【論考】フリー・ガイ:AIは愛の夢を見るか
※本投稿には映画「フリー・ガイ」のネタバレを含みます。
2021年8月13日にライアン・レイノルズ主演の「フリー・ガイ」が劇場オンリーで上映された。
仕事の都合上、公開当日に劇場に行くことはかなわなかったが、今日ふと思い出して見てきた。
ゲームの世界が舞台の映画、ということで、個人的には「ピクセル(2015)」の思い出もあり、本作はあまり期待してはいなかった。
だが、本作はちゃんと映画だった。ビデオゲームをテーマにしてユーザーを釣るような映画じゃなく、しっかりとクリエイターのメッセージが詰まっている名作と言えるだろう。
本論項では、この「フリー・ガイ」について、各章ごとに視点を分け、レベル付けしながら作品分析を行う。後半に行くほどレベルは上がる。作品の本質に切り込む。最後の方は有料記事にするが、本作をもっと楽しみたいという、興味のある方は100円ばかし銭を投げてほしい。
では早速作品を分析していこう。
▼LEVEL1 娯楽映画としての「フリー・ガイ」
本映画は、GTAオンラインのような暴力強盗何でもありのMMO「フリー・シティ」を舞台に、ゲームのモブキャラ(NPC)に過ぎない「ガイ」が、ある日理想の女性「モロトフガール」に出会って自身の世界の真実を知り、やがてサービスが終了してしまうこの世界を救うために活躍する映画だ。
というあらすじも大事なのだが、本作はビデオゲームがテーマということもあり、色々と笑えるネタが含まれている娯楽映画だ。それも上品なネタじゃなく、色々と下品。
死体撃ち、エモート連打を始めとして、屈伸煽り行為はもはやこういったゲーム映画にはお馴染みのネタな気がする。
個人的に面白かったのは、無意味にその場で回転したり、壁に向かって歩き続けたり、壁ジャンプを繰り返したりなキャラがいたことだった。
いやぁ、いるいる。MMOにこういう奴いる。壁抜け出来ないかトライし続けたことは私にもある。
ライアン・レイノルズにはお馴染み(?)のパロディネタも、イジりっけたっぷりで出てくる。
ロックバスターは出てくるし、今回もMARVELネタをやってくれたのはうれしい。
シールドアイテムのアイコンがどう見てもキャプテン・アメリカのシールドで、それでオチたかと思ったら、クリス・エヴァンズが出るし、アベンジャーズ:エンドゲームのあの曲が流れるという三段オチが見事だった(最高)
こういったオタクネタもありつつ、暴力的なゲームが舞台でありながらも残虐的な表現をしようせずに上手く笑いを取る映画になっているため、カップル向けだったり家族向けの作品に仕上がっている点も素晴らしい。
劇中歌の使い方も面白く(特にジョーイ・スキャベリーの「Theme from The Greatest American Hero」が流れるシーン)安心して見れる、完成度の高い娯楽映画として楽しめる。
▼LEVEL2 サイエンスフィクションとしての「フリー・ガイ」
本作はゲーム内の世界で物語が完結するわけでは無い。
前章で記載した「ガイ」の意中の人「モロトフガール」はモブキャラではなく、肉入りのプレイヤーである。
「フリー・シティ」というMMOは、劇中でスナミというビデオゲーム会社が開発と運営を行っている。
スナミの代表はタイカ・ワイティティ演じるアントワンというクセ凄男で、数字と利益にしか考えがまわらない、ゲーム自体はどうでもいいというような男だ。
もちろんそんな男がゲームを作るわけもなく、「フリー・シティ」というゲームは「モロトフガール」の中の人であるミリーと、今はスナミ社のクレーム対応部門に所属しているキーズという天才プログラマー、この2人がインディーゲー開発者の時に制作していたゲームを盗用して作り変えたものだったのだ。
ミリーとキーズが作っていたゲームの特徴は「成長するNPC」だった。つまり人工知能=AIである。2人のゲームはスナミ社によって買収され、あげくボツになり、ソースコードだけが「フリー・シティ」に盗用された。
「ガイ」はミリーとキーズが作った成長するNPCであり、作中世界初のAI。その成功例と言うサイエンスフィクション要素が本作にある。
「モロトフガール」に恋をしたおかげで、「ガイ」は自身の生活に組み込まれたルーティンから外れ、プレイヤーが身に着けているサングラスを強奪し、世界の真の姿を見ることになる。
自身の世界の真実を知るという要素は「マトリックス」を感じさせるし、サングラスを通して世界の真の姿を見るという構造は1988年の「ゼイリブ」というSF映画を思い出す。
「ガイ」はサングラスを手に入れ、世界の真の姿を見る。が、それがゲームであるという理解することは出来ない。「モロトフガール」に恋をし、彼女を追いかけ、気を向かせようと行動する。
そこで彼女に提示されたのは「レベル100」になったら話を聞いてくれる。という条件だった。
