『マラカイボ』からゲームデザイナーが学べる5つのこと
『マラカイボ』、とってもいいボードゲームですね。
このゲームはアレクサンダー・プフィスター氏によってデザインされました。
彼は『アイル・オブ・スカイ』『モンバサ』『グレート・ウェスタン・トレイル』『ブラックアウト香港』といった怪物級のゲームを毎年のように連発している(さらには『オー・マイ・グッズ!』のような完成度の高い小さなゲームも並行して出している)、才気あふれるゲームデザイナーです。
『マラカイボ』はその中でも氏の集大成と言えるすさまじいゲームです。そこから多少なりとも我々が学べることがないかを探してみようと思います。
1. その価値があるならば、複雑性を恐れる必要はない
『マラカイボ』は非常に複雑なゲームです。
ルールブックは24ページもあり、通して読むだけでも大変です。最初のプレイを始める前の準備と説明のために、おそらく1時間はかかるでしょう。
複雑過ぎるゲームを制作することには強いリスクが伴います。作ること自体も困難ですし、高い価格・難解なルール・長大な所要時間はプレイに至るためのコストとなるため、「それほどのコストを支払ってまでプレイする価値があるだろうか?」とプレイヤーを萎縮させてしまいます。
しかし、それを作るのが既に評価を確立したプフィスター氏ならどうでしょうか。コストの高さはむしろ期待感につながり、面倒な準備の時間ですらプレイヤーを楽しませる可能性があります。
世には、より高い山を求めるように、より大きなゲームを求めるプレイヤーが十分な数います。彼らの注目を惹きつけられるなら、複雑過ぎることがむしろ価値にもなるでしょう。
2. メカニズムの組み合わせ方にもコツがある
大きなボードゲームは、本質的には複数のメカニズムの組み合わせによって成り立っています。
『マラカイボ』は以下の要素の組み合わせだと言えるでしょう。
ここで重要なのは「入力のメカニズム」は1つしか採用していないということです。
ボードゲームのメカニズムは、プレイヤーがゲームに働きかけるための「入力のメカニズム」と、その入力を受けてゲーム内で働く「内部のメカニズム」の2種類がありますが、『マラカイボ』でプレイヤーが入力する入り口は「スゴロクで何歩進むか」という単一の選択だけです。
「入力のメカニズム」を1つに絞っていることが、この複雑なゲームをアクセシブルな(プレイしやすい)ものにしています。助手が配置されるのも、探検が進むのも、戦争の趨勢が変わるのも、すべて「スゴロクで何歩進むか」という単純で限られた選択の結果として生じます。プレイヤーは、毎ターンすべての可能な選択肢のメニューから1つを選ぶために考え込む必要がないのです。
また、プフィスター氏が『マラカイボ』を完成させるために自身の過去作の各要素を部品として使用したことは、別の重要なことを示唆してくれます。クニツィア氏やローゼンベルグ氏のような高名なデザイナーの多くが、このように特定のメカニズムを何度も変奏して、より優れたゲームを生み出し続けています。これは、あなたがゲームデザイナーとして経験を積めば積むほど、使える道具が増えていくということを意味しています。
3. ゲームを区切ればプレイヤーは短期計画を立てられる
『マラカイボ』は大きすぎて、開始時点では未来を見通すことが非常に困難です。
先のことが全く見通せないと、プレイヤーは不安を感じます。それに対処するために、このゲームでは小目標をカードの形でプレイヤーに手渡すことで、「まずはここを目指してみてね」というメッセージを送っています。
それと同時に、ゲーム全体を4ラウンドに区切り、同じマップを4度周回させる構成にしています。さらにこの各ラウンドは、以下の2つの条件を満たしています。
つまり、このゲームは「ドカッと金をもらって、それをうまく使う短期計画を立てる」ことを4回繰り返す構成となっています。プレイヤーはゲーム全体のことを考えるのではなく、「このラウンドで得た収入をいかに最適に使うか」という部分に集中できるようになっているのです。
4. カードの分配方法はまだまだ存在する
『マラカイボ』には特殊効果つきの100枚超のカードが登場します。
