本を蒐集すること(書物の帝国のはじまり)
ご挨拶
ウェブ黎明期ごろに「書物の帝国」というページをやっていた。
ホームページを開始したのは、20年以上前になる(歳月が過ぎるのは早い)。現在はその一部がウェブ上に断片として残っているが、いずれかの機会にnoteに集約していきたい。そもそもホームページを始めたきっかけは、当時自分が探していた本が絶版や品切れになっていたことにある。アマゾンのマケプレがまだ今ほど整備されていない状況で、絶版や品切れになった本は、当時は専門古書店や街の古本屋さんを地道に探して蒐集していた。あるいはyahooオークションなどで落札して入手していた。その意味で本の探索コストに時間がかかっていた(今は、金銭さえ払えば入手できるものも増えてきた)わけで、ある種隔世の感がある。
日々刊行される膨大な書籍の山から、無名の一個人が読んだ記憶が、海辺に漂う瓶の中の手紙のように、誰かが気づいてくれたらという気持ちで作成したブログだった。その過程でやはり「現物」に当たることが大切だと考え、当時学生だった自分はそれまで古書店の存在すらあまり意識していなかったのだが、ホームページの交流から得た情報により、足しげく通うことになる。
SF冬の時代と古本道
SFの冬といわれていた時期がかつてあった。SFのヴィジョンが当たり前のものとして受け入れられている現在には想像がつかないだろうが、SF小説とジャンル分けされると出版的に売れない時代があった。そしてこの時期はネットの黎明期でもあり、オンラインでの交流を通じて、SF小説の蒐集を始めることになる。
読書遍歴と書物の帝国、古本者へ
小中高とD&DなどのプレイにはまっていたTRPG少年だった自分は、読書といえばドラゴンランス戦記などのファンタジーで、それほどSFを読んでいたわけではなかった。ところが高校生時代に図書館などで借りていた山田正紀、ロジャー・ゼラズニイらの小説が面白く、どうも早川書房や徳間書店から出ているSFというジャンルの本は面白いということに気が付いた。そこで気になるタイトルを注文してみたものの、品切れ重版未定、絶版などの状況で「リストにあるはずなのに新刊で本が買えないのか?」という疑問が生じたことで、SFやファンタジーに関するホームページを開設することになる。そこで生まれたのが「書物の帝国」というページである。
書物の帝国(現在はAnnexのみ)では、当時物珍しかったらしく、SFからファンタジー、ミステリ、古本の会話が進行し、プロ・アマ問わない交流がなされていた。そんな中、新刊でのみ本が購入できないものと信じていた自分は、古本屋の存在を教えてもらい、絶版SF小説を購入するようになる。大学SF研などに所属しない個人だったので、SF業界についての情報もなかったので、ネットでの交流によって情報を集めていきました。その結果、イベントを含めて様々な出会い、本の入手などのドラマがありましたが、それはまた後日記そうと思う。
その中でも特に厳しかったのはサンリオSF文庫と呼ばれるレーベルと朝日ソノラマ海外シリーズという幻想と怪奇、SFが入ったシリーズであった(今でも破格のプレミアがついているタイトルもある)。もちろんハヤカワ文庫SFでもまったく見つからない過去の作品もあり、ネットやブックオフ等が発展段階だった時だったこともあり、いくつかの書店を定点観測して、珍しい小説を購入していた。値は張ることもあったが、品ぞろえが充実していた専門古書店には大変お世話になった。
そして新書へ…
こうしてどんどん古書を集めるために神保町、早稲田、川崎、中野、荻窪などの古本屋が充実している場所に足しげく通い、コレクションを充実させていった。その結果たぶんそれなりの個人コレクションができて、あとは地道にコンプリートしていく状況になった。ここでやめればいいのに、何かのスイッチが入り、ちくま新書初版・帯付きという条件で本を蒐集することにし、ある程度ちくま新書が集まってきた段階で、中公新書に移行。現在に至る。
一度何かを蒐集し始めると、「〇〇がコンプしたので、次はこれ」という変なスイッチが入る人も存在するが、ある種の業であるかもしれない。というのは、シリーズの全容を掴むことは、ビブリオ的価値にあるだろう。それは電子書籍にはない魅力である。本という「物質」で存在を感じることで、自分なりの興味のビオトープを創造することが、蒐集する楽しみなのだろう。
本を買うのは楽しい。いろいろな人たちの思想に出会えるから。