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物語のAI分析 | AIはアニメの主人公を認識できるのか? 「チ。 -地球の運動について-第4話」

『チ。』第3話を題材にした分析では、感情曲線の転換点にどんなセリフがあるか確認することで、AIが読み取った物語が原作者の意図とどう一致しているか、アニメ作品としての演出も交えて紹介しました。前回までと同様、『チ。』第4話の感情をGPT 4o miniで分析したのが下のグラフです。

チ。第4話の感情遷移

Aパートこそややポジティブな場面があるものの、Bパートでは感情が少しだけポジティブに向かったあと一気に駆け下る構成です。「天国最高」「早く行きたい」「生まれてすいません」と連呼したくなるほど暗いです。

物語の主人公とは何か?

「私」「俺」など、一人称視点の小説であれば、登場人物のうち、誰が主人公であるかは明確です。一方、アニメの主人公はどう判別するのでしょうか? 主人公の心の声をナレーションで入れれば明確ですが、本作のようにナレーションが入らない作品では、形式上の主人公はスタッフロールの順番で区別したり、字幕の色で見分けたりするのが一般的です。4話のスタッフロールでキャストの先頭はオクジーですが、人間が本編だけをみて「このキャラクターが主人公ではないのか?」と感じる根拠は何から生じるのでしょうか?

過去には、手塚作品の主人公を耳の描き方で判別する研究もありました。物語の理論にもよりますが、主人公とは「物語の進行をリードする登場人物」と言えるでしょう。特にテレビアニメ作品では30分弱の放送時間中、テレビの前に視聴者を居続けさせる必要があります。そこで、視聴者の感情を揺さぶって、この人物の感情を追いかけて観てください、という形式にすることが多いです。

第4話の感情極性の累計を話者別にしたのが下のグラフです。

チ。第4話の感情遷移(話者別)

1枚目のグラフと同じく、紫の実線が物語全体の感情曲線です。全体的にはネガティブに下っていく類型ですが、話者別にみるとオクジーの感情曲線が物語全体の曲線とほぼ一致しており、ここから主人公はオクジーである、とAIが判別できそうです。

一方、オクジーの上長であるグラスは一貫してポジティブに寄っており、オクジーのネガティブな感情を際立たせる役回りなのだとわかります。

面白さを醸し出す意外性の演出

東京ディズニーシーのアラビアンコーストにあるマジックランプシアターでは、自称“世界で一番偉大なマジシャン”シャバーンが「偉大なるマジックにはサプライズがつきもの!」と言ってショーが締めくくられます。物語が一辺倒に進行すると先が見えてしまい面白くなくなるのです。

アニメ作品でも事情は同じです。上のグラフでは、全体の感情曲線とオクジーの感情曲線にはギャップが2箇所あります。ここで、オクジーの感情に追随しようとした視聴者は、「あれ、このあとどうなるんだろう?」と思うはずです。ここでどんなセリフがあるのか確認してみましょう。

最初のギャップは、グラスが火星について熱く語るシーンです。上級市民に「生まれてすみません」と連呼するオクジーに対して、グラスが明るい話題を振って慰めるのです。「人も地球も捨てたものじゃない」なんて言ってくれるなんて、中世的に最高の上司ですね。二度目のギャップは、護送中の異端者に揺さぶられるシーンです。処刑される運命の異端者に「正直かわいそうで殴る気も起きない」というオクジーに「天国など本当に存在するのか」と問いかけてくるのです。

ここで、ふたつのセリフが対称的であることに気付きます。主人公オクジーの感情が揺れるシーンで、アニメ作品を提供する側は視聴者の心を揺さぶって、そのまま番組を見続けさせようとしてきます。一方では「人も地球も捨てたものじゃない」と言い、もう一方では「天国など本当に存在するのか」と言って、オクジーはどっちを取るんだ?と次回につなげているのです。

マンガ/アニメのセリフにはひとつの無駄もないはずですが、こうしてAIで分析するだけでも、作家の偉大さがわかります。プロってやっぱりスゴイですね。

中世のポーランドの夜道を舞台に、16:9の比率で描かれたシーン。馬車が異端者を護送しており、護衛の2人の剣士と異端者が車内で緊張感のある議論を交わしている。1人の剣士は異端者の独特な世界観に影響を受け、信心が揺らいでいる様子が見られる。異端者は強烈で魅惑的な存在感を放ち、薄暗い馬車内に張り詰めた雰囲気を作り出している。背景には月明かりに照らされた暗く霧の立ち込める森が広がっている。ポーランドの画家ヤン・マテイコの作風で、豊かな質感と落ち着いた色合いの歴史的リアリズムで表現されている。

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©魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について―製作委員会


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