最近noteで読みがいのあった小説 2024.9
「通り魔犯の元彼女」(Sophie さん)
note創作大賞2024の中間選考を通過した作品です。
結婚指輪を買ったすぐ後に、通り魔に遭遇。その犯人は中学生の時に好きだった男性、というところから始まる物語です。
卒業以来の生活や、犯行の動機を探ろうと、女性はいろいろなところに出かけます。行動力のある人です。頭でっかちではないし、ロジックでもないし、内面は感情がメインで書かれているんです。
過去にいい人だったという印象は、どんなにか時間が経過しても、変わらないものなのかもしれないなと思いました。
いい人と行動は別という考え方もあるけれど、悪いことをした人は、いい人とは言えないのかな、よくわからない。
犯行の動機も、供述を翻したことも彼の感情によるものです。たいていの感情は、無意識の価値観に起因すると思うのですが、この作品に出てくる感情は、違うようです。その人なりの「世界は、人生はこうあるべきだ」という意識的な価値観に基づいていて、そこから外れるものは許されない。筋、つまり理を通すべきだという論理、ロジックを経て、感情が生まれ、行動につながっているのだと思います。意識しているからこそ、これでいいのかという葛藤がある、本当に信じていいのかという悩みがある。そういうことを考えさせられる作品です。
上村としては、最後、本当の脱皮した自分を相手が見てくれていると分かったところが読みがいのあった最大の要素でした。婚約者がこういう人だったとは、意外でした。
「クラクションは霧の中で」(よなかくん)
note創作大賞2024の中間選考を通過した作品です。
全七話。兄妹弟の三人の記憶を巡るミステリアスな小説です。
茫漠というイメージが湧きました。
父親の失踪が三人の関係に起因するのか、それとも関係の原因なのか、確かなことは何もないけれど、父親としてやっていく自信がなくなったのかなと 上村は思いました。
唯一、導く存在、メンターとしての叔父さんがいい味を出しているし、登場人物と関わる霧中にさまよう恋人たちも それぞれの感情によって動いている様子がわかるし、すれ違う対向車くらいの存在かもしれないけれど、ひやっとさせはする人もいて、読みがいがあるなと思いました。
最終話まで読んで、タイトルに納得しました。
「ダイヤモンドより無価値なわたしは」(岩月すみか さん)
まだ第一話しか読んでいないのですが、奇病と社会カーストを絡めた これまでに読んだことのない設定の小説です。生きている間は無価値、蔑まれていたのに、亡くなると体重、容積分の価値になるというのは、なんとも皮肉で。ある意味では、亡くなると子どもに相続させられる財産に近いかもしれません。周囲の人は愛情がない限りは、早く亡くなってほしいと思うでしょうし、命ではなく、ただの財産にしか見えなくなっていくでしょう。怖いですね。社会カーストに重点を置くと、社会スリラーになってしまいます。
「君を数える」(Haruko Mori さん)
全19話。
上村は いまのところ11話まで読んでいます。
一人ツッコミなどはコミカルな感じもするのですが、全体として静かな時間が流れているような気がします。
事故で十人しか覚えていられない体質になった高校の同級生 西条さんに再会した吉井くん。十人は自分で選んで覚えていることにしたメンバーなので、アイデンティティとも関わるかもしれませんね。
会うたびに自己紹介から始める関係なのですが、すこしずつ仲良くなるのが早くなっているようです。無意識に影響しているのかな。
そういう事情があっても悲壮感があまりなく、本音をさらけ出せる友人もいて、そういう人がいない吉井くんは羨ましさを感じるのです。ここから彼の心も変わっていくのかなという予感があります。
高校の卒業アルバムが燃やされるという事件もあって、そっちはミステリーなのですが、今読んでいるところまでだと純文学の雰囲気で、それも好きです。
「イートインで逢いましょう」(考える犬くん@音楽の話をしよう さん)
note創作大賞2024の中間選考を通過した作品です。
全六話。
頻繁に通うコンビニエンスストアのイートインで出会うスーツ姿の女性と、部活帰りの男子高校生の 友情や恋といったような 決まった名前のない関係性が安直でなくていいなと思います。だから却って、「友達なんだから当たり前」のような 関係性の概念、価値観といったものに捕らわれずに、本心から行動できたし、傷つけあわないのかもしれないと思いました。
上村は年上の女性と、何かに打ち込む高校生、お節介、好意、うつという要素から「言の葉の庭」という映画を想起しました。
この作品では、高校生が自立の意味に気付くところが好きだし、作為を感じずに、自然に高校生が成長していくところもいいですね。
特に印象に残ったのは、いいセリフが多いところです。
「結局のところ私たちは、何が正しいかなんてわからないのよ。だから、正しいと思ったことをやるしかないの」
というセリフが、一番記憶に残りました。
忖度しすぎず、ですね。