【未来対談 vol.1】「働く」ってなんだろう?渡部明彦(DAY)×宮下拓己(LURRA°/ひがしやま企画)
DAY代表の渡部明彦と、DAYの外部ディレクター・宮下拓己さん(LURRA°共同代表・ひがしやま企画代表)が、さまざまな切り口から未来について話し合う連載『未来対談』。
もともと、顔を合わすたびに未来について話すことが多かった二人。
先行きが見えない正解のない時代でも、わからないことに対して現在進行形で向き合い続けることが大切だと考え、さまざまな切り口から未来について話し合える場所を作りました。
第1回のテーマは「働く」。二人にとって「働く」とは何か、どういう働き方をしていきたいかを語り合います。ぜひ、あなたの考えも聞かせてください。
「社会人」とは社会に何かを与えられる人
渡部:今回から始まった『未来対談』ですが、宮下さんとはよく「この業界の未来ってどうなっていくのかな?」という話をしているんですよね。そこで得られる気づきがすごく多くて。そもそも未来について考える場所が少ない中で、未来について話そうとすること自体が大事かなと思い、こういう対談の連載を始めてみました。
宮下:僕たちも未来について何か答えを持っているわけじゃないけれど、わからないものに対しても、現在進行形で考えていることを話し合っていけたらいいですよね。よろしくお願いします。
渡部:こちらこそよろしくお願いします。第1回目のテーマは「働く」ですね。最初から難しいテーマですが、宮下さんは「働く」ってどういうことだと考えていますか?
宮下:以前「『働く』とは『傍(はた)を楽(らく)にする』こと」という言葉に出会ったんですけど、それはすごく腑に落ちましたね。僕は19歳から飲食業界に入って今15年目なんですが、そのうち12年間くらいは、「働く」というより自分を高める作業だけをしてきた感じがあるんです。目の前の仕事を、自分の「30歳までにやり遂げたいこと」リストをクリアするための手段とだけ見ていたような……でも、ある時からそれにワクワクしなくなったんですよ。
渡部:それは何がきっかけだったんですか?
宮下:やっぱり、コロナ禍で足を止められたのは大きかったですね。10年以上死ぬような思いをしながら働いてきたけれど、一度走るのをやめたら「あれ、なんのためにこんなに頑張ってきたんだっけ?」ってわからなくなったんです。「ずっと自分を尖らせ続けてきたけれど、このまま行ったところで何になるんだろう?」「それよりみんなと一緒にやった方がもっと豊かになれそうだぞ」と。それはもう成長しないということじゃなく、成長の仕方が変わった瞬間でした。
さっきの「『働く』とは『傍(はた)を楽(らく)にする』こと」という言葉に戻りますけど、僕はずっと修行と自己研磨の日々だったから「社会人になった」っていう感覚があまりなくて。このとき改めて「働く」について考えた結果、「社会人」って社会に出るだけじゃなくて、社会に何かを与えられる人のことなんじゃないかな、と思うようになったんです。
渡部:なるほど。
宮下:じゃあ僕は社会に何を与えられるんだろう? 僕にとって「働く」ってなんだろう?と考え続けた結果、誰かがワクワクしながら働く場所を作ることかなと思いました。今までに作ったレストラン・LURRA°(ルーラ・注1) もそうだし、これから作ろうとしている複合施設・Com-ion(コミオン・注2) もそうだし。みんなが助け合ったり何かを一緒に作ったり、誇りを持って働ける場所作りをすることが自分の「働く」なんだろうと、ここ数年で考えるようになりました。
「働く」の本質は、できることで助け合うこと
渡部:僕も今回「働く」について改めて考えてみたんですけど、僕は多分、社会とつながる方法が「働く」しかない人間なのかなと思ったんですね。昔で言うと、村などの共同体って「俺これ得意やで」とか「俺はこれができる」とか言いながら、自分のスキルを出し合って助け合って構成されていたんじゃないかなと思うんですが、自分の「働く」もそういうイメージなんですよ。自分ができることを差し出しあって助け合いながら、この村をどう成り立たせるか、みたいな……。
