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小説-DAWN OF AKARI-奏撃の い・ろ・は

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以前クラウドファンディングでアニメ化を試みて未達に終わった「ABC of Akari」の企画をベースに、新たにストーリーを作り直した独自ビルド版の小説です。よろしければ読んでくだ…
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小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(01)

-DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は 「汝の意志することを行え 」(do that which you want) フランソワ・ラブレー『ガルガンチュワとパンタグリュエル』より プロローグ 〔――今世紀最後の秘宝大公開!――〕  通販の誇大広告のような、仰々しい煽り文句が目を引く巨大なポスターが、空港ロビーの至る所に貼ってある。  ここは、ロンドン・ヒースロー空港のクイーンズターミナル(T2)。待合ロビーの其処此処に設置されたフライトインフォメー

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(02)

2 イングランド南部イースト・サセックスのとある場所で、右目を眼帯(アイパッチ)で覆いながらも、その顔にどことなくあどけなさが残る一人の少女が、動けない身体を大地に横たえていた。  現在の時間は真夜中の午前1時。  昼間ならここからさほど遠くない場所でセブンシスターズと呼ばれる海岸線にのびる壮大な白亜(チョーク)の岸壁を観ることが出来ただろう。  風光明媚な場所を散策するトレイル中の観光客にも会えただろう。  しかしながら今此処は静寂な闇に包まれている。  そんな暗闇の中

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(03)

3 ――足許から微か5メートルほど先しか視認することができないほどの深い霧の中。アレイスターはひたすら歩いていた。此処が何処なのか、自分がいったい何処に行くのか解らないまま――ただひたすらに。 「体中に纏わり付く濃霧が方向感覚をも狂わせてしまう」  アレイスターは感じていた。  しばらく彷徨っていると、何本もの帯状の光が霧に反射して輝きだした。彼を取り囲むスポットライトだった。眩しい光の向こう側に目を凝らすと、薄らと巨大な円錐形のシルエットが視えた。  さらに近づけば、そ

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(04)

 この独自ビルドの物語にはオープンソースコミュニティへのリスペクトも兼ねて様々なオープンソース・ソフトウエアやガジェットが遊び心で登場してきます。その辺りも楽しんでただけるように頑張ります。 4  6月のロンドン、この季節は日没時間が遅いこともあって、繁華街のソーホー地区は地元のみならず多くの観光客で活気にあふれていた。街は華やかなネオンが輝きパブやナイトクラブは多くの人で溢れている。  そんなソーホーにも観光客が敬遠しそうな裏通りがある。そんな裏通りの一角にある店、それ

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(05)

5 深い眠りから覚めたアカリ。  全身を包帯で巻かれていた。  スタンドに引っかけられた点滴が滴のように落ちながらチューブを通って左腕に刺した針へと流れ込んでいた。  指先に装着したパルスオキシメータと、胸部に貼り付けた心電測定の電極から出たリード線はベットサイドモニタに繋がれバイタルサインを告げる微かなビープ音を静かな部屋にリズミカルに響かせていた。  足元には深部静脈血栓症を防ぐためのフットポンプが設置され、これもリズミカルに両足の圧迫と弛緩をひたすら繰り返している。  

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(06)

6  クラブハウス『シン・禁断の惑星』(ネオ・フォービドゥン・プラネット" Neo Forbidden Planet ")の入り口で、制服スタッフによるIDチェックを済ませるとアレイスターは、エントランスでマルボロを一服してから店内に入った。  一階のダンスフロアではDJによるクラブミックスソングが流れている。アレイスターは着ていたアクアキュータムのコートをクロークに預け、注文したスコッチのグラスを片手に二階のソファー席に座った。  ここネオ・フォービドゥン・プラネットに

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(07)

7 銀行のシステムエンジニア、リチャード・ガストンが住んでいたアパートはイコン大学近くのアドラー・ストリートにあった。  マット警部を中心に数名の警官によって近所の住人への事情徴収とアパートの家宅捜索がおこなわれていた。 「アレイスターはどうした! 連絡がつかないのか?」  マットが部下にアレイスターの所在確認を指示した。  リチャードの部屋は南側に大きな窓がある見晴らしの良い3階の部屋だった。  床に転がっているゴミも無く、本棚の書籍は整理整頓され片付けられており、一人暮ら

