一足立ちの疑問
茶の湯や茶道で男性が点前をするときに袴を着けないのは千家などの町人茶だけで、基本的に袴を着けて点前をする。
また、膝を揃えてつくのも実は千家の特徴である。
当流などでは、女性も左立ち膝で立ち上がるため、両膝立ち・両膝坐りを見ると違和感を感じてしまう。
千家は何故、両膝立ち・両膝坐りなのだろうか?
長着でも左膝立ちは可能
実際のところ、長着でも左膝を起こして立ち坐りをすることはできる。
というよりも、そうしないと膝がドスンと畳に付いてしまい、膝に負担が掛かって、膝の下にあざが出来る人もいると聞く。
拳一つ分だけでも先に左膝を上げると両膝立ちよりも遙かに筋力を必要としないというのに何故であろうか?
人間工学的に合理的ではない気がしており、なんらかの理由が存在しなければ、これをする合理性が見出せない。何より他の流派は両膝を揃えて立ち坐りはしないのであるから、千家に理由がなければ不自然なのだ。
こうした疑問は、流儀が違うのだからあって当然なのだが、「何故そうなのか?」と聞いても、理由を知らない人が圧倒的に多い。「疑問にも思わなかった」と異口同音に答えが返ってくる。
八戸藩伝神道無念流立居合
一足立ちを調べていたら、変わった記事にたどり着いた。八戸藩に伝わる神道無念流立居合という流派は、さまざまな特徴ある独自の技や作法を持っており、そのひとつが一足立ちという。
「その一つに「一足立ち」(両足を付けて立つ)がある。両足の爪先をそれぞれ45度に開き(両足の角度が直角になる)、前足の踵を後足の中心に付ける。」
というように、両膝立ちのことではないが、同じ「一足立ち」という名前であるのが面白い。
一足立ちの疑問
そもそも「一足飛び」などのように「両足を揃える」ことを「一足○○」というようであるから、不自然ではないように見えるが、実はおかしいことに気づく人も居るかも知れない。
何がというと、この言葉が「立ち方」ではなく、「坐り方も意味している」点が不自然なのだ。つまり、「一足坐り・一足立ち」であるならば、今は通るのだが、「一足立ち」のみで、坐法も言い表している点に不自然さを感じる。
これに対して「片足立ち」や「片膝立ち」というのは、「立ち膝」のことを意味しており、立ち方でも坐り方でもない。片膝を立てた状態にすることをいう。
その点からすると、一足立ちは神道無念流の立ち姿勢のことであると言えるように思う。
ならば、この千家の坐り方・立ち方はなんと言えば良いのか?
答えは簡単である。「両膝立ち」である。
これは両膝を畳に付けて体が立ち上がっている姿勢のことになる。ただし、この状態から上体を前に倒さず、腰を上に起こしていくのは大変だし、坐るときは多大なる筋力を要する。
つくづく千家でなくてよかったと思う瞬間であった。