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私を嫌いな彼が忘れられない話
昔のメモを見返して、ある人を思い出した。
「気になる人ができた。なんで気になるか考えたけど、多分あの人が私のこと嫌いだからだと思う。そして、私があの人を嫌いになれないからだと思う。これは恋愛感情ではない、人間的な興味でしかない、そう言い聞かせている。わからない。」
こんなメモを見つけて、その人の声まで蘇ってきた。さすが私、過去の記憶力は恐ろしく良い。
その人は、なんとなくクラスでも目立っていた。そして、なんとなく私のことが嫌いなのだろうな、と感じていたので私も距離を置いていた。とても仲が悪いというわけではないが、限りなくそっち寄りで、仲が良くはなかった。
でもなぜか、クラスの入り口ですれ違ったときに、私が脳内で口ずさんでいた歌を彼が口ずさんでいたり、何かの拍子にハモッてしまったりした。
1番の衝撃は、国語の漢詩の授業だったと思う。各自が漢詩を読んで感じたことを、自分で自由に詩として書き出した。それを最後に匿名でクラス内で公開し、自分がいいと思った作品に1人一つだか三つだか、投票してコメントをつけた。
クラスで人気上位だった作品を先生が発表した。私が投票した作品があった。作者も発表された。彼だった。私は、彼の作品に投票していたらしい。残念だが、人気上位に入ることもなかった私の作品に、コメントが3件ついていた。ちょっと嬉しくなって、まじまじとコメントを読む。コメントには名前がついていた。驚いた。彼がいた。
彼が投票した詩の作者が私ということを、彼は知らない。私だけが、お互いに票を入れたことを知っている。たぶん、今も、覚えているのは私だけだろう。
まあこんなことがあったので、好きとかじゃないけど、なんか引っかかっていた。
私は純粋に興味があった。この人は私にはない思考回路を持ってる、でも私と揃う瞬間が少なからずある、なんでだ?どんな考え方をしてるんだ?羨ましかったし、憧れていた。
そんなことを考えても、まあ相手は私のことが苦手そうなので距離を詰めるわけにもいかない。時間が経ちクラスが分かれると普通に他人になった。
そんな人のことをふと思い出して、あれはなんだったんだろうと思った。
正直、あんな興味の持ち方は初めてだった気がする。この人はなにを考えてんだろう。恐ろしく純粋な尊敬と興味だった、恋と呼ぶにはあまりにも色がなかった。ただ、仲良くなって話がしたかったなぁと思う。これはなんと呼べばいいんだ、と色々考えてみたが、やめた。
自分に解釈違いを起こしたのだ。なんか嫌だ、片思いみたいだ、柄じゃない。でも、その人のことを思い出せてよかった。人生においてそんな人がいても、いいと思うのだ。