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(08)

8  鮮やかなアーデントレッドのエリーゼが停車した。  大株主だったロマーノ・アルティオーリの孫娘の名前が付けられたその車は、ノーフォーク州ヘセルでファクトリーチューニングされた直列4気筒DOHC16バルブのトヨタ製エンジンと、6速マニュアル・クロスミッションを搭載しながら、わずか876kgという当に英国が誇るスポーツカーブランド『ロータス』のライトウエイトスポーツカーだった。  エンジンを切ると、圧縮された空気が一斉に解放される様な低い音がして、その情熱的な紅色の扉が

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(09)

9 アリィ・パリィの愛称で知られるアレクサンドラ・パレスは、ロンドンの北東部にあるビクトリア朝様式の宮殿だ。『市民の宮殿(The People’s Palace)』として1837年に開業したその施設は、2度の火災の憂き目に会いながらもその都度再建され、現在もロンドン市民の憩いの場として利用されている。  アレクサンドラ・パレスまでは、地下鉄ピカデリーラインのウッド・グリーン駅で降り、そこからアレクサンドラ・パレスまでのバスが6分置きに出ている。  駅から徒歩でだと20分ぐらい

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(10)

10  突然、二人組の黒服の男達がアレイスターに襲い掛かってきた。  ソーホーの裏通りにある日本料理店『バンザイダイニング』の通りに面している入り口付近だった。アレイスターがちょうど店に入ろうとしたところを襲われたのだ。 「何者だ!?」  アレイスターの問いに黒服の男達は全く答えない。  最初は酔っ払いが搦んできたのかと思った。しかし男達の機敏な動きから、ただ者ではないのが直ぐに判った。MPSで格闘術のトレーニングをしているアレイスターでさえも防戦一方だったのだ。  一足

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(11)

11  若くして斬首刑に処せられた古代ローマの聖人の名前を冠したドーバー海峡トンネルを走る国際列車の発着駅がセント・パンクラス駅だ。  人工の三分の一が外国生まれの多民族国家イギリスでは多くの外国人達がこの駅を通じて往き来している。  駅構内にあるショッピング・コンコースの中央から二階へと伸びる階段の下には“Play me, I'm yours”(自由に弾いてください、あなたのものです)というメッセージとともに、一台のストリートピアノが置いてある。  旅人達はピアノの前に自由

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(12)

12  ロンドン郊外の南西部で、中心部をテムズ川が流れる風光明媚なリッチモンド。其所はかつて英国王室の宮殿があった歴史的に重要な地域だ。ヒースロー空港とロンドン中心部の大凡中間地点に位置し、そのリッチモンドという名が示すように住民は富裕層も多く、比較的に治安の安定した高級住宅地としても知られている。最近は世界的に有名なインターネット関連企業のPayPalやeBayなどが英国における支社をここリッチモンドに拠点を移した事で、より多くのICT産業がこの地区に集積し始めているのも

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(13)

13  ピーターシャム・ホテルのトイレの前は割と広めな空間で、白地に鮮やかなブルーの花柄をあしらったモノトーンの壁に囲まれ、お洒落なドレッサーとソファが設えである。其所はまるで宮殿のプリンセスのお部屋みたいな場所だ。  そんな場所でビーチサンダル履きの巨漢の男が深々とソファに座り、目の前の花柄の壁を真剣に見つめながら電話をしていた。端から見るとそれはなかなか奇妙な光景だった。  電話中の男はBSCの技術開発セクション主任技師のトッド・マクガイヤーことビックマック、そして電話

小説 -DAWN OF AKARI- 奏撃(そうげき)の い・ろ・は(14)

14  自宅の納屋を改造したガレージで自動車を組み立てる小規模生産の自動車メーカーが多かった英国では親しみを込めてバックヤードビルダーという呼び名が生まれた。  スコットランド南東部イースト・ロージアンのとある古城に、そんなバックヤードビルダーの雰囲気を現代に踏襲するようなファクトリーベースがある。  表向きは警備保障会社『ブラック・サイン・コーポレーション(BSC)』傘下の車両整備工場で、歴史と伝統を感じさせる古城の外観とは打って変わって内部には最新のハイテク設備が整って