素振りをするように鑑賞経験値を積む(MUBI編)/備忘録
幸福なことに、最近は面白い作品しか見ていない。
まず、子供が小さく映画館に行けず、不憫に思った夫がプロジェクターを誕生日にくれたのが大きい。
大画面で買い貯めたDVDをひたすら観て行く達成感と、作品鑑賞経験値が積み重なっていく快感はこの上ない。
この経験値は非常に大事な要素で。
鑑賞経験値は次見る映画に対する理解力が格段に上がる。
また、映画配信サイトMUBIが、作品鑑賞体験の質を圧倒的に向上させてくれた。
本当の映画好きの10%に向けたサブスク動画配信サイトということで古今東西の傑作揃い。日本では上映されなかった作品もたくさんある。
(むしろほとんどがそうかも?)
「大衆向けの商業映画志向に寄り添わなくても私は生きていけるんだ!」
という開放感に浸っている。嬉しくて泣きそう。
だが、悔しいことに見た作品の評を書く時間を作れず、備忘録として残しておこうと思う。
鑑賞した作品量が多いので、まずは最近MUBIで観た作品をまとめたい。
どれも素晴らしいので、評をじっくり書きたいのだけど…
・Reminiscences of a Journey to Lithuania
恥ずかしながら初のジョナス・メカス監督作品である。これが初で良かった。
戦争が終わり、アメリカに移住したリトアニア人が、自分のアイデンティティが何かをひたすら求める私小説的な作品。何故だかわからないが、大きな感銘を受け、心の底から悲しみと人生の無情さを感じさせる凄まじい、もっと言えば新しい映像体験だった。「何っちゅう作品なんだ!これを今まで観てなかったとは!」と嘆かずにはいられない。
幸せな時間も、地獄のような日々も容赦なく、平等に時間が過ぎていく、あるいは「現在」が無くなっていく過程は、切ないような。救われるような。
ジョナス・メカスという作家を家で観られる幸福よ!(映画館で見られたらもっと良いのだけど)また観たい。何度も観たい。むしろ、ずっと観続けていたい。
・Hotel Dallas
2016年ルーマニア映画?アメリカ映画?。
この映画を思い出すだけで幸せな気持ちになる。ファンタジーテイストで楽しげなのだが、祖国が急速に民主化し、亡命先のアメリカに失望する、居場所がない独裁主義時代のルーマニア人についてのドキュメンタリー、ファンタジーという不思議な作品だった。ポジティブな雰囲気だけど物悲しい。読後感も良いが考えさせられる。15分の短編だけど、長編を見た感覚がある。なかなかの映画体験であった。
・pendular
2017年ブラジル映画。観初めは、主人公は愛し合っている男女のカップルで、女性がダンサーであるということしかわからない。2人の間に流れる時間をじっくり撮っていて、親密さが伝わってくる。心地がよい始まり。
しかし、2人の住む場所に、男性の作ったオブジェが登場し、それが何かしらのサスペンスを漂わせる。同時に、2人の関係が崩れ始め、物語は微かに動いていく。この「微かに」がものすごく重大で、これまで流れていた優しい時間がじっくり描かれていたため、非常にドラマチックに感じる。ここから2人はゆっくりと時間をかけてズレていく。この、言葉には出てこない「ズレ」が繊細に描かれており、セックスのシーンは増えたものの時間の流れ方や会話の間などで2人はうまく行っていないと理解することができる。映像でしかできないものを表現しているのだろうか。それが挿入されているカットやシーンによるものか、カット割りによるものか…明確には分からないが、とても丁寧に練られていて、素晴らしい演出だと感動した。最終的には愛の形について考えさせられ、とても良い作品をみた感覚がある。
ずいぶんのベテランが撮ったのだろうと思ったが、驚くことに監督はまだ若い。次回作が非常に楽しみ。
・Guns of the Tree
1961年、再びジョナス・メカス監督作品。やたらオシャレで、面食らった。ジム・ジャームッシュ監督作品によく似ていると感じたが、調べてみるとジャームッシュはジョナス・メカスをこよなく愛する監督の1人とのこと。
コンセプチャルで、内容が分かったとは言い難い。ネガティブなもの、ポジティブなものは必ずしも分離できず、渾然一体なものなのだ、という話をしているのか…ポジティブでばかりいても、そこにはネガティブさを孕んでいるし、その逆も然り、ということなのか。洗練された映像の印象が心に残っているが、理解できていないというか、心にすっと落ちる解釈ができていないのでむず痒い。また見るか、というとそれも微妙。再挑戦する自分になりたい。
※補足。
主人公のカッコイイお兄さん、アメリカの影の弟役の人でした。やはりここは密接に繋がっているのか。
・Half Life in Fukushima
観ていると物悲しくなる。果たして、これが撮られた日から状況は良くなっているのだろうか。良くなる、とはどこまでを良いとするのか。震災は過去のことではなく、地続きであるという話をよく聞くが、その言葉を、ただただ「うん、そうだ」と納得するのでは、全く意味がないのだと感じさせる。良い未来とは何か、自分はまったく考えていない理想論者でしかないと痛感した。根源的に考えることが、もっと沢山あるのではないか、と。
・A Bucket of Blood
冒頭からいきなり妙である。いかにも低予算で演出も土臭い。展開も安っぽく、なんなんだ?と思いつつ、なんだか凄みのある魅力を放っている。調べてみたら、作品の監督はB級映画の帝王、ロジャー・コーマンという。ちょうど蓮實重彦氏の「ハリウッド映画論講義」を読んでいたので、B級映画の歴史的意義なや背景などを理解して鑑賞するのは、普段とは違う楽しさがあった。安さがなんだ。面白い映画は面白いのだ。
DVDを買わないと観られないなあ、と思い煩うことがずいぶん減って、MUBI後の人生はかなり楽しい。(家計も楽になった)
一方で、サブスクで観られる作品は2週間程度で観られなくなるので、良かった映画でも、もう二度と見られないかも、という寂しさもわく。
ただ、かつては映画は一期一会のもので、この一度きりの体験に人々は魅了されていたのだ。と思うと、
「いやあ、MUBI良いね、云々。」
と、またMUBIの魅力を語る無限ループに突入するのである。
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