【DAY PEOPLE Vol.2 虫明拓未】 チームが前向きになれるよう、まずは自分がご機嫌に
企画、デザイン、設計、運営の領域を横断しながら「新しい場所と価値」を生み出す活動をしているニューディベロッパー・DAY。
連載【DAY PEOPLE】は、そんなDAYで働いているスタッフが「日々考えていること」にフォーカスを当てたインタビューです。
二人目の語り手は、レストラン儘の店長兼料理長である虫明拓未さん。DAYで働く中で変化した考えや大切にしていること、これからの夢についてインタビューしました。
「儘」の答えは常に変わり続ける
ー虫明さんは、DAYに入る前は何をしていたんですか?
学生の頃から料理が好きで、ずっと料理の仕事をしていました。この仕事はもう20年くらいですかね。いくつかの店に勤務しましたがジャンルは主にイタリアンで、その中で店長や責任者を任されたりもしていました。
ーDAYに入るきっかけは何だったんでしょうか?
嵐山でスタートする「儘」の責任者の募集をたまたま見かけたんです。正直言うと母体であるDAYのことは全然知らなかったんですけど、その頃ちょうど新しい環境にチャレンジしたいなという時期で、まっさらな状態から働けるのはいいなぁと。一度話だけでも聞いてみようと思って応募しました。
初めて代表の渡部さんとお話した時には、すでに儘のコンセプトが決まっていて、渡部さんから丁寧に説明してもらいました。儘は名前の通り「素材をそのまま、大胆に」というコンセプトなのですが、ジャンルにこだわらないとか、あまり飾りすぎずに素材を活かすとか、レストランとして大事にしたいことをいくつか教えてもらって。「自分もそういうの好きだし、できるかもしれない」と直感で思って、入社を決めました。
ー実際に入社してからの印象はどんな感じでした?
特に料理の面で、最初から自分のやりたいことや表現したいことをやらせてもらえていたので、すごく自由で寛容な会社だなと思いましたね。でも、自由って言っても好きにできるわけではもちろんなくて、最初の渡部さんとのすり合わせは大変でした。メニューを考えてプレゼンしても「なんか違うな……」みたいな。そのやりとりはかなり密に行いましたね。
ー渡部さんの儘と、虫明さんの儘、それぞれのイメージのすり合わせみたいな。
そうです、そうです。最初は「儘で出すとしたらこういう料理だよね」っていうイメージがお互いの間で合わなくて、話し合いを何度も重ねました。その中で、渡部さんがいろんなお店に連れて行ってくれたんですよ。「こういうサービス、こういう料理、このソースの感じ、この盛り付けのこのアクセントの感じ」みたいなものを、言葉でのやりとりだけじゃなく一緒に体験できる機会をいっぱい作ってもらえたのは、かなり大きかったですね。
ー体験の共有がどんどんイメージの共有につながっていったんですね。儘の料理として、答えみたいなものは見つかりましたか?
いや、見つかっていないです。多分、答えはお客様の中にあるんだろうなと思うようになりました。だから、今日の正解が明日は違っていたりする。儘に込められた思いだけは変わらずに、表現自体は日々更新されていくものなんだと思います。
「DAYの中では『怒る』をナシにしませんか?」
ーDAYで働くようになってから、考え方が変わった経験などはありましたか?
ありますね。それも渡部さんとのやりとりの中でなんですけど……僕もともと、結構きつい性格なんですよ。
ーそうなんですか。温和そうな雰囲気ですけど。
好きなことや物に対してのこだわりが強い方で、自分の考えや思いをかなりストレートに伝えてしまいがちなんですよね。でも、それがDAYに入ってからめちゃくちゃ変わったなと思います。
ー例えばどんなふうに?
