愛してるけど
ある日、
二十歳にもならないくらいの時、友達に言われた。
「二次元とは違うよ。生きてる人は温かいし、少女漫画やゲームみたいなことは起こらないけど、ずっと嬉しい。幸せだよ。」
彼女とは漫画喫茶のバイトで知り合った。小柄で可愛くて優しい。お酒が好きですぐ仲良くなれた。
私より歳が一つ上の21歳。女の子の友達がいないらしい。このバイトが生まれて初めてのバイトなんだそうだ。
たまに口の端が切れていたりしたし長袖しか着なかったけどいつも遅刻しないし、ずっと笑ってたし、可愛い服を着ていた。
彼女は飲み屋に行くと、よく彼氏の話をしてくれた。
ひとまわりと少し年上の男だ。
「彼君ね、優しいし私のこと一番わかってくれてるの。10代の頃援助交際とかしてたんだけどさ、
彼くんお客さんできてくれたのに、私のこと叱ってくれたの。今もたまに乱暴な事するけど、私のこと心配してくれてて。愛されてるなぁって思うの。」
彼女はお酒を飲むとそれはそれは幸せそうに、暴力を振るう彼氏との惚気を聞かせてくれた。
彼女の話はどれもこれも私の世界にはないものばかりで新鮮で刺激的だった。
セックスに愛、それに伴う暴力。沢山のお金。複数人と関係を持つこと。全て私の知らない、現実味のない話だった。
彼女はよく愛の話をしてくれて、
私には口を挟む隙すらなかった。
そんな人と居たらきっといつか壊れてしまうよと、私は彼女に言えなかった。
あまりにも幸せそうだっし、
愛してくれてるから大丈夫だと、彼女に言わせるのが私自身怖かった。
今その彼氏がいなくなればきっと瞬く間に今の彼女は消えてしまう。
愛してる、好き。ずっと一緒にいたい、彼との子供が欲しい。
一通り惚気れば酔いも回ってそんな事もいっていた。
「彼君ね浮気してるみたいなの。でも私のとこに戻ってきてくれる。
私にもね、遊んでいいよって言ってくれるの。お仕置きされちゃうけどそれも嬉しい。
だからいいの。」
そんな話をした夜、彼女は隣の席にいたサラリーマンにナンパされた。
辞めときなよと一応制止したけどニコニコしながら、気をつけてねといってそのサラリーマン風の男とどこかに行ってしまった。
彼氏はきっと怒るんだろうな、怒ってまた乱暴したりするんだろうな。
でも暴力も大事にされてると、感じるのなら
もはやそれはただの愛を含む行為の一環なのか。
そんなことを考えながら一人電車に乗って帰宅した。
赤ちゃんができたと聞いたのは、そんな話をした数年後であの頃と変わらない可愛い顔で話してくれた。
その例の彼氏と結婚するらしい。
幸せ。◯◯ちゃんも幸せになってね。
と彼女は私に言った。
袖からはチラと沢山の古傷が見えた。どうやらずっと消えないみたいだ。
私は結局恋人なんてできないまま、二十四歳になった。
恋愛をしたかったけど私を好きになってくれそうな人を誰一人好きになれなかった。
未だに彼女言う、愛が分からない。他人と相思相愛でいる事で感じる幸せもわからない。
歳だけ大人になってしまった私の好きなドラマや小説に出てくる男の人は
好きだけど、愛してるは重い。だとか
愛してるけど、もう好きではない
だとかそんな事を言う。
それから出会った人からも恋や愛の話を聞いたけど、どれもやっぱり私には現実味がなかった。
私はいつもの乙女ゲームを起動する。
もう5.6年前から同じソフトで遊び続けてる。
たく、久しぶりだな。よし!こっちこい
そう言ってくれる画面越しの彼の方がよっぽど私にとって現実的だった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?