲームの歴史はまだ浅く、今後も数え切れないほどの発明や発展が行われるでしょう。紀元前から人類がボードゲームとともに生きてきたことを考えれば、未来においてもその重要性が失われることはないだろうと信じています。

これからの時代、ロボットや人工知能が発達し、人々がさらなる余暇を持つようになれば、ゲームをプレイしたり作ったりすることがさらに大きな重要性を持つようになるかもしれません。

6.

ゲームのシーンは国際的なものだと思います。あなたは海外にも目を向けているのでしょうか。もしそうなら、ドイツの(あるいはヨーロッパの)ゲームのどのような部分が好き(あるいは嫌い)でしょうか。あなたは海外のゲームをプレイしますか。それとも日本のゲームを主にプレイするのでしょうか。
ドイツの(あるいはヨーロッパの)ゲームは、あなたの作品に影響を与えているのでしょうか?

日本のボードゲームのシーンは、長い間、海外のシーンの後を追ってきました。日本で国産のボードゲームが市場に並ぶようになったのはここ数年のことです。それまでは、自費出版の「同人ゲーム」が少量生産されていましたが、主流としてプレイされるのは海外のゲームがほとんどでした。現在は、日本のボードゲームしかプレイしない人もいれば、日本のゲームを「本物のボードゲーム」ではないと考える人もいると思います。

私は、ヨーロッパやアメリカのボードゲームに感銘を受け、それらに追いつけないかと考えてゲームを作ってきました。ヨーロッパのゲームからはルールの美しさや数学的な構造を学び、アメリカのゲームからはダイナミックなゲームプレイやテーマの表現が持つ力を学びました。私個人が目指すのは、それらをひとつにブレンドしたゲームを作ることです(それは『アグリコラ』や『ドミニオン』以降の世界的な潮流のひとつかもしれませんが)。

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