特に儘をオープンしたばかりの頃は、お客様も来たり来なかったりで、自分自身みんなをリードしていく立場として、ちょっとピリピリしているところがあったんです。それで発言がキツい言い方になってしまうこともあって。そこを渡部さんに「その言い方だと、相手の受け取り方によっては誤解を招くかもしれないよ」と指摘されたんです。それは自分にとって大きな出来事でしたね。
ーへえー。
ある時渡部さんとコミュニケーションについての雑談をしている時に、「DAYの中では『怒る』をナシにしませんか?」と言われました。それも僕にとっては衝撃的でしたね。僕はどちらかというと怒りをエネルギーにしてきたタイプだったから、エネルギー源なくなるやん、と(笑)。でも渡部さんの理屈で言うと「怒りはスキルでなんとかなるんだよ」と。それからいろいろなスキルを教わりました。
ーなるほど。多分、渡部さんは怒り自体を否定しているわけではないですよね。怒りが元だったとしても、アウトプット次第でもっと人に届けやすくなるよ、ということなのかなと。
そう思います。いまだにそのギアチェンジは難しいですし、「虫明さんは下手くそですね」ってよく言われるんですけど(笑)。今も悩んでいる真っ最中ですが、その考え方に出会えたのは本当によかったですね。
チームのためにも、まずは自分が機嫌よく
料理人って、キャリアの途中で「プレイヤーか、マネージャーか」の分岐点に入るんですよ。僕は今後、その合間のプレイングマネージャーの道を行きたいと思っているんです。となると、やっぱり話し方や伝え方、普段の表情や放っている雰囲気とかが、良くも悪くも大きな影響を及ぼすなと思うので、渡部さんとそのやりとりをして以来、できるだけご機嫌でいようと思うようになりました。
ー純粋なプレイヤーだとこだわりや自我が必要なシーンが多そうですが、マネージャー的要素を持とうとすると、人への伝え方や対話力が必要になってきますよね。
そうなんです。なので、みんなで物事を決めていくことの大切さも知りました。これまでは、一部の人間が物事を決めてトップダウンに伝えた方が効率的だと思っていて、複数人での話し合いが得意じゃなかったんですけど、DAYイズムに触れてからそのおもしろさも学びましたね。
あと、今後自分の目指す道を行くためにも、「自分がこの厨房からいなくなるにはどうしたらいいかな?」って考えるようになったのも大きな変化です。
ー今までは「自分がここにいる」前提で考えて仕事をしていたけど、ということですね。
はい。これまでは、「俺はこうする」「俺の料理はこうだ」「俺がこうしたら絶対うまくいく」みたいなことを考えたり実行するのが好きだったし、みんなにそれを伝えて営業がうまくいくことに達成感を覚えていたんですけど、今はそういうのがまったくなくて。逆に自分がいない時に、お客様から褒められたりいいフィードバックがあったりしたら、「ちょっと片足抜けられたかも」と喜べたり。よりそうできるためにはどうしたらいいかを考えるようになりましたね。
ーじゃあ、今は「自分」というよりも「チーム」が主語になっている感じなんですね。
そうですね。そのためにもやっぱり、ご機嫌でいることが大事なんだろうなと思います。実際、チームのみんなが前向きになれるのって、話している内容よりも、話している人の雰囲気だと思うんです。しんどそうだったり、こわそうだったり、機嫌悪そうな人がめちゃくちゃ正論並べても、ついて行けないじゃないですか。
ー確かに。ちなみに、虫明さんがご機嫌でいるために心掛けていることってありますか?
うーん。仕事だけじゃなく、私生活もちゃんと楽しむってことですかね。僕は子供が3人いて、趣味はサッカーなんですけど、休みの日には家族と過ごしたりサッカーをしたりと思い切り楽しむようにしています。やっぱり仕事だけだと人間としてのおもしろみに欠けてしまうし、私生活も大事にした方がバランスがとれるかなって。
ー私生活から学ぶことも多いでしょうし、とても大切なことですね。
もっと「人」が評価される未来へ
ー最後の質問です。これから実現したい夢はありますか?
夢は……そうですね。飲食業界をひっくり返したいです。
ーかなり大きい夢ですね。
そもそも僕は好きで料理の仕事を始めたんですけど、料理長をしたり責任者をしたりと経験を積んで飲食業の構造を理解するうちに、言葉を選ばずに言うと「飲食業って儲からないんだ」ってことに気づいたんですよね。このゲーム、めちゃくちゃ難しいなって。
だけど、今までの会社だったらそこでアクションを起こせなかった。愚痴や不満があっても何もできず、やるのは日頃のオペレーションだけという、そんな環境でした。だけど、DAYならできるかもって感じています。渡部さんやチーム全体に「飲食業界やサービス業界をひっくり返そう」という強い意志がある。このチームならひっくり返せるかもなって、本当に思うんです。
ーめちゃくちゃいいですね。虫明さんは、飲食業界をどんな風にしたいですか?
例えば欧米のチップ文化のように、ダイレクトにスタッフが評価される仕組みづくりがあるといいなと思います。チップ文化をそのまま導入すべきという意味ではなくて、もっと直接的に「ありがとう」って気持ちを伝えられる仕組みができたら、みんなもっとハッピーになるんじゃないかなと。飲食業って、他の業界に比べて人と人の関わりの母数がすごく多いので、大きな可能性が眠っているんじゃないかと思いますね。
ー確かに、現状は食べ物やドリンクにお金を支払っている感覚だけど、人の行うサービスに対しても評価が返ってきたら素敵ですよね。
もっと人がフォーカスされて「誰々さんがいるからこのお店に来たんだよ」ということが当たり前になればいいなと思います。その「誰々さん」がいっぱいいるお店にしたい。DAYならそれができると思っています。
DAYでは現在、レストラン「儘」及び新規オープンのカヌレ専門店「Arashiyama Cannele」のスタッフを募集しています。
ご応募は下記の採用応募フォームから
レストラン「儘」
https://forms.gle/H83bk4M8DApg2Sy86
カヌレ専門店「Arashiyama Cannele」
https://forms.gle/yDZE9YkVtPvuibxD6
取材・文 土門 蘭
写真 辻本しんこ