SDGsプリンセス👰🏻♀️
第一話 ゴミ捨て場で恋は生まれるの
『2013年夏』テレビの画面上にポップな文字が浮かび上がりドラマが始まる。
女性のナレーターが淡々と喋り始める。
『私は東京の大学に合格して一人暮らしを始めた。中央線沿線のアパートを借りて武蔵境方面まで週五日通った。高校を卒業して親元を離れれば自由になると思ってたけれど現実は違った。洋服に興味があって始めたアパレルのバイトでは怒られてばかりだったし恋人も全然できなかった。食事はコンビニの弁当ばかりで想像していたキラキラな毎日とは程遠かった。友達もそれなりにできたけど「キャリア」とか「単位」とかそんな言葉ばかりで詰まらない。私の人生も敷かれたレールの上を乗っているだけなんだろう。そう思いながらイヤホンで音楽を聞いて帰り道を歩いていた』
ナレーションが終わってペールブルーのタイダイ染めTシャツにダメージ加工の入ったデニムを履いた女子大学生が耳にイヤホンをしながら歩いているシーンが流れる。髪は水色でポニーテールに纏めていた。リュックサックを背負っていてたくさんの荷物が入っている。憂鬱そうな顔をして俯き加減で歩いていた。背景には夕陽と影になった富士山が映っていた。彼女の手元にはコンビニ弁当が入ったビニール袋と飲みかけの炭酸飲料が握られていた。【山下コーポ】と古ぼけた字で書かれたアパートが画面に映り込む。彼女は炭酸飲料をすべて飲み干しゴミ捨て場に捨てた。『ゴンッ』と強い音がして『ウッ』と声がする。
「それは、SDGsな行動ではないぜ?」ゴミ捨て場がガサガサと動きボロボロの洋服を着た青年が現れる。
「何?」彼女が声に反応しゴミ捨て場を見ると男と目が合う。
「ギャッ。人?」
「これ、捨てたでしょ?」青年は彼女に空のペットボトルを投げる。彼女は驚きながら炭酸飲料のペットボトルをキャッチする。
「何?あなた何してるの?」
「ここで見張ってた」
「何を?」
「サスティナブルな地球に決まってるでしょ」青年は彼女にウィンクをする。
「サスティナブル?何それ?」
「持続可能性。未来にも美しい地球を残していこうよって事だよ。君、分別しないで適当に捨てたよね?それ、サスティナブルじゃないからやめなよ」
「いつも普通にやってることだしあなたに言われる筋合いないわよ」
「そういう風に当たり前を疑わない人類が地球を滅ぼすんだよな。今日から分別しようよ。トレンド追いかけてるんでしょ。ファッションだけがお洒落じゃないぜ」
「わかったから私の家のゴミ捨て場から退いてよ。あなたいたら汚くて捨てられないわよ。ところでお風呂入ってるの?」
「お風呂の水だって節水した方がいい」
「そんなこと言ったってあなた酷い格好よ。お風呂ぐらい入れば?」
「実は金がなくてここのアパート追い出されたんだ。一晩だけ泊めてくれないか?」
「あなたここの住人だったの?別にいいけど一晩だけだからね」
「恩に着るよ。いつかお返しするから」
「お返しなんていいからさっさとお風呂入って帰ってよ」
彼女とゴミだらけの青年はアパートの階段を上がっていった。玄関に入るとボヘミアン調で纏めた彼女の部屋が映る。彼女はすぐに風呂を準備して青年は浴槽に入り身体を洗う。その間に彼女は青年の着ていた洋服を洗濯する。酷い匂いが鼻をつく。風呂場から青年の歌声が聞こえてくる。意外と歌はうまい。彼女はキッチンへ行き電子レンジで弁当を温める。ついでにポットのお湯も沸かす。自分の分の弁当が温め終わると青年の分も昨日の残りのご飯を温め余っていたカレーも電子レンジに入れる。それから彼女は青年でも着られそうなTシャツやハーフパンツを用意して脱衣所まで持っていく。下着だけ丁度いいものが見当たらなかったので両親が来た時のためにと用意しておいたお父さん用の新品のパンツとシャツと靴下を渡しておいた。彼女はポットで沸かしておいたお湯を青いカップに注ぎインスタントコーヒーを入れリビングのリクライニングチェアに座ってブラックで飲んでいる。ゆっくりと寛いでインスタグラムをチェックする。大学の友人が華やかなカフェでランチを食べた写真をアップしている。『私は誘われてないんだけどな』と思いながらいいねを押す。インスタグラムは一週間に一度投稿すればいい方だった。