「バフチン」 桑野隆さん
ただひとりの参加者のもとでは、美的な出来事はありえない。自らを超越する何ものも持たず、また外部にあって外部から限定するものを何ひとつ持たない絶対的な意識は、美的なものとはなり得ない。・・・美的な出来事は、二人の参加者があってはじめて実現するのであり、2つの一致することのない意識が前提となる。
主人公と作者が一致していたり、おたがい、共通の価値をまえにして並んでいるだけであったり、あるいはまた敵同士であったりする場合には、美的な出来事はおわり、倫理的な出来事(風刺記事、宣言、弾劾演説、讃辞、謝辞、悪罵、自己弁明の告白等々)が始まる。
また主人公が、潜在的なものとしてさえも全然存在しない場合には、認識的な出来事(論文、論説、講義)となる。
さらにはまた、もうひとつの意識が、神の包括的な意識である場合には、宗教的な出来事(祈り、礼拝、儀式)が生じる。
このように「美的な出来事」あるいは「創造的な出来事」には〈他者〉が欠かせないという考えは、バフチンのその後の全著作をつらぬいている。
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