居酒屋の遺言

もしも私が力尽きてしまったら
あなたはもっとあなたにふさわしい人に出会って
幸せになってね
わざとガヤガヤうるさい居酒屋で
私はあなたに遺言を残した
あなたはしばらく黙り込むと
私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた
俺の幸せは俺が決める
俺は君といて幸せだからこの道を選んだんだ
でもね私が最も怖がってることをあなたは知らない
私なんかいなくなったほうがあなたは楽に生きられる
こんな病気持ちのお荷物抱えて
あなたの枷になることが
あなたを不幸にさせてるんじゃないかと思う事が
毎日恐ろしくてたまらないのよ
周囲は楽しそうな酔っ払いたちで溢れかえっていた
この店を選んだ理由
死が最も似合わないこと
そして思い出に残らないこと
うつ病と20年間戦ってきた
そろそろ楽になりたいと願うのも当然ではないか
だけど凄まじい力でそれを引き留める人間がいる
あなたのせいで死にたくないよ
一生苦しんでもそばにいたいよ
可能な限りの笑顔で伝えたはずの遺言が
ガヤガヤと鳴り止まぬ喧騒の狭間に吸い込まれて消えた

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