大学とバイトと家の往復で載せる写真がないし無理して自分に注目を浴びさせる必要性も感じなかったから専ら見る専門でやっていた。だからフォロワーは八十人に満たないぐらいで常時いいねをくれるのは十人ぐらいしかいなかった。フォロワーが千人とか二千人の同級生を見つけると正直羨ましかったし『容姿は私の方がいいのにこの子達の方が輝いている』と思ってしまった。ガラガラガラと音がして風呂場のドアが開く。『他人がこの家に来るのは初めてのことだ』彼女は知らない男性が家にいる状況にドキドキしていた。10分程緊張しながら格好つけてコーヒーを飲んでいたら髪の毛を乾かしながら青年が脱衣所から出てきた。匂いがなくなってマジマジと彼の顔を見ると予想以上に綺麗な顔立ちでビックリしすぎて彼女はコーヒーに咽そうになった。一人で焦っていると彼が『ドライヤーどこ?』と聞いてきたので『洗面所の左下の扉の中』と言って右手の人差し指で指し示す。『あった。あった』と言って彼はドライヤーをかけ始める。『こんな格好良い人私のアパートに住んでたんだ』彼女の胸は自分でも信じられないぐらい高鳴っている。その時彼女のiPhoneに電話が鳴った。彼女は慌てて通話ボタンを押す。後ろの方でドライヤーの音が響き続けている。
「もしもし恋?今暇?珠希とディナー食べてるんだけど恋も来るかなーと思って電話してみたの!」
「今?今はねー。ええと、暇、暇じゃないよ。ご飯食べてた」
「どうしたの?恋なんか変だよ。声裏返ってるし!」店内は激しい音楽がかかっていて酷いノイズが入り込んでいる。
「今ね。忙しいの。暇じゃないんだってば!」
「後ろからドライヤーの音聞こえない?」珠希の声がして『ヤバッバレた』と思い彼女は焦り出した。
「もしかして彼氏?恋彼氏できたの?水臭いなー。教えてよ。じゃあ忙しいわよね」
「違っ。彼氏じゃないってば」ゴミ捨て場で拾ってきたと本当のことは言えず彼女は何とか誤魔化そうと必死だった。
「どんな人よ?私達親友だと思ってたのに抜け駆けは許さないわよ。今度紹介してよね。珠希、恋彼氏できたって」
「本当?代わってよ?イケメンなの?イケメンなのかだけ知りたいわよ。恋に見合わない人だったらブン殴ってやるんだから」
「珠希激しすぎだってば。恋の彼氏なんだからイケメンに決まってるじゃない。約束よ。絶対今度見せてよね」
「だから彼氏じゃないって偶々家に来てただけだから」
「偶々家に男がいるってどういう状況よ?どっちから告白したの?教えてよー」
「もういいって違うって。近所の人だから。近所の...」その時スッと電話口から声が聞こえなくなった。
「もしもしこの子の友達ですか?」
「あっ、どうも初めまして。恋がお世話になってます。どんなご関係ですか?」
「偶々この子のお家にお邪魔してるだけなんですよ。彼氏ではないぜ」
「恋いい子なんで付き合ってあげてください。この子ずっと恋人いないんですよ」
「いいですよ。付き合いますよ」
「えー!ちょっと、勝手に決めないでよ」
「良かったです。これで私達安心です。ずっと心配だったんですよ。こんなに可愛いのにこの子恋人全然できないから」
「僕でよければ付き合いますよ」
「恋ー?恋、良かったわね。恋人できたじゃん?嬉しい?嬉しいね!」
彼女はiPhoneを彼から取り上げた。
「何で勝手に付き合うことになってるのよ!」
「良いじゃん。良い人そうだよ。頑張ってね。私達は私達で楽しむからさ」
「ちょっと。ちょっと。待ってよ。待ってってば」そこで電話は切れてしまった。
「どういう事?付き合うって」
「まあ良いじゃん?期間限定のカップルって事で」
「私の気持ちの整理が全然ついてない。まだ出会って30分ぐらいよ?」
「まあご飯食べようよ」
「分かったわよ。じゃあ、いただきます」
「いただきます」彼女と青年はご飯を食べ始めた。
「このカレーめちゃくちゃ美味いね」
「私が作ったんです」
「料理上手だね」
「ありがとうございます」彼女は『ちょっと悪くないかも』と思い始めていた。
「お風呂も温かかった」
「それは良かった」
「仕事はしてるんだけど家賃払えなくなっちゃって」
「そうなんですね。何でウチのアパートのゴミ捨て場に居たんですか?」