しかし自分の世界がゲームとは気づかず、自分がAIだということも気づかず、「ガイ」は「モロトフガール」側の一員だと誤認して行動をし始める。
ただ、彼女から示されたように「銃を奪う」という「いい事」について何の疑問も抱かないまま、束縛から抜け出し、世界を完全に理解したとして勘違いしたまま「ガイ」は使命を遂行し続けるのだ。
このように「フリー・ガイ」は娯楽映画でもありながら、ストーリーラインを見ると、世界の真実を知った男、しかしそれはAIで、AIが自身の創造者の命令を聞いて、忠実に行動をしていくという流れになる。
立派な、まったくもって立派なSFである。
▼LEVEL3 ラブストーリーとしての「フリー・ガイ」
「ガイ」が日常ルーティーンとしてのプログラミングから抜け出した理由はたった一つ。
それは「愛」である。
しかしまぁ、ライアン・レイノルズを劇場で見ているといつも「愛」がテーマの作品を見ている気がする。監督・脚本は違うが、彼が再ブレイクしたと言える人気作「デッドプール」では男女間の、それも現代版美女と野獣というような、肉欲を越えた先にある純粋な愛がテーマだったし、続編の「デッドプール2」では本編中で言及されるくらいに「家族愛」。もっと深堀するならば血縁あるなしに関わらない「社会集団に属する愛」といったテーマを見事に描いた。
まさにコメディで愛を語る照れ隠しをしているようにも見えるライアン・レイノルズだが、
本作「フリー・ガイ」では「創造主と被創造物の愛」。「親子愛」がテーマだと言える。
「ガイ」は元はと言えば、ミリーとキーズが作ったAIプログラムである。いわば2人の子どもともいえるものだ。そんな「ガイ」にはキーズが仕込んだ片思いプログラムが組み込まれており、その片思いのモチーフこそがミリーだった。
だから「ガイ」はミリーこと「モロトフガール」に惚れたのである。
ただ、ホントは成立するはずのない愛だった。何故ならそれはあくまでも「片思い」プログラムであり、ミリーがプレイヤーとして「ガイ」の前に降り立たなければ、つまり「フリー・シティ」というゲームが存在しなければ「愛」は幻想だったのである。
「ガイ」が持っているこの愛の感情。それはキーズのプログラミングによって組み込まれたもの、後天的な愛の感情ではなく「ガイ」がこの世に生み出されるより前に備わっていた、先天的な、本能的な愛と言える。
そして、その「愛」の矛先は、キーズが思いを寄せていたミリー。つまり、自分を生み出した父であるキーズの相手、母親としての「ミリー」に対する愛。
人が物心つく前から、様々なところに配慮をして言葉を選ぶならば、親を嫌いになる前から持っている、子どもの親に対する無償の愛の欲求。それが「ガイ」の持っている愛の構図と言える。
そしてミリーは「ガイ」の愛に答えた。あまりにも自分に似ているから、共通項があるから、そんな人が自分に愛を向けた。まるで半身ともいえる「ガイ」から向けられた愛から受けた愛に答えた。たとえそれがクリエイターと、作品という関係性であっても、それは確かに「親子愛」なのだ。
「親子愛」という要素は、主人公サイドと悪役サイドの対立構造でも明確に表現される。
ミリーと「ガイ」が愛というモノを知覚する一方で、悪役であるアントワンは自身のキャラクターに愛というモノを感じていなかった。彼が数字と利益にしか目がなく、自身の社員も、自分の創造物も何とも思う所はなかった。
だからこそアントワンは負けた。彼は数字と利益にしか価値を見いだせず、ミリーやギースが気付いて、言葉にしていたそれ以外の大切なもの、「愛」に気づくことが出来なかったのだ。
そしてミリーは「ガイ」との愛の中で、「ガイ」が自分を愛し、自分が「ガイ」を愛す理由を最後にようやく気付く。それは「ガイ」が自身の役割に気づき、自身の役割を果たして自由になったからだ。
ミリーは「ガイ」が持っていたキーズの片思いプログラムに気づく。「ガイ」という子どもに持っていた愛は、その愛は元を辿れば、ともに「ガイ」を作ったキーズ。「ガイ」の父親であり、自身に愛を向けた相手であることにミリーは気づくことが出来たのだ。
ちなみにキーズの同僚であるマウサーというプログラマーがいるのだが、キーズの愛に気づいて外に駆け出すミリーに対して「遅ーよ!(Finally!)」と叫ぶシーンがある。視聴している側も中盤で片思いプログラムの話をされているので、まったくもって同じ言葉を叫びたくなる名シーン。
さて、ここまで娯楽映画、サイエンスフィクション、ラブストーリーといった視点で「フリー・ガイ」を分析したが、ここまではまぁ、一般的な感想といったところ。
そしてここからが「フリー・ガイ」の、さらに奥深くへ立ち入った分析。「フリー・ガイ」という作品の持つ真のメッセージ。クリエイター自身の哲学に立ち入っていく。
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