イルミネーション

人にもみくちゃにされるのはごめんだ
誰ともつるまずいつも一人で静かに本を読んでいる
君ならなおのことだろう
クリスマスが近づいている
一人で過ごすのが嫌だという理由だけで発生する
エセカップルが続々と誕生する
そんなんじゃないんだ
そんな僕ではないはずだ
ただ君と一緒に二人でイルミネーションを見に行きたいだけ
ネットで穴場と書いてあるところは既に穴場ではない
それは花火大会の時に学習した
もうこれは足で探すほかないのではないか
男子高校生の体力をなめるなよ
東京中歩き回ってやるから覚悟しとけ
でもどこへ赴いても周りはカップルだらけの大賑わい
まだ当日でもないってのに
これで本番ってなったら警察の出番じゃないのか
足を棒にして歩き回った結果
決して派手ではないけれどオレンジ色の暖かな灯りの
燈る大きなクリスマスツリーを見つけた
周りには何もないからこれがイルミネーションと呼べるかは
わからないけど
でも君に何だか似合ってる
うんとても似合うはずだ
周囲にほとんど人影はない
みんなお祭り騒ぎのほうへ引き寄せられてるんだろう
これがもみの木なのか植物に詳しくない僕には分からないけど
ここまで大きく育つには
俺のおばあちゃんのおばあちゃんよりも年上だろう
やっと見つけ出したぞ
ほっと安堵する一面
まだどうやって君を誘えばいいのかすら
考えつかない自分に頭を掻く
君目当てで一緒にこなしてる図書委員のおかげで
普段の会話は他のクラスメイトより多いはずだ
本当は本になんか興味はないんだ
君のそばにいたかっただけなんだ
そう言えたならどんなに楽だろう
しかしこんな童貞野郎にそんな度胸はない
考えに考えた挙句
君がトイレに行っている隙に
君が読んでる文庫本の間に手紙を挟んでおくことにした
ぶしつけな願いを聞いてもらえるなら
俺とクリスマスを過ごしてもらえませんか
君がトイレから戻って来る
俺の鼓動は早鐘のように速くなる
君は不思議そうにその紙切れを眺めたあと
ふっと優しい顔で笑った
それってどういう反応なの
廊下に隠れてる俺は確かめに行く勇気がない
ええい男だろ根性見せろよ
君の元へゆっくりと近づいて行く
君が俺の顔を見上げる
あの、と声が重なって、なんだかそれが可笑しくて
俺が笑うと君も笑った
こんな誘い方男らしくないよね
そんなことないわとっても素敵よ
楽しみにしてるから、と微笑むと
君はまた文庫本へと目を落とした
帰り道、俺はスキップしながら帰った
誰が見てようが関係なかった
心の中には早くも雪が降っている
積もったら雪だるまを作って君にあげよう
溶けて消えてしまうものを皮切りに
僕らの日々は始まるんだ

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