「説明すると長くなるんだけど」と言って青年は語り始めた。彼は昨日の晩山下コーポに帰ってくると部屋の鍵が交換されていて入れなくなっているのとに気がついた。理由は家賃滞納だと知っていたが大家の家まで行って抗議することにした。インターフォンを鳴らすと大家が出てきて『家賃払ってないんだから当たり前だろう』と怒鳴ってきたので『だからって酷いじゃないか』と言い返したら思いっきり頭をブン殴られて気がついたらゴミ捨て場で寝ていて起きたのが丁度彼女が帰ってきたタイミングだった。そして今に至ると経緯を説明した。それを聞いて彼女は笑ってしまった。
「それって完全に大家が悪いよね?」
「そうなんだよ。俺は被害者なんだって」
「めっちゃ受けるよ。その話。警察行かないの?」
「行かない。何か馬鹿馬鹿しくて。結局俺が悪いって言えば悪いんだし」
「何で家賃払わなかったの?」
「実は会社起こそうと思っててさ。それの資金集めてたら家賃払うのが遅くなっちゃったんだ」
「今からでも払えば良いじゃん」
「もうあの大家には会いたくないから良いよ」
「私の家ちょっとだけ住む?どうせ付き合うんだし」
「マジで?本気で付き合うの?冗談として受け取ってると思ってた」
「本当に付き合おうよ。あなた案外格好良いしさ」
「俺は良いけど、君は大丈夫?こんな訳分からない経緯で付き合っちゃって」
「良いのよ。私ただの大学生で大学とバイトと家往復してるだけだから。付加価値が欲しかったの。起業家の彼氏なんて凄いじゃない?」
「付加価値って。俺は物じゃないよ。まあ君が良いなら良いけど。カレーはご馳走様。美味しかった。ありがとう」
「今日はそこの布団で寝て。私あっちの部屋で寝てるから」
「OK。おやすみなさい」
「おやすみ」
次の日彼女が起きると既に青年は起きていて朝食を準備していた。
「あり合わせの物で作っちゃったけど、いいよね?」
「あ、ああ。まあ」目玉焼きと味噌汁、ほうれん草のお浸し、ウインナー、そしてご飯という簡単なメニューだったが彼女にとっては久しぶりのキチンとした朝ご飯だった。『付き合うってこう言うことか』と彼女は何となく実感していた。
「いただきます」
「いただきます」『誰かと家でご飯食べるのなんて何ヶ月振りだろう?』彼女の心には温かい風が流れていて味噌汁がとても染み込んでいた。
「この味噌汁美味しい」
「そう?ありがとう。得意なんだ。他の物も食べてみてよ。多分イケると思うから」
「目玉焼きもお浸しも美味しいよ」
「やっぱり?俺料理好きなんだ」
「そうなんだ。ごめんね。結構早起きしたでしょ?」
「ううん。良いよ。だって勝手に泊めさせてもらってるんだから。弁当も作っておいたから」
「えっ、弁当?」
「ほら」彼女がキッチンを見に行くとタッパーの中に鮭お握りや卵焼き、唐揚げ、玉葱とキャベツの炒め物が入った弁当が用意してあった。
「わあ、凄ーい。これも作ってくれたの?」
「だって学校行くのに毎日コンビニ弁当じゃ栄養つかないよ?」
「何で毎日コンビニ弁当って知ってるの?」
「そのゴミ箱全然分別できてないし」彼が指差す方向には弁当の空箱が詰め込まれたゴミ箱があった。
「あ、あれは...」
「SDGsが大切なんだって。君がいない間に掃除しておくから今日は学校行っておいで」
「あ、ありがとう」
「俺は今日仕事休みだから君の部屋片付けておくよ」
「まだいるの?」
「早めに部屋決めるからそれまでいて良い?すぐ出て行くから」
「まあ、良いけど。それまではいてくれるの?」
「君がオッケーならいるよ」
「私は大歓迎なんだけどあなたのこと全然知らないし」
「真島紀人でググッてみて。出てくるはずだから。ところで君の名前は?」
「星山恋。18歳。蠍座。あなたは何歳?」
「俺は22歳。兄妹ぐらいの年齢差だね。まあ丁度良いか」
「丁度良いってどう言う意味よ」
「君がハタチになったら結婚したいね」
「け、結婚?まだ私達出会ったばかりじゃない。結婚なんて...」
「長続きすると思うよ。俺も蠍座だし」
「同じ星座って相性悪いんじゃない?」
「似た物同士だからこそ上手く行く場合もあるって。な」
「な。って言われてもね。あっ、やばい。7時になっちゃった。支度しなきゃ」
