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ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編

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ロング・ロング・ロング・ロード最終章になります。 何故自分がこんな身体になったのか。その謎が解明されます。
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#キュンです

ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   11

ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   11

 目が覚めると、寝返りをうつことすらひと苦労だった。
 やはり俺の身体に無理は禁物なのだ。
 今日を含めあと三日しかないのに、とんでもないことだ。
 俺は言われるまま身体を起こし、緑色した静江特製スペシャルドリンクを胃に流し込んだ。
 暫くすると、ニンニクのような香りがするなぁっと思ったところで、俺は眠りについていた。

 雨が降っているのだろう。
 俺は暗く湿った場所に、身動きすら出来ずに静かに

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ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   12

ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   12

 101号室のドアから姿を見せた男は、二十代後半から三十代前半といったところか。
 俺の予想に反して、何処から見ても好青年という感じで、服装も白のポロシャツに綿パンで、引き籠りなのに靴下までしっかりと履いていた。
 汗と脂が入り混じった、あの何ともいえない匂いは、彼からは漂ってこない気がした。こういう引き籠りに会うのは、俺は初めてだ。
 だが、俺達が駐車場で立ち話をしていたのをコイツは見ていたはず

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ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   13

ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   13

 俺を迎えに戻った長谷さんから、早川芽美は『La petite fleuriste』に戻ったと報告を受けた。つまりは、あの工場兼住居のような建物が、早川芽美の住処ということだ。
 一人で住んでいるのか、家族がいるのか。どちらにしても違和感があった。あの内部がどうなっているのかわからないが、人ひとりを閉じ込めるのには、何の問題もない広さなのだ。
 だが、久保奈生美を拉致して、早川芽美にはどんな得があ

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ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   14

ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   14

 何とも映える場所での待ち合わせになった。
 駐車場から二の橋の袂へ向かう途中、五稜郭の堀と急角度に尖がった石垣が、俺の中にある観光したい気分の頭を擡げるのを後押しした。そして、五稜郭タワーから見下ろした時の景色を思い出し、今どの辺りにいるのかを把握した。
 歩きながら、美枝子ではないが、とっとと情報を集めて白黒つけなければと考え、擡げた思いを抑え込む。
 時間どおりにやって来た児玉は、俺と変わら

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ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   15

ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   15

 少しだけ開けたドアの向こうも薄暗かった。だが、薄明かりに慣れた俺の目には、廊下の奥のリビングからの微かなぼやけた光で、玄関全体の様子がハッキリと見えていた。
 やはりクラシックが流れている。
 対面には図面どおりにドアがあった。食堂から上ってくる階段の扉だ。本当は一階を先に潰しておきたかった。だが、この状態では仕方がない。
 靴はなく、右手の作り付けの靴箱に入れる習慣か?その靴箱の上には、何か物

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ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   エピローグ

ロング・ロング・ロング・ロード Ⅳ 道南の涙 編   エピローグ

 長年の憧れだった北の大地での長い旅も、あとはこの船に乗って、出航の汽笛を聞くだけとなった。
 勿論のことだが、車に比べ、二輪車の乗船台数は極端に少ない。少し前なら毎日、予約一杯の×マークが並んでいた青森行きのフェリー。だが、盆も開けた平日の待機場には、相棒以外に二台しかバイクは並んでいなかった。
 俺は相棒に跨ったまま、乗下船口から流れ出てくるトラックの数珠繋ぎを、ボーッと見ていた。
 何か、思

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