ロストケア 救ったのか罪か
あらすじ
早朝の民家で、老人と介護センター所長の死体が発見された。
地方検察庁に勤める検事の大友秀美(長澤まさみ)は、この事件を担当することに。
大友と事務官の椎名(鈴鹿央士)が調べていくうちに、この介護センターでは高齢者の死亡率が他の介護施設に比べて異様に高いことが判明する。
やがて捜査線上に、この介護センターで働く介護士の斯波(松山ケンイチ)が浮かび上がる。
献身的な仕事ぶりで高齢者やその家族から慕われていた斯波だったが、大友が取り調べをするとあっさりと殺人を認めた。
しかも、斯波の手によってあの世に送られた高齢者は、42人にも及ぶという。
どれも事件性はなく、自然死もしくは病死と判断されたケースばかりだった。
この介護センターでいったい何が起きているのか? 大友は、真実を明らかにするべく取り調べ室で斯波と対峙する。
「私は救いました」。
斯波は犯行を認めたものの、自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」だと主張する。
斯波の言う「救い」とは、一体何を意味するのか。なぜ、心優しい青年が未曽有の連続殺人犯となったのか。
斯波の揺るぎない信念に向き合い、事件の真相に迫る時、大友の心は激しく揺さぶられる。
葉真中顕の同名小説を、映画化。
感想など
ストーリーは、葉真中顕の原作小説に概ね忠実に描かれるが、労力の割に介護報酬の低さで報われず介護サービスの利用者情報を振り込み詐欺に悪用する佐久間のパートは全面カットし、斯波に対峙する大友検事の性別を女性に変更して認知症の母親を老人ホームに預けていて生き別れの父との関係で暗い秘密を抱えているという設定を付け加えることで、親を介護することになりながらも自助社会の穴に落ちるか落ちずに済んだ明暗が分かれた者のように見えながらも鏡を挟んだような似た者同士でもある斯波と大友検事の正邪不二の関係を強調することで、「愛と世話の間で葛藤し社会の穴の底で這い上がれない」「家族の絆が縛り付ける呪いになる」ワンオペ介護の果てに尊属殺人を犯したことをきっかけにかつての自分のような肉親の介護と仕事と家庭に疲弊する家族を救うために高齢者を殺害していく斯波が唱える正義と「殺人を許さない法の正義」「家族愛や個人の尊厳や生命の価値を守る人倫の正しさ」を唱える大友検事の正義のぶつかり合いの中で浮き彫りになる、家族が介護する中での絆と世話の間で割り切れない思いを抱えて介護を続ける中で疲弊してしまう家族の苦しみと介護など社会保障を削り自助努力を押しつけ苦しむ国民を見捨てる自己責任社会の闇と自己責任社会の穴に落ちない為に社会の穴の底で苦しむ人を見て見ぬふりをする国民の罪を、松山ケンイチと長澤まさみの見応えのある演技バトルや柄本明などの演技で骨太に描く社会派ヒューマンサスペンス映画。
自己責任社会の穴に落ちない為には、同じ前田哲監督作品「こんな夜更けにバナナかよ」の鹿野さんのように他人に助けをなりふり構わず求める図太さ逞しさと助けてくれる人たちとの絆、何よりこれを下支えする医師や介護士や政治家の力が必要であること。介護の悲惨な現実を自分事として知り考えることが、必要であることを痛感した。
「人にしてもらいたいことは何でも、あなた方も人にしなさい」マタイによる福音書第7章12節
U-NEXTなどで、配信中。