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物語のAI分析 | 視聴者まで橋の下の突き落とす演出の意図 「チ。 -地球の運動について-第5話」

もうずっと下り坂のシリーズです。『チ。』のアニメ1〜4話をみてきたわけですが、原作がジャンプやサンデーだったらあり得ないくらい暗い。どのくらい暗いかを確認するために、1〜5話までの感情遷移をまとめたのが下のグラフです。

チ。1〜5話の感情遷移

今までも「暗い、暗い」とは思っていましたが、第5話は橋から落ちるほどに暗い。ドボンと川に落ちてます。特に第5話は、4話までの落ち方が優しく思えるくらいに暗い回でした。

突き落とされた視聴者は何を思うのか?

前回は、物語全体の感情遷移を主導する話者を探すことで、AIが物語の主人公を認識できることを示しました。ただし、つねに主人公が決まっているわけではありません。『チ。』第5話の話者別の感情をGPT 4o miniで分析したのが下のグラフです。

チ。第5話の感情遷移(話者別)

実線が物語全体の感情遷移です。Aパート最後のノヴァクの台詞「ほっといても何もできやしないさ」まで、感情は急勾配で下がっていきます。Bパートではしばらく均衡状態になりますが、14:17ごろのオクジーの台詞「あ…すみません。それは無理です。」から雲行きが怪しくなり、物語のトーンは再び暗くなり始めます。このグラフをみても、どちらが主人公なのかは判別しにくいです。

全体的に感情遷移をみると、前回はポジティブな発言の多かったグラスまでネガティブ側に寄っており、終始ネガティブな発言を繰り返すオクジーと相まって、物語を暗くしているわけです。

視聴者を突き落とすのはなぜか?

アニメ作品も娯楽ですから、何らかの形で視聴者を楽しませないといけません。では、この作品はなぜここまで暗いのでしょう? そのヒントは5話のいくつかの台詞にちりばめられています

  • もう一度…空を見たいとは思わないのかい?

  • 難しいことかもしれないが、もう一度この世を肯定したいんだ

  • 2つ目は、1つ目全部無視してこの世界に期待することだ

  • それが喪失まみれのこの世界から生まれた、ある種の希望だ

どん底に落とされたからこそ、そこからはい上がり、天を仰ぐ喜びがある。橋の崩落シーンは、そういう想い、登場人物や視聴者の感情を舞台として表現し、「ねぇねぇ、いまこんな気持ち? どんよりしてるでしょ?」と語りかけている。そんな演出のはずです。

「もう十分に暗い話には付き合った。早く明るい話、希望を見せてくれ」

そんな気持ちに視聴者を誘導するのが1〜4話までの役割だったのです(断言)。

そして、5話の最後に登場するバデーニ。この一癖も二癖もありそうな人物に、視聴者まで希望を見いだしてしまいます。やっと味方になってくれる人が現れたのでは? 5話が物語の谷底であることを期待して、6話が楽しみになる回でした。

石造りの橋が崩落し、剣士が蔦に捕まってぶら下がっているシーンをアニメ風に描く。剣士は世界の知識を同僚に託し、満足な表情を浮かべながら、今にも濁流に呑み込まれようとしている。イラストは鮮やかでドラマチックな色彩と、詳細な陰影が特徴で、16:9の比率で描かれている。

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©魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について―製作委員会

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