アプリ
天国に咲いてる花の種類を
スマホのアプリで調べても
きっと何も出てこないわよと
寝たきりのまま君が笑う
何度も繰り返してきた自殺未遂で
どうやったら確実に死ねるのかを
徐々に学習していっている
君に死なないでくれとはもう言えない
でも愛しているんだ
僕はどうすればいい
どうしたら君の本当の笑顔を
引き出すことができるだろう
浴槽の水はどす黒い赤に染まっていた
部屋には200錠を超える薬の空きカスがあった
君の意識はない
僕の記憶もない
気づくと救急病棟のベッドに寝かされた
君の横に座っていた
うっすらその大きな目を開くと
またしくじっちゃったのねと君は笑った
君の気分がいい時に近所の広い公園を
よく一緒に散歩した
いつ行ってもたくさんの花が咲き乱れていた
花の名前に詳しい君でも知らないものも多くて
僕のスマホで写真を撮って名前を検索した
僕らはそうして共に可愛らしい知識を増やしていった
重篤な病を抱えてるとは思えないほど
出会った時から君はよく笑う子だった
ぱっと花が開く瞬間を目の当りにしているような
そんな笑顔だった
その笑顔を失うことはないまま
君は音を立てて壊れていった
閉鎖病棟に緊急入院させられたときも
公衆電話から聞こえてくる君の声は明るかった
なんでだよ
なんでもっと泣いてくれないんだよ
君のベッドに突っ伏して
気づくと僕のほうが泣いていた
布団から腕を出して君は僕の背中をさすりながら
そんなきれいな涙は誰かの為にとっておいてと言った
いやだよ
君のためにしか泣きたくないよ
どうして僕を置き去りにしようとするの
おもちゃを盗られた子どもみたいな
幼稚な感情に身を任せて泣き続けた
その間君はずっと僕の背中をさすってくれていた
私が死にたがるのは癖のようなものだから
後を追おうなんて馬鹿げたことは考えないでね
そう言って君はまた笑った
天国に咲いてるの名前はアプリでは探せないわよ
君の声が蘇る
君は今頃その花の名前たちを一つ一つ覚えていってるんだろう
僕が行ったら教えてくれるかい
あの笑顔のままで本当の笑顔を授かって
咲き乱れる花畑の中にいる君を想いながら
あの公園へ出かけた
相変わらず見事に咲いてるものだ
あれはなんていう名前かしらと
指をさす人が隣にいないだけで
急にありえないほどの寂寞に襲われた
君がいない
君はもういないんだ
幸いなことに公園に人影はなかった
僕は膝から崩れ落ちると獣のような声で泣き喚いた
そんなきれいな涙は誰かの為にとっておくものよ
君はそう言ったけど
そう言ったけど
泣かせてくれよ君の為に
だって愛していたんだ
涙と鼻水にまみれた顔のまま
そこら辺の花をアプリにかけてみた
検索結果は出ません
ねえ君ここでもこのアプリは役立たずだけど
ここが天国でないことは確かだ