「悪い。喋り過ぎた」女性は自分の部屋に駆け足で戻り鏡の前でコーディネートをし始めた。今日はコンサバティブなスタイリングにすることにした。淡いベージュのフレアスカートに白いブラウスを組み合わせてみた。フレームにインパクトのあるサングラスを胸のあたりにかけ林檎の形のイヤリングを両耳につけた。そして洗面台へ向かう。洗顔→化粧水→美容液→乳液→日焼け止めの順番でベースを作った後、化粧下地を施しコンシーラーで顔のクスミをとりパウダーファンデーションをパフで軽く叩き、韓国アイドル風にアイブロウを引きビューラーで睫毛を整えアイシャドウとアイライナーで目元を強調してからマスカラをしっかり塗りアイメイクを完成させた。そして仕上げとしてシェーディングをブラシを使って頬と生え際に置き更に細いブラシで顔の中心に陰影をつける。それからハイライトをオデコ、鼻筋、顎の部分にブラシでサッと塗る。最後にオレンジベージュ系のチークをブラシでフワッと施してからリップで保湿した後、マットなカラーの大人っぽいレッドルージュを塗って仕上げ唇に馴染ませて一度鏡を見ながら弾く。それから髪の毛を軽く濡らしてからドライヤーで乾かしヘアアイロンで整えてから巻きヘアワックスをよく揉み込んだら髪の乱れを梳き整え後ろの髪の毛を高めの位置で掴みゴムをギュッと締めその周りに髪の毛の束を巻き付け大好きなオレンジのピンでキュッと留める。ポニーテールのヘアアレンジが完成したのを良く鏡で確認して教科書や参考書をリュックサックに詰め込み電子辞書や化粧ポーチ、趣味で読んでいる本、香水、バイト道具のセット、カメラ、メガネ、日焼け止め、リンパを流す為のカッサ、ボディミスト、iPhone、イヤホン、財布、カードケース、ハンカチ、ティッシュ、メガネ、あぶらとり紙、リップクリーム、目薬、ハンドクリームを入れた。そして髪の毛や洋服に汚れや毛屑が付いていないことを姿見でチェックして『完璧』と呟いてリビングへ向かう。
「このコーディネートどうよ?」
「良いんじゃない。可愛いよ」
「これ、めっちゃカップルぽいわね」
「俺も思った」
「じゃあね、行ってきます。もし出掛けるなら合鍵郵便受けに入れておいてね。20時ぐらいに帰ってくるから。それまでいてくれるの?」
「うん、いるよ。あ、電話番号教えて」
「分かったわ。ラインでいい?」
「いいよ。QRコード出して」
「はいよ」彼女はiPhoneのラインアプリを開いてQRコードを差し出した。彼は手早くQRコードをスマートフォンで読み取り連絡先の交換が完了した。
「何かあったら連絡するから。じゃあ、学校気をつけて行ってらっしゃい」
「行ってきます。また後でね」
「うん。ピッカピカにしておくから」
「お願いします。じゃあまた」彼女は玄関まで行き黒い靴ベラを使って丁寧にローファーを履いた。
俳優が美しいドレスを纏って花畑で白馬に乗り歌うCMが始まった。
俳優は花畑に降り立ち美しいドレスを風に靡かせシャボン玉を吹いている。そして地面に散らばった花弁を手に取り大空へ投げる。そこへ彼女の過去の映像がカットインしてくる。海辺で男性と手を繋いで走っている。それから彼女は蝶々が沢山いる花畑で微笑している。馬は花を食んでいる。そして鏡が彼女の周りに幾つも現れ俳優の姿を映し出す。彼女は陶酔の中で鏡に企業のロゴマークを描く。ポップシンガーのヒットソングがワンフレーズだけ流れている。そこでCMが終わった。
観覧車がライトアップされる夜景を眺めながら星山恋と真島紀人が浴衣を羽織り足湯に浸かっていた。そして星山恋が空を見上げて指差すと彼女の人差し指の方向に流星が落ちていく。男性もその情緒溢れる光景を笑いながら見ている。彼は彼女の耳元で何かを呟く。すると夜空に花火が打ち上がり暗闇がパッと明るく映えた。その瞬間ラブソングを歌い続けている人気ロックバンドのテーマソングが鳴り響く。高音キーが特徴的な男性ボーカルの声が美しく聞こえてくる。2人は軽やかで複雑な葡萄の味を確かめながら甘いキスをし始めた。
エンドロールが流れ物語が終わる。
次回予告
付き合い始めた星山恋と真島紀人。水族館に行ったり一緒に野菜を育てたりしながら愛を育む二人のラブストーリーは急展開を迎える。イタリアで船に乗る紀人と大学の先輩に誘われてファッションショーへやってきた恋。遠距離になって二人の距離はどんどん離れていく!?令和を揺らすこの恋の行方を見逃さないでね🤍👌🏻
乞うご期待!💐
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