時代が流れて、資本主義にいろんなことが塗り替えられて分業になった結果、今の社会があると思うんですけど。人間の基本って多分変わってなくて、本当はそんなふうに各々のできることで助け合っていただけなんじゃないか。本質的には仕事ってそういうものなのかなと思うんです。
宮下:渡部さん、1回も就職したことないですもんね。それは特殊な経験ですよね。
渡部:たまに「社会不適合者だね」って言われます。昔から空気読まずに「本当にこれでいいんですか?」とか言って、場を凍りつかせてきたので……。例えば偉い人が間違ったことを言っていても、みんな何も言わなかったりするじゃないですか。「あのポジションの人は怒らせたらあかんで」っていう暗黙の了解がある。でも僕はそんなのどうでもよくて、我慢できずに「違うと思いますよ」って言って出禁になったりしちゃうんです(笑)。
宮下:僕は就職したことありますけど、渡部さんと同じく、ちょっと大変な感じではありましたね(笑)。世の中の定説とかルールの中に違和感があるものが結構あって、それを受け流すことができない。気にしなくてもいいのに、どうしても気になっちゃうんです。
僕は28歳でLURRA°を作ったんですけど、そのタイミングでなかったにしろ、遅かれ早かれ起業はしていたと思います。就職でも起業でも、大事なのはその人が輝けるかどうかだと思うんですけど、僕が自分らしくいようと思ったら起業という選択になった。すでに世の中にあるものを続けることよりも、まだ世の中にないものを生み出すことの方が僕は好き。だから、結果的に自分で何かをすることを選んだって感じです。
渡部:さっきの「社会不適合」って言葉は、もしかしたらここに繋がるのかもしれないですね。「すでに世の中にあるものを続ける」ことはできなくても、「まだ世の中にないものを生み出すこと」には熱心になれる。僕もそういうタイプなのかもしれないです。
ロボットに代替できないのは「対話」と「誇り」
宮下:「働く」についての考えを変えられた転機はもう一個あって、オーストラリアのレストランで接客業をした時なんです。僕はそれまでにミシュランの3つ星レストランでも働いた経験があったから、「ミシュランの店ではこういう接客をしないといけない」というルールが自分の中でできあがっていたんですよ。でもそのレストランで良しとされる接客は、丁寧さやスキルはもちろんなんですけど「人間らしさがあること」だったんです。つまり、目の前の人とどれくらい友達になれたか、最終的にどれだけ楽しんでもらえたか。その視点は自分の人生の中で大きな学びになりました。
つい先日もオーストラリアに行って、そのお店に行ってきたんです。単価5万円くらいするレストランなので、もちろんみんなプロフェッショナルな接客をしているんですけど、同時にめちゃくちゃ気さくなんですよね。ちゃんとふざけられるというか。
渡部:へえー。
宮下:マネージャーに「こういうハードルの下げ方ってどうしているの?」と聞いたら、仕事前のミーティングで「Let’s have fun!」と言っているそうなんです。その「fun」には、ゲストが楽しむことはもちろん、自分たちのやりがいも含まれている。
渡部:めちゃくちゃいいですね。
宮下:以前観たnoma(ノーマ・注3)のドキュメンタリーでは、スタッフに「世界一のレストランで働いてる自覚はあるのか? ここにチャレンジしようとした初日を思い出せ」と言って鼓舞しているシーンがありました。どちらにも共通するのは、自分自身の誇り、大事な軸を持ちながら働くってことですよね。それを諦めない限り、良い意味で踏ん張りが効くと思うんです。忙殺されそうな時も、手を抜きそうな時も、目の前のお客様のハッピーのために動ける自分になれる。
それはシステムやオペレーションを超えたところにある、人との対話から生まれるものだと思います。だからこそこの業界はやりがいはあるし、価値が失われない。ロボットに代替できないのは、そういう人としての誇りの部分なんじゃないですかね。
渡部:本当にそうですね。組織としても、スタッフ一人ひとりの「対話」や「誇り」の部分を奪わないってことがすごく大事だと思います。
老害にならないためにはどうしたら?
