【ショートショート】美味しいって言うかコーヒーの味だと思って飲んでる
「コーヒーさあ」
「ん?」
「美味しいって思って飲んでる??」
「ええ…」
「ぶっちゃけようぜ」
「…思ってない。コーヒーの味だ、と思って、苦いな〜って思って飲んでる。」
「よく言った」
「よくさあ、"フルーティ"とか、"深いコク"って説明されるけど。あれ、全然わからん。」
「ハイハイ、ってわからんなりに相槌打つやつね。」
「ギリわかるのは、飲みやすいか飲みにくいか。」
「もはや食べ物の好き嫌いレベルじゃん。」
「だいたいフルーティって言われるやつは飲みやすいから、品種名を覚えた。」
「変にコーヒー通に見えるやつだ。」
「正直、“エチオピアイルガチェフありますか"って聞くのめっちゃ気持ちいい。」
「それ、そのエチオピアって飲みやすい?」
「口の中モニャモニャしなくていいよ。なんか、苦味が少ない感じ。きゅうり食べて歯に膜が張るような感じが全然ないんだよ。」
「例え方ヤバいのになんか分かる気がする」
「まあ、とりあえずエチオピアがあれば選んで、グアテマラがあれば避けてってやってると自分ちょっとコーヒー通っぽいわ〜ってうぬぼれられるから。自意識ライジングするよ。」
「わかるなぁ。なんかね、意識高そうな用語って、いざ自分で使うとめっちゃ快感だよね。」
「その快感を求めて、意識高い系を追いかけている気はしてる。実際このカフェも前にキラキラ系の友人がインスタにあげてたやつだし。」
「ファンかよ」
「憧れっていうか、品質が保証されてる気が済んだよね。あの方々センスいいからな〜」
「あんたの推しが"センスは磨くもの 才能は開花させるもの"って言ってたじゃん。」
「ハイキュー!!は名言しかねえんだよなあ。」
「ていうか何、あんたキラキラ系になりたいの?じゃあセンス磨いてがんばればいいじゃん」
「じゃあ聞くけど!センス磨くって何すりゃいいわけ?このご時世、多様性云々言われてる中でさ、大衆にウケてるセンストレースしたところで、“パクリ”とか、“にわか”だの叩かれちゃうじゃん。あれ怖いんだよね。」
「センスを磨くって、別にみんなが好きなものに自分が合わせることじゃないでしょ。あと、ついでに言うと『にわか』だって別に悪いことでもなんでもないしね。とにかく、自分の好きなものは何かを知ることだと思う。そもそもあんた、磨こうとしてる自分のセンス、くっきりしてないでしょ。」
「ぇ、じゃさ、好きを知るって何すんの??」
「食べ物でも服でも音楽でも、なんでもいいの。私コレなんかわからんけどすっき〜!!って思うやつを集めんの。するとですよ、自分のセンスってやつが形をなして輪郭を持っていくから、見えてきたそのセンスの輪郭をね、キュッキュッと磨いていくんよ。」
「…すごい、なんかかっこいいじゃん…」
「そりゃカッコつけてるから。」
「好きなものなあ。大体、みんなが好きって言ってるから私も好きになっとくかあ〜って感じで好みを決めてるのよなあ」
「人の顔色見て好きって言ってると、本当に自分の感覚なくなるよ。あんたの場合さ、人に知られても無難そうなものを好きだって言うようにしてる気がする。なんとくなくだけど。」
「図星でしかねえわ」
「そんで、本当に好きなものは人には言わないでしょ。てか自分でも好きだって気づいてないと思うよ。あんた、自分がコーヒー好きだと思ってないもん。」
「え?私コーヒー好きってわけじゃなくない?普通でしょ?」
「あのな、自分の好きな品種名把握してて、頻繁にコーヒーこだわってるカフェ行くのは、立派にコーヒー好きです。」
「ええ…さっきも言ったけど、エチオピア飲みやすいってだけで覚えてるし、そんな全部の品種わかんないしなあ。私より詳しい子いっぱいいるよ?」
「それ!!そーいうとこよ!!!」
「はぁ…?」
「好きのハードルが高すぎ。好きの感情に夢見すぎ!!人と比べすぎ。なんかこれ良いなーっていうのは人よりも温度低かろうが好きであることに違いないから!!!」
「ええ…でも本当に好きな人って、なんか細かい味の違いとかも分かってて、自分でもコーヒー入れられるように頑張ってたり、なんかこう、コーヒーに関して余念がない感じすんじゃん。」
「それはもはやプロなのよ。あのね、我を失うほどのめり込める物があるのは素敵だけど、そうならないからって好きじゃないと諦めちゃうのは違うと思う。本当にもったいないと思うんだよ。てか、そこまで物事を好きになれるならバリスタの資格取ってカフェ開けるわ!!」
「たしかに…」
「別に、好きレベル選手権出てるわけじゃないんだよ。低温やけどが火傷であるみたいに、ローテンションでもにわかでも、好きなものは好きなの!!オッケー??」
「ぉ、OK…勢いがすごいな、超力説すんじゃん。」
「きっとコーヒーのせいで酔ってるんだわ。」
「カフェインで酔うなww」
「なんか、あんたがようやくコーヒーへの好意を自覚してくれたようで、なんか嬉しいんだよ。幸せになれよ。」
「いや少女漫画じゃねえんだよww」
「いいじゃん、晴れてコーヒーと両思いじゃん、おめでとう」
「やめてくれ、コーヒーが不味くなる」
「コーヒーおいしい?」
「苦いです。」
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