『問題』は会話の中で作られる:社会構成主義的アプローチの実践ガイド
前回までの記事で、社会構成主義の基本的な考え方とガーゲンの思想について解説してきました。 今回は、これらの理論を実践に落とし込む具体的な方法をお伝えします。
1. 具体的な対話テクニック
1-1. 問題の外在化(externalization)
問題を人から切り離し、対象化して扱うテクニックです。
従来の表現 → 外在化された表現
「私は不安症です」→「不安があなたを訪れています」
「私はダメな人間です」→「自己否定的な考えが影響を与えています」
実践のステップ:
問題に名前をつける
具体的な名前を付けることで対象化
例:「どんよりくん」「心配性さん」
問題との関係を探る
問題が人生に与える影響
問題との付き合い方の変遷
問題への対処を考える
問題との新しい関係性
これまでの成功体験
1-2. 例外探し(searching for exceptions)
問題が存在しない、または少ない時間や状況を見つけるテクニックです。
効果的な質問例:
- 問題が少し弱まる時はありますか?
- その時、何が違っていましたか?
- どんな状況で上手くいきましたか?
- 誰かがそばにいましたか?
1-3. リフレクティング(reflecting)
会話の中で生まれた新しい気づきを深めるテクニックです。
手順:
相手の言葉を丁寧に聴く
印象に残った言葉を取り上げる
その言葉の持つ可能性を探る
新しい意味を共に構築する
2. ワークシート
2-1. 問題の外在化ワークシート
【問題の特定】
1. 現在直面している問題:
2. その問題につける名前:
3. 問題の性質:
- いつ現れやすいか:
- どんな影響を与えるか:
- どんな戦略を使うか:
【問題との関係】
4. 問題はあなたの人生にどんな影響を与えていますか?
5. あなたはその問題にどう対応していますか?
6. 問題と上手く付き合えた経験はありますか?
【新しい物語の構築】
7. 問題に振り回されない自分をイメージしてください:
8. そのために必要な具体的なステップは?
9. 誰のサポートがあると心強いですか?
2-2. 例外探しワークシート
【例外の発見】
1. 問題が少し弱まる時:
2. その時の状況:
3. 誰といた?
4. 何をしていた?
【成功体験の分析】
5. うまくいった時の自分の状態:
6. 役立った考えや行動:
7. 活用できそうなリソース:
【これからの実践】
8. 試してみたい新しい対応:
9. 必要なサポート:
10. 具体的な行動計画:
3. 実践事例
ケース1:職場での人間関係の悩み
田中さん(仮名)は「職場での人間関係」に悩んでいました。
対話の展開:
セラピスト:この「人間関係の難しさ」に名前をつけるとしたら?
田中さん: 「壁作り名人」かもしれません。
セラピスト:その「壁作り名人」は、いつ特に活発になりますか?
田中さん: 新しい人と話す時や、意見を求められる時です。
セラピスト:「壁作り名人」が休んでいる時はありますか?
田中さん: そういえば、趣味の話をする時は違います。
ケース2:完璧主義との付き合い
山本さん(仮名)の「完璧主義」との対話。
変化のプロセス:
「完璧主義の鎧」という名前付け
鎧が役立つ時/邪魔な時の区別
鎧の着脱を意識的に行う練習
新しい関係性の構築
4. よくある質問と回答
Q1: 問題を外在化すると、責任逃れになりませんか?
Q2: 既存の診断や治療と併用できますか?
Q3: 一人でも実践できますか?
Q4: 効果はすぐに現れますか?
まとめ:実践のためのチェックリスト
日常的な実践
□ 問題を外在化して考える習慣
□ 例外に注目する視点
□ 新しい物語の可能性を探る
対話の質の向上
□ 質問の仕方の工夫
□ 積極的な傾聴
□ 新しい意味の共同構築
継続的な振り返り
□ ワークシートの定期的な活用
□ 成功体験の記録
□ サポートネットワークの構築
【次回予告】 次回は「ナラティブ実践」について、さらに具体的な方法をお伝えします。 物語を書き換えることで、新しい可能性を見出す方法を学んでいきましょう。