こういったカード効果を軸にしたゲームでは、「カードをいかにプレイヤーに分配するか?」ということが大きな課題となります。分配方法が運に偏りすぎれば「あのカードを引けなかったせいで負けた」と思われますし、プレイヤーの意思で自由に獲得できすぎれば毎回同じ展開に陥る危険性があるからです。
この課題には、解決のためのさまざまな手法が試みられています。
たとえば『世界の七不思議』では、『マジック:ザ・ギャザリング』のブースタードラフトを借用して「だいたい半分くらいのカードを目にしてそこから一部を自由に選ぶことができる」という塩梅を実現しています。
『サンファン』や『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』では、「カードを使用するためのコストとして他のカードを捨てる」仕組みにすることで、「引いたカードのうち実際に使用して場に出すのは自分が選んだ一部だけ」という構造にできています。
『ドミニオン』では、獲得するカードはプレイヤーが自由に選ぶことができますが、どのカードがゲームに登場するかを毎回ランダムにして、自由度を保ちながらも展開の固定化を防いでいます。
そして『マラカイボ』では、「カードにそれ自体とは関係のない資源アイコンを描き、資源として気軽に消費できる」という手法と、「手札が減っていればターン終了時に規定枚数まで自動的に補充する」という手法を組み合わせることで、手札を高速に回転させてその中から使いたいものをプレイヤーが選ぶことを可能にしています。
5. 運試しの機会が増えれば、むしろ運の影響は減る
『マラカイボ』はとても戦略的で、プレイ時間の長いゲームです。そういったゲームの結果が運によって決まるのを、プレイヤーは好まないでしょう。
しかし、このゲームの戦略面は多様な特殊効果を持ったカードに依存しており、カードの獲得にランダム性が関わる以上、勝敗に運が影響するのを完全に避けることは不可能です。
であれば、長大なゲームの結果をより納得のいくものにするために、ゲームデザインは何ができるでしょうか?
ひとつには、運をよりプレイヤーにコントロールできるようにすることができます。上で述べたように、『マラカイボ』では大量なカードをプレイヤーに見せ、その中から本当に使いたいものを自分の意思で選べるようになっています。また、カードをランダムに山札から引くのではなく、金を払って場のディスプレイから取るという選択肢も用意しています。
そして、『マラカイボ』ではさらにもうひとつの手法が使われています。すばらしいゲームにはどれもひとつの魔法がかけてあるものですが、これこそがプフィスター氏がこのゲームに振りかけたひとつまみの魔法なのではないか、と自分は思います。
それは、ゲーム中に行われる運試しの機会を増やすことです。
『マラカイボ』では、戦闘が行われるたびに「戦闘タイル」がランダムにめくられ、その内容によって戦闘から得られる報酬が変わります。タイルの種類は豊富で完全に予測することは不可能であり、めくった結果として本来自分が一番やりたかったことができない場合もあります。
このゲームは、勝敗に運が影響する比重を減らすために、あえてより多くの運の要素を取り込んでいるわけです。
このことは一見直感に反するかもしれませんが、「最もランダムでないゲームはサイコロを一切ふらないゲームである。しかし、最もランダムなゲームはサイコロを大量にふるゲームではなく、サイコロを1つだけふるゲームである」からです。運試しの機会が増えるほど、各プレイヤーの幸運と不運の割合は平均に収束していきます(大数の法則)。こういった選択をできるゲームデザイナーがどれほどいるでしょうか?
またこの「戦闘タイル」は、一匙の塩としてランダム性をゲームに加えることで、展開をわずかに予測不能にし、プレイヤーを驚かせ、期待させ、新鮮な気持ちにさせることに成功しています。そしてここでも、「タイルをめくるというランダム性のあとに3択の自由な選択肢を用意する」ことで、プレイヤーが理不尽すぎると感じることを防いでいます。
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* この記事は、Board Game Design Advent Calendar 2019 の25日目の記事として投稿されたものです。
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