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#バイク旅
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 ~空知で祈る~編
薄曇りの下、まだ残雪の残る日高山脈を眺めながら、しばし十勝とはお別れだ。そう胸の奥で呟いた。
まだ、179市町村中、22の市町村を走ったに過ぎない。まだまだこの旅は終わらない。
もう、あんなことに巻き込まれることもないだろう、これからはスムーズに進んで行けるはずだ。そう思うと、解放感と酔いに任せて夜中にクリックしたトマムのリゾートホテルの代金は、帯広で泊ったホテルの倍近い金額だったが、自分へ
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 1
素敵な十勝晴れだ。
宿の朝飯も綺麗に平らげた。調子が良いらしい。
スタッフはアジアの人が多かったが、皆気持ちの良い動きをしていて心地好い宿だった。
出発前のチェックをしていると、相棒の後タイヤの減りが早いことに気がついた。どうせこの旅の中で何本か履き替えることになるだろうと旅に出発していたので、次に札幌に行った時にでも交換しようと思った。大阪や神戸、京都のような極熱の路面温度になることはない
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 2
目覚めても雨は止んでいなかった。
どの天気予報のサイトを開けてみても、テレビのチャンネルを変えてみても、朝のうち雨は残り昼前には晴れる、そうお天気レポーターは主張した。
もうひと眠りを決め込んでみたものの、眠りは下りてこなかった。
シャワーを浴びて起立したものをどう鎮めようかと思ってみたが、そのうちに萎んでいった。
複数の地図とPCで今後の予定を模索した。
タイヤ交換のために帯広に戻る
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 3
走り慣れた国道241号線を北上し、上士幌町から先は未知の領域だった。
バックミラーに街並みが遠ざかっていくと、また十勝らしい風景に俺は包まれた。
2メートルを超えるというラワン葺とピンク色のキャラクターが描かれた足寄町のカントリーサインに出逢う頃には、すっぽりと山の中を走っていた。
足寄湖の道の駅でスタンプを押して先に進む。道は本別町を走るのだがカントリーサインには出逢えずじまいで、足寄の
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 4
「誠さん」
助手席の開いた窓から聞こえた女性の声には聞き覚えがあった。
俺は屈み込んで声の主を確認した。
「カナです」
さっきの店にいた準備係(?)のカナだった。
「お疲れ」
「歩いてホテルに戻るの?」
「うん、まぁ」
「したら、乗って。私の家、駅の近くでホテルの前を通るから。こっから歩いたら三十分ぐらいかかるよ」
確かに、居酒屋で軽く腹に入れたあと二軒のバーで一杯ずつはしごし
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 5
国道244号線は、俺を馬鹿にさせた。
果てのない世界に一本だけ通っている道。
他の乗用車やトラックが走っていなければ、独り相棒で走ることが恐ろしくなるような道だ。異世界感が満載だった。
青い空、白い雲、両側にある緑。それらが永遠に何処までも広がっている。
対向のトラックが吐き出す排気ガス臭がなければ、風の匂いさえも、現実とは違った香りを放っているのではないかと思わせるほどだった。
そん
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 6
サッポロクラシックが残りわずかになる頃、彩香はやっと落ち着きを取り戻した。
「ちょっとね、彩香と会って話したいことがあって……」
――えっ、何ですか?――
当然の反応だった。肌を合わせたといえども、たった一度きりなのだから。不審に思うのが当たり前だった。
――どこに行けばいいですか?――
当然でも当たり前でもなかったようだ。
――えっ、今、何処ですか?――
俺は、ゆっくりと彩香に今
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 7
先にさっさとシャワーを浴び、バスタオルを巻いた彩香は、鼻歌を歌いながら出掛ける準備に入っていた。
本当に女は変わるものだ。
外は小雨が降っていて、昨日見えた窓からの風景は白がほとんどだった。
若さとはこういうことかと思いながら、一人でシャワーをゆっくりと浴びた。
もう伽奈のことを話すのに躊躇いはなかった。
念入りに身体を洗って、髭をそり、身体を拭いてから鶏冠をドライヤーで乾かした。
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 8
朝からぶ厚い雲が空を覆っていた。
目覚めはマシで、体調はいつも通りだった。
シャワーのあとPCで天気予報を再確認する。今夜の宿は、ウトロから知床峠を越えた羅臼にとっていた。オホーツクそれも斜里辺りは時間帯にもよるがどうも空模様が怪しい感じだった。
今日の最初の目的地は、当麻町のカントリーサインと道の駅だ。
珍しく腹が減っていた。昨日ゆっくり休んだのが良かったらしい。
国道39号線は本州
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 9
朝は五時に目覚め、温泉でひと風呂浴びた。
露天風呂から見える空には雲が居座っていた。
熊の湯と変わらない強酸性の強い泉質の温泉は、俺の身体を軽くさせていた。だが、奥底に溜まった疲れは抜け切れてはいなかった。
もしかしたら、の僅かな望みを抱いて、昨日展望が悪かった知床横断道路を上った。しかし、頂上付近は雲の中だった。だけどUターンして、昨日は真っ白だった展望台からは雲間に国後島が綺麗に見えた
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 10
街は車線が二車線に増えて曖昧に現れた印象だった。
最果ての駅・根室の駅舎は、想像以上に小さく可愛かった。
駅の傍に繁華街はなく。駅前の小さなロータリーにあった観光インフォメーションセンターに立ち寄ってこの街の情報を入手した。彩香からの電話で検索が中途半端になって、伽奈へのメールの文面を考え送ったところから記憶がないのだからしようがなかった。
色々と詳しく訊こうと思ったのだが、あとから来た観
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 11
道東の根釧地区には霧が良く似合う。そして、熊も似合う?
いやいや、公園のモニュメント近くのベンチに座り、宙を見ながら缶酎ハイを呑んでいるのは、熊のようなガタイをしたアイヌの猟師、阿寒のショウちゃんだった。
「伽奈、俺は栄町平和公園にいる。ちょっとここで呑んでるわ」
俺はそれだけ言って電話を切った。伽奈にちゃんと伝わったかは知らない。
阿寒のショウちゃんはまだ呑み始めらしく、手にした缶の他
ロング・ロング・ロング・ロード Ⅱ 道東の霧 編 エピローグ
昨日は一日中、釧路の街は雨に煙っていた。
俺の道東最後の一日は、ホテルの部屋と近くの喫茶店と駅構内のコンビニ、それからホテルに併設された居酒屋で締め括られた。
窓から見える今朝の空には道東色の青しかなかった。
最後に冷蔵庫に一本だけ残っていたお茶のペットボトルをヒップバッグに入れて部屋を出た。
まだ動き始めたばかりの釧路の街を、俺はしみじみとした思いで走った。そんな気持ちにさせる道東だっ