パスワード
あなたは必死で腰を振っている
ハメ撮りというやつだろう
あなたの下になってる若い女は大袈裟な声を上げている
風呂に入ってる間
無防備に置かれたスマホの
パスワードを適当に押してみると簡単に解除できた
別に驚きもしなかった
浴室からは鼻歌が聞こえてくる
最近妙に機嫌がいいと思ってたから
どうせこんなことだろうと感づいてた
モラハラもパワハラもしないし
私の手料理は美味い美味いと言って食べてくれるし
収入だって充分だし
これしきのことで離婚の二文字なんて浮かんでこない
ただひとつ笑えたのが
何故パスワードを解除できたかというと
それが私の誕生日だったからだ
まったくそれじゃパスワードの意味がないでしょう
こういうところが好きだった
こんなに他人を疑わないでを社会を生き抜いて行けるものかと
心配になるくらいに
ひねくれ者の私は基本人を信じない
子供の頃からそうだった
そんな私を抱き寄せて
そんなに張り詰めなくても大丈夫なんだよと
頭を撫でてくれた夜を覚えてる
不倫という大それたことに手を染めていても
あなたって人は変わらないのね
スマホをそっと戻して
タオルの準備をした
ご機嫌で風呂から上がってくるあなたに
笑顔で手渡せる自信があった
その女といつまで続くかはわからないし
また繰り返すかもしれないけど
多分私は別れない
あなたが変わらない限り
その笑顔を独占しようなんて気は
年月を重ねるごとに薄れてゆくもの
それでも私の前で笑っていてくれるのなら
それでいい
それでいいんだ
無防備で人を信用し過ぎるあなたを
心から眩しいと思って好きになった
その気持ちはまだ死に絶えてはいない
でもパスワードは変えたほうがいいよ
ちょっとだけ嬉しかったけどさ