渡部:だからこそ、「働く」って難しいんですよね。僕はよく働く中で「もう!」ってなるときがあるんですけど、それってほとんどコミュニケーションがうまくいかないときなんですよ。でも結局、よく考えるとちゃんと伝えられていない自分のせいだなって思うんですけど。過去にも同じことやったな、どうしたら繰り返さないで済むだろう、って考え続ける毎日です。
だけど「働く」だからこそ、そんなふうに前向きに解決しようとし続けられるのかもしれません。これが仕事じゃなかったら、もう距離を置けばいいやって諦めちゃうんじゃないかな。なので働くことからいろんなことを教わっているし、もし働いていなかったら頑張って成長しようなんてせずに、自堕落で偏った人間になっていたんじゃないかと思います。本当ありがたいことだなと。
宮下:働く中での学びって、年齢が上の人からだけじゃなくて、年下の人からもたくさんもらいますよね。経験が多い人の方が教えてくれるイメージだけど、案外そうじゃないシーンもいっぱいある。自分自身、いつの間にか社会のシステムに馴染んでしまっている時があるんだけど、そこで未経験の子がさらっと言った一言が心に刺さったりね。だから、彼らの発言に「いや、違うでしょ」って言わないように気をつけているんです。正しさとか清さって経験ではなく、本質を捉えているかどうかだと思うから。……僕、本当に老害になりたくないんですよ。
渡部:ああ、わかります。
宮下:最近ずっと「老害ってなんだろう」って考えているんですけど、多分老害になってしまう人って、何かしら成し遂げてきた人たちなんだと思うんですよね。だからそこに居座って道を塞いでしまう。でも僕は、仮に自分が道を作れたとしても、そこに居座らないでいたい。その道を作ったことを誇らないで、潔く去りたいなって思うんです。
渡部:僕もこの間、老害について分解して考えましたよ。宮下さんが今「成し遂げてきた人たち」って言っていましたけど、人間って成功体験で学んでいくじゃないですか。でも成功って、限定的な状況の中で生まれるものなんですよね。時代とか、関わる人とか、運とか、あらゆる条件が組み合わさった限定的な状況でたまたま成功できるものだと思うんです。それを忘れた人が、若い人に「俺はこうしたらうまくいったからお前もやれ」って言って、老害になっていくんじゃないかなと。
宮下:なるほど。
渡部:でも、成功が限定的な状況でしか生まれないと知っている人は、もっと柔軟になれるはずなんですよね。成功を自分だけの功績と思っていないから、さまざまな角度から観察することができて、成功の再現の精度を上げていける。「俺がすげえんだ!」と思うと、だんだん思考が固まってしまうから、僕もそうならないように気をつけています。
ノーベル賞受賞者のそばには、いつも対話相手がいた
渡部:最近思うのは、「働く」ことのやりがいって、単純に「自分にスキルがあって、やりたいことがやれる」状態だけじゃないなってことなんです。世の中って、スキルがあって人のことを助けられる人だけじゃなくて、付き合いづらいけど問題解決してくれそうな人とか、仕事のクオリティはいまいちやけど飲みに行ったらピカイチな人とか、いろいろいるじゃないですか。
宮下:いますね。いるだけでなんとなく場が明るくなる人とか。
渡部:目に見えやすい「スキル」や「キャリア」の側面だけで評価すると、「働く」が苦しくなってしまう。だけど、仮に「スキルやキャリアがない」人だったとしても、他にも資質があるかもしれないですよね。「スキルはないけど真面目だ」とか「センスはいい」とか。
そういう自分の特性を自覚しつつ、それが社会とうまく接続できたら、働き方はもっと広がるんじゃないかなと思うんです。ストレートに求められていることとはズレていても、別のところで人を喜ばせられるんじゃないか。目に見えない大事なことっていっぱいありますからね。
宮下:チームスポーツみたいなものですよね。主役になれる人もいれば、献身的になれる人もいて。自分はキャリアやスキルがないからって萎縮してしまうこともあるかもしれないけれど、それ以外の軸を見つけることができたら、全然違う評価になるかもしれない。
渡部:そうそう。例えば献身的な人に「君は何がしたいの?」って聞き続けるチームってあるけれど、やりたいことがない人だっていると思うんです。特にやりたいことがなくても、面倒なことを引き受けて周りの人が喜んでくれるのがやりがいって人もいるだろうし。いろんな人を組み合わせて歪さを埋めていくのが、チームで働くってことなんじゃないかなと。
宮下:例えば飲食の世界では、みんな独立しないといけない雰囲気がずっとあるんですけど、実は独立に向いていない人もいるんですよ。自分で店を持つよりも、チームに所属することに喜びを感じる人とかね。これまではなかなか評価されてこなかったけれど、今後はそういう人の持つ力も大事にすべきだと思う。それだけがゴールじゃないっていうか。
