【小説】『この学校、大丈夫なのか?』vol.1
「はい、じゃあ、今週の授業はこれで終わりですー」
先生の声を受けて、号令係の人が、
「きりーつ」
と言ったとき、ぼくは、
「え、あの、先生!」
と声を上げた。
ぼくたちのたんにん、青山先生が、
「金川くん? どうしましたか?」
とじしゃくがついた大きな三角じょうぎを黒板から外しながら振り返った。
「今日も宿題、ないんですか?」
ぼくは何日かに一回くらいくりかえしているその質問を今日もする。
先生は、はぁ、とため息をついて、
「ないない、ないんだよ。何回も言うけど、うちの学校には宿題はないんだよ」
と答えた。ぼくは、んー? とふしぎな気持ちになっていたけれど、先生が、「じゃあこれでいいかな?」と言うように、
「中原さん、号令おねがいします」
と言って、中原さんの
「気をつけー、礼ー」
という声がひびき、みんなで、「ありがとうございましたー」という声をひびかせた。
自己紹介がおくれたけど、ぼくは、二週間前にここの小学校に転校してきた、金川大和(かながわやまと)。
クラスメイトはみんな個性的ではあるんだけれど、どこかクラス全体になごやかな空気が流れていて、とつぜんの転校生のぼくにも、みんなやさしく接してくれている。
ただ、どうしてもふしぎなことが。
この学校には、宿題、テストがぜんぜん無いんだ。
最初の頃は、たまたま宿題とか無い日なのかな、って思ってたんだけど、先生の口から、宿題の「し」の字もテストの「テ」の字も聞かなくて。ぼくは何日かに一回、さっきみたいに質問をしているんだけど、どうやら学校として宿題やテストがないみたいで。
いや、うれしいんだけど。中学校とか高校に行ったら、宿題とかテストとかたくさんあるでしょ?
それなのに、小学生のうちにこんなに宿題とかテストとかなくていいのかなあ?
低学年ならわかるけど、ぼくたちもう5年生なんだよ?
だからいつも帰り道にぼくは思う。
「この学校、大丈夫なのか?」
って。
(つづく)
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