渡部:そう言えば、何かの本か記事で読んだのですが、ある地域でノーベル賞受賞者が立て続けに出たので「その地域でノーベル賞を受賞している研究者の共通項とは何か」を調べた結果、そこで見えてきた共通項が、みんなある一人の人と長時間対話をしているってことだったそうなんですよ。対話相手は別に有名な人ではないんだけど、人の話を聞き出したり、相手の思考整理を助けたり、目に見えない力を持っているらしくて。
宮下:へえー。
渡部:そういう人って歴史的に名前は残りにくいけれど、すごく意味があることをしていますよね。チームでの「働く」も一緒で、達成率とか売上とかデータで見るとすごい人は限られてくるけど、その支えになっている人って見えづらい。でもそういう人がいるからチームが機能していることって大いにある。
そんなふうに、「こうでないといけない」に縛られずにいろんな得意・不得意が許されると、「働く」って楽しくなるんじゃないかなと思います。そのためにも各自が「自分は何ができて、どうなったら嬉しくなるか」をわかっておく必要があるのかなって。そこがわかれば、目の前のしんどさの先が見えるようになると思う。「地味で面倒なことをやっていてしんどい」けど、「人に喜んでもらえたら自分は嬉しい」。目的地がわからないと嫌になるけど、明確になると目の前のことも頑張れるじゃないですか。
宮下:はい、はい。
渡部:つまり、表面上の感情や日常の摩擦と、一番奥底にある喜びをちゃんと分けること。そんなふうにして喜びの部分をピュアに持ち続けられたら、「働く」ことをずっと楽しめるのかなって思います。難しいですけどね。
周りがいい状態だから、自分も楽しくいられる
渡部:最近、僕の中で「働く」の楽しさの質が少しずつ変わってきたように思います。ようやく自分のことが自分でできるようになってきて、ある程度自分1人で何かを達成できるようになってきた結果、今は「みんなで働く」ことにチャレンジしたいという気持ちが強くなってきているんですよね。それがDAYという会社なのかなと思っています。
なのでこの頃は、自分の仕事がうまくいくことよりも、「みんなの調子が良さそう」とか「めっちゃ活躍する子が出てきたぞ」ということの方が嬉しいんですよ。こんな気づきを与え合えばもっとうまくいくんじゃないかなって仮説がばっちりハマったり、本質的に人を大切にできているメンバーが生まれたり。そういうのを見ていると、「働く」意味があるなぁって嬉しくなりますね。
宮下:僕も今、働いていて一番嬉しいと感じるのは、他人と一緒にワクワクしながら何かをするときですね。その結果、僕によって迷惑をかけられている人もいると思うんだけど(笑)。僕は自分一人で何かを形にするのが苦手なんですけど、みんなで何かをしたり誰かを巻き込んだりするのは得意なんです。自分の役割は、何かを成し遂げることじゃなくて、何かをしたい人へワクワクできる場所を作ることなんだと思います。
渡部:宮下さん、確かに巻き込み力がすごいですよね。
宮下:僕はこれから新しい組織を作る予定なんですが、みんなが「らしくいる」ことができる場所を作りたいと考えているんです。一人ひとりが「らしくいる」と、答えが異なるから、対話が必要になってきますよね。つまり、うまくまとめることができない組織ってことになるんだけど、答えを模索し続けていろんな形に変異できる場所って、きっと人によってしか生まれないものだから、それを大事にしていきたいんです。
今後、社会全体の「働く」もどんどん人間らしくなっていくと思います。テクノロジーが急速に進化すると同時に、めちゃくちゃ人間臭くなる側面や、自然を大事にする側面も生まれてくるはず。別に大きなことじゃなくてもいいから、毎日の中に1個ずつワクワクや喜びを作っていく。そういう人間らしい意識が、これからの社会ではより大事になっていくんじゃないかと思います。
渡部:今日は自分と他者の関係性について触れてきましたけど、自分があるのってやっぱり周りのおかげなんですよね。チームも然り、社会も然り。周りがいい状態だから、自分も楽しくいられるんだと思う。だから、周りが少しでも良くなるように動き続けるのってとても大事。それって結局、自分に返ってきますからね。
みんなで良い未来を見て、ちょっとでもできることをする。いつもDAYで「新しい価値を作ろう」と言い続けているのは、そういうことなんです。1ミリでも良いから、そういうことができる働き方を、僕個人でもDAYでも実現できるといいなと思います。
宮下:きっと「働く」ってすごくシンプルなことなんですよね。
渡部:そうそう。常識とかテクノロジーとか考えちゃうとわけわからなくなるけど、人に喜んでもらえたらこっちも嬉しくなるし、うまいもん食べたら笑顔がこぼれるし。本当はみんな、そういうことで幸せになれるはずなんですよ。シンプルに働いて、シンプルに生きていきたいですね。
DAYでは現在、レストラン「儘」及び新規オープンのカヌレ専門店「Arashiyama Cannele」のスタッフを募集しています。
ご応募は下記の採用応募フォームから
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取材・文 土門 蘭
写真 辻本しんこ